50:念願の
目の前に見える――おぞましいモンスター。
二息歩行の豚面で、モリモリに膨らんだ肥満体に見える肉体からは、荒々しく筋張った筋肉質が自己主張を激しくアピールしている。俺が想像するオークという種類のモンスターと、まあまあ酷似していた。
そんなモンスターが数体。身長は様々で、俺の腰ぐらいしかない個体から三メートルほどもある個体も見受けられる。
森を抜けて開けた場所に躍り出た途端、早速の歓迎だった。
俺に気付いた一匹が「グルル」と喉を鳴らして威嚇すると、他のモンスターも次々と俺に向き直る。
相手は既に臨戦態勢。――対して、俺は手ごろな石を拾い上げる。
ゴツゴツしていて掴みにくいが、当たったら凄く痛そうだしこれでいいか。
俺もようやく、闘争のエンジンをかける。
「よし。それじゃあいくか……死ねブタゴラァ!」
全身に力を漲らせて手にした石をぶん投げる。
一番手前にいたオークに着弾すると石は易々と腹部を突き抜け、すぐ背後にいたもっと大型のオークにも命中した。それもまた突き破り、後方の木々をなぎ倒しながら視界の外へ消えていった。
そして俺も呑気に石の行方を追っていた訳じゃない。
風船のようにもろい仲間を尻目に俺への殺意を剥き出しにする他のオーク共へと走り寄り、奴らがアクションを起こす前に拳をぶち当てる!
なんの体裁もないただの暴力だ。
だがオークの巨体は面白いようにぽんぽん宙を舞うのだった。
最後の一匹の頭部を陥没させて辺りは静まり返る。
……流石に弱すぎるんじゃないか?
こっちとしては石をぶん投げたりステータスのごり押しで暴れまわっただけだ。やってることは小学生のケンカと変わらないぞ。
一応、雑魚モンスターを囮とした奇襲攻撃があるかもしれないので周囲の警戒は怠らなかったが、特に何事もなく、倒した豚面は本当にただの雑魚モンスターなだけだった。
――そりゃ、そうだよな。
なんせここは、地上なんだから――。
――
即決だった。
俺は二つ返事で地上への生還を選択した。
アルテミスは「寂しいでござるな」と涙目になってた。
大丈夫。お前は俺の中で永遠に生き続けるさ……。
女神は、まるで自分のことのように喜んでくれた。
俺の手を取り、潤んだ瞳で賛辞を述べた。
「貴方はもう、誰の前に出しても恥ずかしくない、立派な勇者です」
「最初から恥ずかしくない勇者にしてくれていればこんなことなってなかったんだよ、クソ女神!」
「うにゅっ」
最後までムカつく女神のおでこを小突いてやると、嬉しそうに呻いた。
――
――そんなこんなで、無事にダンジョンから脱出できたわけだ。
気付けば、蔦の緑に浸食された神殿のような場所で佇んでいた。そこから石畳の回廊が続いていたので進んでみれば、モンスターに出くわしたのだった。
「おい、ミゼーア。そろそろ俺の中から出て行けよ。丁度いい肉体も転がってるし」
『ごめん、死体に寄生することはできないんだ。まあそう邪魔にしないでよ。せっかく、二人きりになれたんだからさ』
意味深なこと言うのやめろ。
こいつが喋るたびに、耳の奥を羽毛でくすぐられているかのような悪寒がして鳥肌が立つ。出来れば早急に出て行って欲しい。切に。
納得がいかないので、本当に生きている個体がいないかオークの群れに近寄ってみる。
「あ」
思わず声が出た。
いた。生きてる奴。
ただしそれは、オークなどではなく……。
「あ、……た、助けて……くれたんですか……?」
人間だった。まだ若い娘だ。




