59:【反射】
ダンジョンを脱出する少し前。
とっておきのプレゼントがあると女神が言うので、期待に胸を膨らませた。
「実は八つのユニークスキルには、一つだけ【当たり】を用意していたんです」
「そういうのは早く言えマジでこのクソ女神」
いつもならぶん殴ってるところだが、これが最後だと思えばおおらかな気持ちでいられた。
でも本当にお前、これ遊んでんじゃないんだからな。命かけてんだからな。当たったハズレたで一喜一憂してはしゃぐ平和ボケな思考で俺に命かけさせんのやめろ!?
今度会う機会があっても、そんな調子じゃまたぶん殴ってやるからな。
「ではスキルを開放します。どうぞ地上界において、お役にたててください」
女神が祈りを捧げると、俺の意識にはその【当たりスキル】と、それを形容する言葉が浮かび上がった。
――――
【ミニッツ・ラヴァー】
・1分間につき1MP消費する。この世界を統べる主神との対話が可能になる。尚、主神側からの発信ではMP消費の制約はない。
――――
「やっぱゴミスキルじゃねえか!」
「いでゃい!」
鎖骨目がけてエルボー!
本当に期待を裏切る奴だよこいつは!
誰がMP消費してまでお前と話してえんだよバーカ!
――迂闊だった。
そのスキルの性質上、女神側からの通信があってもなんら不思議じゃない。
しかし数日経過しても連絡がないので、てっきりそっちはそっちで楽しくやってるのかと思っていた。
……いや正直、殆ど死んじゃったかなーとか思ってたりもした。
しかし今!
女神は生きていた。
あまつさえ俺が地上でいい感じになっている最中に、タイミングを見計らったとしか思えないこの瞬間に!
なんで!?
『アギト殿ー! 元気でござるか! 拙者の事、覚えておるでござるかー!?』
「うおっ、アルテミス! お前の声も聞こえんのかよ。久しぶりだな!」
『それはいいとして、まずは服を着てはいかがでござるか? そちらの女子も、人前で恥ずかしいとは思わないのでござるか?』
「なんでいきなり辛辣?」
いきなりアルテミスの声のトーンが下がってビビったが、確かに向こうから筒抜けの状態で裸のままでいるのはただの変態だ。
シンディに至っては、勇気を振り絞ってくれたのにとんだ被害者だ。トラウマにならないことを願う。
「とりあえず、服着ようか。シンディ」
「ダーリン……これは、どういうことなの? あの声は誰? 私、こわい……!」
「落ち着いて。気にしない方がいい。ただの神々だ」
「ただの神々!?」
うーん説明するのが面倒だ。
しかしなんとか納得させて落ちつかせないと、この子の体に障る。心臓の病気なんだ。動悸が激しくなると苦しくなってくるという。
だからって一から話しても結論までは長く、ドキドキさせっぱなしではやはり心臓の病によろしくない。
「……ほら、勇者って神に見守られてるもんだろ?」
つい口をついた勇者あるある。さも当然のように言ってのける。
このノリでごまかせるか!?
「なるほど、全てわかりました」
「全てわかったんだ!?」
あれ!? わかられた!
どのような勘違いからそのような悟りを開けたのかわからないが、落ち着いたようだしこれでいいか。まあシンディは言っちゃなんだが世間知らずのほわほわ系お嬢様だからな。ちょっと一般人と思考回路が違うせいか、よく話が噛み合わなかったりする。
「つまり、神々に見守られた聖なる契りを交わすことで、私たちは夫婦となれるのですね」
「ちげえよバカ」
スパーン。
――それはもう、【反射】だった。
無意識。
身体が、意志とは無関係にその行動を選択したのだ。
何が起きたのか……否、何をしでかしたのか……! わけが分からず、数秒ほど思考が停止した。
振り抜かれた右手。
シンディの横顔。……頬が赤く、腫れているようにも思える。
久しぶりの女神。
それとの会話が、俺の感性を狂わせた。
――シンディにビンタしちまったあああああああああ!
つい女神に対するいつものノリだったあああ!
しかも力加減も女神仕様! この一発で奴は鼻血が炸裂するのだが――!
「ダー、リン……? え? え? あびゅっ!」
やっぱ鼻血でてるううう!
やっべどうしよう、病弱な少女を、しかも親友の娘張り倒したぞ!? こんな場面、見られでもしたら……!
「な、何やら物騒な物音が致しましたが! 勇者様! お嬢様! ご無事で……な、なんじゃこりゃあああ!?」
ドアを蹴破る勢いで登場するは、フェアル・ゴッツ・ファザー執事長。
シンディが生まれた頃からずっと成長を見守ってきた初老の紳士だ。
現場を目撃し、真っ青だ。




