70:やっぱベルはすごい
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあおお!」
兵士たちは皆、武器を掲げて力の限り吠える。
三十万人の絶叫……!
うるっせええええええ!
「【百鬼夜行】! MPを8ポイント支払い、効果を発動!」
対象はシンディ・アレンデール三姉妹・四天王。奴らを背後にぴったりと付き添わせ、ベルをぎゅっと抱えて……。
猛スピードで、戦場を駆け抜ける!
元より兵士達は戦力外なので置いていくと公言していた。
頃合に合図を送るので、瀕死だがまだ息のあるモンスターを虱潰しに見つけてトドメを刺すようにと。
そんな街の清掃活動のボランティアみたいな仕事だが、不平不満を言わせないようにうまく伝えてくれと女王に頼んだから大丈夫だとは思う。
あんな無駄なことをした尻拭いは、せめて彼女自身にやらせないとな。
景色が、あっという間に変わっていく。
そして見えてきたのは、異形のモンスター。
オオカミやらウサギやら、動物をモチーフにした姿のモノから、オーク、ゴブリン、サイクロプスといった二足歩行の人型。ごちゃまぜの混合獣まで。
モンスターのバーゲンセールだな。
さあお前ら。
――全てを根絶やしにしろ!
「戦闘開始だ! 【枷】を外せ豚共! そしてその命尽きるまで大地を肉で染め上げろ!」
「ブヒイイイイイイイイイ!」
【百鬼夜行】解除。
それと同時に散開!
奴らは各々が一騎当千。
しかも何かを守りながらとか、長期戦を見込んでの力の温存とか、そんなものは必要ない。
ありったけの全力を、今この場で解き放つのだ! 先のことなんて考えるな!
――そして。
服を脱いだ――。
服という【理性の枷】を脱ぎ捨てた豚共は、この世で最強の殺戮戦士となった。
奴隷のルーティーン。
全裸になることで、奴らは人間ではなくなる。
この世の何よりも醜く欲望に忠実なケダモノとなるのだ。
肉体のリミッターを外して辿り着く境地――!
モンスターがほこりのように宙を舞う様を見れば、ここは奴らに任せて安心できそうだな。
「ブヒイイイ!」
アナのピッグナックルは全てを穿つ。
俺の耐久力とHPをもってしても凄まじいダメージを叩き出した至高の一撃だ。
必殺の拳は敵を貫通して放射線状に魔力を伝染させ、その衝撃は広範囲の敵にダメージを与える。
「ブヒヒー!」
エルザは氷の魔法に長けた女性だった。
奴隷のルーティーンにより【氷の女王】と化した彼女を物理攻撃で打ち倒すことなど最早不可能。
己自身をも氷とする超自然支配者となりて敵の熱エネルギーを貪り食う。
「ぶひぶひ!」
オラフィス……。
彼女は、この俺ですら畏怖を感じる魔性を持つ。
とどのつまり彼女は、天性の淫魔なのだ。
ましてや人間性を捨てた今、奴に誘惑できないモノはない。この地のモンスターは全ての精気を吸われて、快感に溺れて死んでいくのだ。
そして悪魔共。
なるほど、この地に防衛線を築いてきただけの実力がある。
召喚士から離れるごとに力を失っていく契約をしているようで、ルシファーとの初対面時は実力の半分も出せてはいなかったと言う。
「フハハハ! 【時間逆行】! 生れ落ちる前まで遡って死ぬがいい!」
「うおお! 【じしん】! 【なみのり】! 【だいもんじ】! 【メガホーン】! 技のデパート・アモンとは俺様のことよ! 死にたい奴からかかってこい!」
「ケケケー! 骨をも腐らせる毒の瘴気を食らえー!」
「ツラ汚しよ!」
圧巻である。
俺はベルを抱えたまま、奴らより後方で少し足を止めていた。
「怖いか?」
腕の中にたずねると、くすっと笑い声さえ聞こえてきたのだった。
「いえ、不思議なんですが、ちっとも怖くないんです。おかしいですよね、ここではいつ死んでもおかしくないのに、まるで旅行にでも出かけたような……ワクワクすら、しているんです」
強いなあ。
大丈夫だとか心配ないとか、励ましの言葉をかけてやるつもりだったのに、とんだ空回りだ。
まあでも、ありがたい。
本当の意味で信頼されるって、こんなにも幸せな気持ちになれるものなんだな。
なら遠慮はいらない。
俺も、期待に答えなくちゃな!
「よーしお前ら! 俺も混ぜろ!」
――――
『凄まじい力よのゔ』
――え?
耳元で囁かれた声に、俺は刹那で振り向いた。
なんで!? 待ってろって言ったよな!?
女王!
「ちょっ! ここは危険ですので……」
いない――。
あれえー? 空耳?
それにしてははっきりと耳に聞こえてきたんだけどな。
「その一瞬の隙が欲しかった」
また背後から女王の声。
思い出した。なんか個人だけにしか聞こえない耳元で囁くようなスキルか魔法かを使ってたな、あの人。
こんな局面でふざけてんのか。
しかもなんか意味深なことを――?
あれ?
なんだ、これ……?
なんで俺の胸から剣が生えてんだ?
「あ、アギトさああああああん!」
腕に抱くベルが叫ぶので咄嗟に突き飛ばす。
瞬間、背中に四つの衝撃。
同時に四本の剣が体中から生えた。
あー……これは。
油断した。
「えっ、アギト君!? なにやっちゃってのんさ! と、とりあえず【究極回復魔法】!」
薄れゆく意識の中、ベルが即座に回復魔法を唱えていた。
口調まで変わって……。
それに最上級の回復魔法まで使えるなんて……。
ああ。
やっぱベルはすごいなー。




