61:世界を救う功績とその対価
「召喚士ベル・ワトソン。其方を王宮魔術士団総帥へと任命する」
「はあ……」
異界の勇者が最強の騎士ゾンボルトに勝利した直後、ベルは女王陛下によって、その確固たる地位を授けられた。
まだ齢二十にも満たない少女は、その重すぎる役職の重圧に、ただただ相槌を打つことしかできなくなってしまった。
ベル・ワトソンはそれほど優秀な魔道士ではない。
平凡より少しばかりは秀でてはいたが、【秀でた者達の集団】において、彼女は魔導士としては取るに足らない存在だった。
王宮魔導士団。
国の最高峰として集められた魔導士の、更に頂点に君臨するのが召喚士である。
末席ながらも、ベルはそんなエリート集団の一人だった。
その上、女王陛下直々に、勇者召喚の儀を執り行う全ての権限を与えられた。
若く経験も浅く、実力もない。召喚士に選ばれたことさえ何かの間違いなのだと、誰も彼女を認めてはいない。それはベル自身すら思っていることだ。
だが、選ばれた。
理由は明快。
最も勇者を召喚できる可能性が高かったのが、ベル・ワトソンだっただけである。
彼女は歴代の召喚士の誰もが成し得なかった究極の召喚術である【悪魔の契約】を軽々と成し遂げて見せたのだ。
ベルは召喚士としての天性の素質があった。
前代未聞の勇者召喚の儀において、彼女ほど適役は存在しなかった。
だがレベルが低くMP量もそれほどない彼女は、召喚魔法を一回でも使用すれば意識が朦朧としてしまう。通常魔法においても所詮は【並より上】程度。
魔王の能力によって凶暴化したモンスターを、一人で相手にはできない。
だから勇者召喚は成否に関わらず、その後の処遇は【用済み】であった。
失敗すればその全責任を負う。
成功しても、【まぐれ】がその功績を盾につけあがるのは、実力主義の王宮魔道士団が良しとしない。
――しかし、それが【大成功】だった場合。
召喚した勇者が既に魔王を倒し得る性能と秘めていた場合。
認めざるを得ない。
【世界を救う功績】は、実力主義の観点から見てもぐうの音も出ないほど、その実力を示していた。
だから王宮魔導士団総帥の地位は、【世界を救う功績】から見れば当然ともいえる。
……しかし、それでもこの待遇を良しとしない者も当然いる。
それは前総帥であり、召喚士を纏める長。
その年季も各方面へのコネクションも、まさに実力者。
女王にも少なからず恩を売ったこともある。
「そこでだが……ベル・ワトソンよ。早速だが、総帥としての仕事を任せたい。――魔王軍が進行する最前線へ赴き、指揮を取ってほしいのだ。引き受けてくれるか?」
「はあ……」
結局――ベルの処遇は、やはり変わらないのだった。
大成功すれば、一応の報酬を与えられた後、陰謀により排除される。
「うむ、よい返事だ。期待しておるぞ。では、早急に出立せよ」
「はあ……」
謁見室から退場すると、まだ理解が追いついていないながらも、悟った。
自分は身の丈に合わない偉業を成してしまったがために、消されるのだと。




