66:おざなり
ベルはかなりの苦労をしたようだな。
頬がやつれて、全体的に細くなった気がする。
どう考えてもおかしいのは――女王。
ベルをこの地に追いやったのはさっさと死んでもらって総帥の称号を剥奪し、前総帥であるゲスウィッチに再びその地位を与えんがためだ。
ゲスウィッチ本人がそう言っていたので間違いないだろう。
ある程度の反感を買う行為だろうが、そこまでしてこの女を信頼している――わけでもないようだ。
そんなゲスウィッチすらすんなりと切って捨ててしまうのだから。
「おのれ女王め……! 憎い! 恩を仇で返しおって……! 王都に帰還したらあること無いこと全て暴露してくれる! ぐぎぎぃ……!」
恨み節を唱えながら大釜で何かを煮込んだいる。
料理をしているのだろうが、あんなの古風な魔女にしか見えん。ヒーッヒッヒッヒ! とか言いながら作ってそう。
「ヒーッヒッヒッヒ!」
言いながら作ってた。
「ゲスウィッチさんを道連れにしたのは正解でした。私の回復魔法で悪魔さん達のどんな傷でも治すことはできますが、体力は元に戻らないんです。ゲスウィッチさんが作る特性のスープがなければ、今頃こうしてはいられなかったと思いますよ」
「へー。というか、どんな傷でも治せるの? 凄くね?」
さらっと爆弾発言したけどベルってやはり優秀なんだよな。
歴代の王宮召喚士が誰も成しえなかった、前総帥のゲスウィッチさえ不可能な悪魔との契約を四体分も交わし、回復魔法も天下一品なのだから。
それでいてレベルはゴミのように低い。
こういうのを才能というのだろうな。
そんな優秀な才能をむざむざ殺してしまうなんざ、やはり女王の采配は狂ってるとしか思えない。
まだそんな全てを賭してモンスターの軍勢に挑むほど八方塞がりでもないのだから、焦らず戦力を育てるべきだ。
そもそも俺をさっさと実戦投入すれば済む話だというのに、無駄に二ヶ月もの間飼い殺しにしてくれやがって。
俺を他国に渡さないための餌付け期間だったのかは知らないが、そろそろ飽きてきてたし逆効果でしかないぞ。
――あまりにも、おざなりだ。
これが国家規模の策略か?
勇者という【魔王を倒し得る戦力】を抱え込む……いわば最高峰の軍事力を保有するための手練手管があれだというのか?
野良猫に好かれるために玄関先にエサを置いてみよう。
やっていることがこんな程度だ。
もしこの一連の流れに裏があるとしても、それを感じ取れっていうほうが無茶だろ。
絶対ノープラン!
「して、勇者よ。人間の娘らのことで話がある」
話しかけてきたのはロリ悪魔のルシファー。
見た目に合わせたのかゴスロリファッションで、フリフリを煩わしそうに落ち着かない様子だ。
いやなら別の格好すればいいのに……。
話を聞く体勢をとってやると続きをまた口にする。
「あれほどの力、どうやって与えた? 油断していたとはいえ、我輩が人間ごときに後れを取るなどあり得ん。説明しろ!」
「ああ、そのことか」
色々聞きたいことはあるだろうが、その程度の質問なら答えやすい。
特にベルがいる前であいつらの話をするのは曲解を招きそうだからな。
しかしあれほどの力と言うが……なんてことはないんだ。
「なに、ただトレーニングをつけてやっただけだ」
「嘘をつけ馬鹿めがー! トレーニングなどと、そんな甘っちょろいもので悪魔を屠れる力が身につくわけなかろうがー!」
……何を勘違いしているかわからないが、トレーニングをバカにするもんじゃない。




