42:アルテミスがやってくれました
そうだミゼーア! 奴はどこに!
奴を探すと……いた。
女神の視線を追ってみれば、空中にミゼーアは浮いていた。
浮くというよりは、空気の上に立っているような感じだが、俺からすれば空にいる時点でどっちでも大差ない。
「あら、ごめんなさい。大事な舌でしたでしょうに」
ミゼーアの口から溢れる、ドス黒い体液。
ゼリーか煮凝りのようなゼラチン状の、血なのか? 地面に落ちると、プルンと弾けた。
「……これが噂に聞く、【身勝手な楽園】。気に入らないモノを無条件で、強制的に排除する、傲慢すぎる主神の絶対領域! くはは! 今のは危なかったぞ、僕の舌が、消し飛んじゃった! ははは!」
女神はいつものように女神バリアーを展開しているだけだ。
え、これそんなに凄い代物だったの? えらく饒舌なミゼーアのテンパり具合からして、奴にとっては【触れたら即死】級のチートスキルっぽいな。
外部からの攻撃はほぼシャットアウト出来て、内部の敵は無条件で倒せるの?
そんなデタラメ、俺が欲しかったわ。
「しかし今頃になって出てくるとは、どういうことかな? 従者達で僕の力量を見極めて、勝てそうだから姿を表した……。と、するなら、見誤ったね。ちょいと台所のおかずをつまみ食いする姿を見て、そこから強さが計れるわけないだろう!?」
ミゼーアが消える。また、瞬間移動か!
それをやられると、空間という概念が一気に無駄になる。攻撃のタイミングは完全にそれを行った相手に依存してしまうため、回避も反撃も困難。連続使用されたならもう、嬲られるしかない。
女神バリアーだって、外部から壊された隙に中へ侵入され、修復する前に脱出されてしまえば……危うい。
――だが、いつまでたってもそんな攻撃が訪れることはなかった。
消えたかと思ったミゼーアは、まるで蚊取り線香にやられた羽虫のように、地面へと逆さまに倒れていた。
ん? どうした?
まさか女神……お前の仕業だというのか?
あれほど強大な敵が本気で挑もうとしていたのに、瞬殺……!
「アギト様、私は何も手出しはしていませんよ?」
「なに? じゃああれは……?」
ミゼーアは見るからに虫の息。
時折、ビクンと痙攣のような動きを見せて生きていることを伺わせるが、もういつ動かなくなっても不思議じゃない。
女神じゃないとすれば、自滅?
――いや、そうじゃない。
発見した。ミゼーアがもがき苦しむ本当の理由。
太ももからにょきっと生えているものが、すべてを理解させた。
「あれは、矢……!? ははっ、いつの間に! アルテミスが!?」
「そうです。神殺しの【狂気属性】を孕んだ混沌の矢……あれが刺さった時点で、勝負は決していました。私の出る幕ではないとは思ったんですが、思った以上に狂気の進行が遅かったみたいですね」
タイミングとしては、アルテミスがエルフ語で挑発していた時。密かにそれを生成していたのだ。
バラバラに殺されることと引き換えに、それを突き立ててやったのだった。
俺のために、わざとミゼーアを怒らせるような真似をして――自らを犠牲にしたのだ。
不遜な態度が瓦解したのは、てっきり怒りの奔流を抑えきれないからだと思っていたのだが……。
アルテミスが、やってくれていたのか。奴は徐々に【狂気】に侵食されていたのだ。
「あ……バカな! くひひ、ははは! 僕が、そんな小細工に……あり得ない! はははははは! 主神! お前が、やったんだろう!? それ以外考えられない! あんな雑魚の、小さな毒針なんぞに……! この僕が殺されるはずがないんだ!」
あいつ、また消え――!
――ガァン!
とてつもない、衝撃音。
思わず耳を塞ぐも、視線はすぐさま音のする方角へと向いた。
……さらに死にそうになっているミゼーアが、ドス黒い血まみれで倒れていた。
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