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女神・ザ・クッキークリッカー! ―女神を殴るごとにレベル上がるんですがそれは―  作者: 八゜幡寺


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55/77

55:そりゃこうなる

 気まずい空気が漂う。そんな気体の製造元である俺が言うのも何だが……。

 先程の情景が、ふつふつと、訴えかけてくる。

 俺の笑いのツボ……! なぜ!?


 一度くすぐられたら、もう歯止めは効かなかった。変に意識してしまって、それを堪える行為自体にまたツボがくすぐられる。

 ダメだ……もう我慢が……!?


 ふと目の前の人物に意識を向けると、彼女は自分のおへそでも見ているのかと思うほどの俯き加減で、耳を真っ赤にしながら肩を上下に動かしていた。


 俺たちはひとしきり、盛大に笑い合った――。




 ――ドアがノックされる。

 試合の時刻が迫っている合図。


 俺はベッドから上体を起こし、隣に横たわるベルを見下ろす。

 恥ずかしそうに布団で口元を隠す彼女の頭を撫でてやると、天使のような笑みを返してくれた。


「それじゃ、行くか」

「はい。アギトさんっ」


 もう面倒くさく考えるのはやめた。

 今はただ流れに身を任せて、なるように成ることをただ受け入れることにした。

 ゾンボルトとのガチバトル。

 受けて立つ。


 そして今――。

 俺は練兵場にて、他の騎士達とのウォームアップにて万全の態勢を整えたゾンボルトと対峙している。


「よかったな、偽勇者。人生最後に陛下と謁見出来て、この伝説の男に看取られる名誉を与えられたのだからな」


 ゾンボルトは鉄の剣と盾を手に、威風堂々たる立ち姿を見せた。口から毒も吐くようだし、確かに最強だ。

 だが、毒を吐くなら俺も負けん。


「前者はともかく、後者は完全に不名誉だろ。おっさんの顔見ながら死ぬとか。それに図体の割には堅実な武器なんだな。大剣かバトルアックスでも持ち出すのかと思ってたぞ」

「バカめ、それじゃあ大変だろう。――貴様の肉片を拾い集めるのがな。これで等分に刻んでやれば片付けも楽だろう」

「うげっ。それはお優しいことだ」


 どの道、俺をバラバラにしたいようだ。

 対する俺は、一応ゾンボルトと同じ装備を渡されたが拒否した。

 付け焼き刃の剣より、あのダンジョンで鍛え上げたこの拳を俺は信じる。


 ……にしても、ギャラリーが多いな。兵士や貴族も多い。

 これだけ見られると緊張しないでもない。少し、気が高ぶってるのを感じる。

 でも、いい具合の固さだと思えた。適度な緊張状態を保ちつつ、心は妙な落ち着きがあった。


「両者、構えよ」


 女王が細い腕を上げる。女王の合図で、この戦いは幕を開ける。

 ゾンボルトを見て、俺を見て……ウィンク。

 癪なので俺もウィンクを返すと、王女は面を食らったように目を丸くした。そして、クスリと笑む。

 そのクールな笑みに、ちょっぴりドキッとした。


 おっと、そんなことを考えてる場合じゃない。

 前を向く――。

 王女の腕が、振り下ろされる。


「始めよ」


 まずは相手の出方を見る……なんて、いかにも格闘技の経験がある奴が考えそうなことは、しない。

 見ても分からないから。


 だから俺は先手必勝。

 最速で駆け出し――射程距離に入った瞬間にボディブローを叩き込む!


「ふんッ!」


 地を蹴る。

 接敵。

 ゾンボルトは余裕の笑みで、未だ剣を無造作に構えたまま。

 上等! 俺は俺にできる最大限を、全力でぶつけるのみ。


 低く潜る。奴の懐……!

 射程に――入った。

 奴はまだ攻撃の素振りすら見せていない。


 ならば遠慮なく、俺は沈みに沈ませきった上半身を持ち上げる。つられて右手が弧を描く。

 遠心力を利用して、たちまちに加速する右拳。

 まだ、攻撃の素振りはない。ここから反撃、できるのか!? それとも避けてからカウンター!?


 どちらにしても俺のやることは変わらない。というか変えられない。

 全力最大――! ぶっ放す!


 ん?


 あれ、こいつ……?

 俺を、見てない?


 あ、こっち向いた。


「なっ! 貴様いつのまぐぼォっ!」


 仰天の言葉の途中だが、俺の拳が腹部に食い込むと、奴はトラックにでも追突されたが如く宙を舞い、ボロ人形みたいに地面へと落下した。

 誰も、何も言わない。

 これだけ人が集まっているというのに、耳が痛いほど静まり返った。


「勝者、アギト・オオワニ。おめでとう、勇者よ」


 一人で勝者を称えてパチパチと手を叩く女王を尻目に、俺は自分がやってしまったことを後悔するのだった。


 ――あれだけステータスに差があったら、そりゃこうなる!

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