58:ミニッツ・ラヴァー
その夜。
サンパウロ閣下に思いの丈を全て打ち明けた。
こんなにダラダラしてていいのか。魔王を倒す旅に出なくていいのか。ベルに会いたい。彼女と共に世界を救いたい。
閣下は威厳な面持ちで真摯に受け止めてくれた。
「あい分かった。勇者殿、後はこのサンパウロにお任せなさい。我が一族には王宮召喚士の一員もいる。その者から話を聞くとしよう。それから、陛下がお主をいかようにお考えなのかも、探りをいれてみよう」
「ありがとうございます、閣下。……巻き込んでしまって、申し訳ありません」
「なに、わしとお主の仲ではないか。それからしばらくは、我が屋敷に潜伏しているといい。上の者には私から言っておくので心配はいらん」
何から何まで……。
この方に足を向けて寝られないな。
情報を精査するためにも、一週間はかかるだろうとのこと。
焦らずどしっと構えていればよい。頼もしいお言葉を頂いた。これ以上心配をかけぬよう、そんな振る舞いを心掛けるとしよう。
「そうだ、丁度お主に紹介しようと思っていたところだ。おい、シンディを呼んできてくれ」
「ここにいますわ。お父様」
サンパウロ閣下が使用人に話しているところに、丁度階段を下りてくる足音が聞こえていた。
足音はこの部屋の前で立ち止まると、タイミングよく返事を返し、その姿を露わにする。
どうやら、閣下の髪色は老齢からくるものではなかったらしい。
少し灰がかった白い髪をした少女がそこに佇んでいる。
お父様と呼ぶのを察するに、彼女はサンパウロ閣下のご息女であらせられるようだ。
二十代……いや彫の深い顔立ちながら、幼さを残す丸みを帯びた輪郭と愛らしい目をしている。髪型もキレイというよりは可愛い感じに仕上げている。声の高さと澄んだ音色も加味すれば、十五歳くらいが妥当か。
彼女はスカートの裾を持ち上げて腰を下ろす、お姫様がよくやるようなお辞儀をして見せた。
「シンディ・エラ・ジェームズでございます。お父様が気分よくお帰りになられるときは、いつも勇者様のお話をされるんですよ。お会いできて、光栄です」
「俺……私はアギト・オオワニ。サンパウロ閣下にはいつもよくして頂いてます」
赤らむ頬を、恥ずかしそうに隠す仕草が、とても可愛らしかった――。
――――
そして、あっという間に、一ヶ月が過ぎた。
「ダーリン。お口開けて。ブドウが何個入るか数えるから」
「それじゃあシンディ。十五個以上入ったら、もちろんご褒美が待ってるんだよな?」
「もう、ダーリンのえっち……」
俺はサンパウロ閣下の屋敷に、未だに居候していた。
身体の弱いシンディは、常に屋敷で一人きりだった。そこへ俺という、父の信頼もある若い男が優しく面倒を見てやれば、惹かれ合うのは最早必然だった。
それにここに居れば何もしなくてもおいしい食べ物やフルーツが運ばれてくる。お風呂も使用人が体を流してくれるし、至れり尽くせりの贅沢三昧だ。
「ダーリン。あのね、わたしのこと、大事にしてくれてるのはうれしいよ? でもね……わたし、そんなに子供じゃないんだよ?」
「え? し、シンディ?」
いつも、彼女には頭を撫でてやったり、おでこにキスしたり、そんな愛情表現にとどめておいていた。
なにせ、まだ若い。ずっと家の中では、男も知らないはずだ。
俺なんかの穢れた欲望に、こんな清純な子を染めていいわけがない。
そう思っていた。
だが目の前の彼女は、耳まで真っ赤にして、日光を浴びない白い素肌も桃色に変えて……。
俺の前で、生まれたままの姿になってみせた。
「ダーリン。だーいすきっ」
俺の中にある理性が、音を立てて瓦解した。
俺も一糸纏わぬ姿へと、瞬く間に変貌し――。
――プルルルルルル。プルルルルルル。
――プルルルルルル。プルルルルルル。
スキル【ミニッツ・ラヴァー】が発動しました。
これより通信を開始いたします。
『もしもーし! やっほーアギト様、聞こえますかー!? あれからずーっと連絡がないから心配してたんですよーっ! アギト様も、私が居なくて寂しかったですよね!? アギトさ……誰ですか、その、全裸の痴女は?』
部屋中に響き渡るその声。
しばらく聞いていなかった、あの鈴が鳴るような心地よい音色。
俺の可愛いシンディを痴女呼ばわりする、この世界のイカレた――女神!
『あら? アギト様も……ぜん、ら? ……え?』
「あの、ダーリン。この女の人の声……どこから? え、み、見られてる?」
……お前何しに出てきた!?
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【ミニッツ・ラヴァー】
・1分間につき1MP消費する。この世界を統べる主神との対話が可能になる。尚、主神側からの発信ではMP消費の制約はない。
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