71:不思議とお前だと思えば
白い空間にいる。
床も壁も天井も白くて、どこに継ぎ目があるのかさえ把握できない。
――ここには一度、来たことがある。
初めて女神と出会った場所だ。
白いだけの殺風景。
ここで勇者として異世界を救えと仰せつかったのだ。
最弱のゴミ勇者としてな。
未だに思い出すとイラッとする。
久しぶりにあの感触を確かめたくて辺りを見渡すが、この白い空間にはどうやら俺一人だけのようで……。
そうか、あいつ。
まだダンジョンの中にいるんだもんな。
握った拳の行き先がわからなくなる。
というか俺はなんでまたこんな所にいるんだ?
確か魔王軍を壊滅させるために戦線に赴いて、雑魚モンスターをバッタバッタと薙ぎ倒しもう千切っては投げろの状態で無双乱舞してたはず。
ああそれで、不意に女王がちゃちゃを入れてくるものだから、それに気を取られてるうちに……剣が……?
あ、俺死んだ!?
「――いや死んでないから! ほらアギト君起きてよ! 傷は完璧に治ったんだから、いい加減に耳舐めるよ!?」
「はぅあ!」
生温かいナメクジが耳を這いずるようなおぞましさに意識を無理やり覚醒させられた。
即座に怒りのボルテージが限界突破を迎えて拳を振り上げるものの……。
「ああ、やっと起きた。死ぬ前に傷塞いだんだから気絶しないでよ!」
そこにあったのはベルの顔面だったので拳に急ブレーキをかける。
みずみずしい朱色の舌を見せびらかせるように、そしてそれは耳の不愉快さの原因を即座に発覚させた。
なぜベルが、俺の耳が弱点であることを知っていたんだ。
たまたまか? いやそれにしては確信的な物言いだった。
というかいつもと口調が変だ。
どこか上から目線で、他者は全て下郎という強い意志が感じられる。
己こそ絶対的な存在であるという絶大な自負がありありと満ち溢れるような……そう、まるで神の如き傲慢さが滲み出ている。
あのクソ女神と同じ感覚。
解いた拳に再び力が籠るが、理性を強く持って行為には至らずにいれた。
ベルを殴るなんてありえないし、ましてや命の恩人だぞ。
「ありがとう、ベル。助かった」
「あははっ、僕だよ僕。ミゼーアだよ。この宿主にあんな最上級魔法が使えるわけ無いでしょ。人格乗っ取るなって言われてたけど、今は流石に非常事態だったし、いいよね?」
……ん?
ミゼーア?
………………?
……あっ。
「ミゼーア! お前か!」
「そう僕だよ! きみの親友!」
あのバカか!
本来ならダンジョンの最奥で待ち構えているはずだったのに、なんか低層まで出てきて俺TUEEEしようとして返り討ちにあったあのバカか!
女神がクソの役にも立たないと自信たっぷりに言ってのけるユニークスキルの効果をモロに受けて俺の忠実な下僕となったあのバカか!
俺の耳を舐めたのはこのバカか!
「不思議とお前だと思えば殴れる!」
「ぴぎゃっ!」
鼻っ柱に右ストレート!
あでもすぐに回復しろよ。その肉体はベルのものなんだからな。
そんなひしゃげた鼻のままベルに人格戻したらただじゃおかねえぞ。




