56:勇者の使命
ピコーン。
――――
名称:エビルベニテング
【幻覚毒】
――――
今日も今朝から、俺の食事には毒キノコが入っている。
朝食のメニューはふわふわのパンにクリームシチュー。それからコンソメ風味のスープだった。
味は申し分ないので気にせず平らげた。
給仕に食器を下げさせ、満腹の心地よさに身を任せてベッドへと飛び乗る。
ふかふかに包まれると、そっとまぶたを閉じることにした。
このまま二度寝と洒落込むのもいい。
ゾンボルトとの決闘から一週間。
最強の騎士を一撃で戦闘不能に追いやったことにより――。
俺は、半ば幽閉されることとなった。
国賓として最重要人物指定。常に侍女が数人傍らにいて、何をするにも手を掛けてくれる。
つまりは、見張りを付けられたわけだ。
そしてこの一週間。
余りにも何不自由なく快適な暮らしから、すっかり引き篭もりと化していたのだった。
ここは贅沢の牢獄だ……。
「アギトさまぁ、お昼寝ですか?」
「まあ、それならわたくし共もご一緒いたしますわ」
「ウチも寝るー! アギトさま、ぎゅーってしてー!」
アナスタシア、エルザ、オラフィスの三姉妹侍女が俺の布団に潜り込んでいちゃいちゃ甘えてきた。
初日こそかしこまって、俺が怖いのか常に震えていた。緊張のためか失敗の連続で、「命だけはお許し下さい」と泣いて懇願されたりもしたのだが……。
順応早いなあ。
「よーし。それじゃ、エルザは右! アナは左! チビのオラフィスは俺の上に乗れ! 寝るぞー! がははははははー!」
あーあ、一生この生活が続かねーかなー!
勇者、サイコー!
がはははー!
――そして一ヶ月後。
飽きた。
「飽きたわ」
「ええ!?」
昼食をあーんして貰っているときの事。
ぼーっと毎日。日がな一日こうして女の子に至れり尽くせりされてきたが、最近はなんだか惰性でこの関係を続けていた。
なんか、違う。
俺別に、贅沢三昧しに異世界来た訳じゃないし。
誤解してはいけないが、贅沢はしたい。
だが、もっと重要な目的があって俺はここにいるのだ。
魔王を倒す――。
俺がこんな自堕落な生活をしていた間も、モンスターに襲われている人々がいる。
俺がもっと早く行動していれば救える命があるのだと思えば、こうして侍女に食事をあーんしてもらうのにさえ後ろめたさを感じた。
殆どの食事に毎回毒を盛られているのも、最近では俺を戒めるためだと思えてならない。
てっきり女王様から何かしらのアクションがあるものかと思っていたんだけどな。
もしかして俺、飼い殺しにされてる?
「すまん、お前ら。俺、行かなきゃ」
「ねえねえアギトさま。ずっとここで暮らそうよー! ウチ、ずっとアギトさまにお仕えしたい!」
三女のオラフィスが泣きながら訴える。
最初に会った時の恐怖の涙とは違う、俺との別れを察して悲しむ温かい涙だ。
それを姉の二人が、優しく咎める。
「わがまま言ってはダメよ、オラフィス。アギトさまは、自身の勇者としての使命に目覚めてしまったの。わたくし達にそれを引き止めることなんてできないわ」
「アギトさまってエッチだけど、結局、抱いてはくれなかったね。とっても大事にされてるって思えて、凄くうれしかったよ! またね!」
三人とも、俺に凄く良くしてくれた。
この一ヶ月間は、本当に楽しかった。主君の命令とはいえ、俺なんかと本当に楽しそうに……。今だって、心優しい彼女達は本気で悲しんでくれているのだろう。俺も寂しい。
だが、これはケジメだ。
「みんな……この平和で夢のようだった日々は、一生忘れない。このお礼は、魔王を打ち倒すことで清算すると約束する」
部屋を飛び出す。
心の炎を燻ぶらせたままにはしておけない。燃やせ、この身を焦がすほど――燃やし尽くせ!
向かう先は……ベルの居場所だ。
女王はどうも信用できない。俺がこの世界で頼るべきは、何を考えているか分からん権力者よりも、命の恩を売ったりベッドで一緒にゴロゴロした相手のほうが信用できる。
「あれ? お姉ちゃんたち、アギトさまにぎゅーってして貰ってないの? ……あっ! 内緒だって言われてたんだった!」
背後でそんなことを言う声が聞こえて、俺は全速力をさらに加速させた。




