40:赤く滾る肉棒を
「おい」
――なんだ。
ようやく、まともに会話が出来るくらいには回復したか? ミゼーアさんよ。
漆黒の毛が逆立つ。水銀の瞳はより混沌とした濁りを孕んで、鼻腔がヒクヒクと忙しない。
白い牙を剥き出して口角を上げるその表情はまるで――。
嘲笑っているようにしか見えない。
犬って鼻先長いから口を開けているだけでも笑ってるように見えるんだよな。
それに牙を見せるという行為は本来……威嚇だ。
多分こいつ、むっちゃキレてる。
「くくく……! あははは! 流石は、主神に選ばれし精鋭。高々1000程度のレベルでも、無抵抗ならば僕を殺せるくらいの実力はあるというんだね。……いやあ、面白い。痛みを覚えたのは、千年ぶりだよ」
両手を広げて天を仰ぎ、しかし獰猛な視線は瞬き一つせずに俺を凝視している。
怒ってる。
優しげな言葉遣いとは裏腹に、「怒ってないよ」アピールとは対象的に、その内面は――!
「はん、いつまで道化師を気取っているでござるか。本当はうずくまって泣き叫びたいほど苦しかっただろうに、そんな余裕ぶったパフォーマンスをされても、サムいだけでござるよ。演じなくとも、その姿の貴様は十分に――痛々しいピエロでござる」
あっ! このバカテミス!
ハラワタ煮えくり返ってる相手にそんな挑発したらどうなるか、分かんないか!?
それも相手のアイデンティティを貶すようなことを……!
ああ! 更に続けるな!
テンション上がってエルフ語出すな!
「ワイメグセジャナハドワンツカ――」
「キエエエエエエ!」
「うぎゃー!」
ミゼーアが消え、それと同時にアルテミスがバラバラに分解した。
断末魔に横を振り向けば、血走った眼球が飛び出さんばかりに目を見開くミゼーアと、積み木のように転がるアルテミスの各部位達。
「アルテ……うぐっ!?」
切断された頭部が、生気のない顔で俺を見るので、思わず拾い上げようと手を伸ばした。
ミゼーアはそんな俺の喉を掴み上げてそれを阻止する。
もう怒りの噴火は奴自身にも止めることなどできない。言いようのない邪悪な表情で……ぐ、ぐるじぃ……。
「学んだよ。調子に乗ったゴミほど、気に触るものはないとね……! 君も八つ裂きにしてやろうか。それとも喰い殺してやろうか。せめて好きな方を選ばせてあげるよ」
醜悪な顔に似合った下卑た笑み。
大きく開け放たれた口から覗く、禍々しい朱に染められた舌。
その舌はベロンベロンに口外へと垂れ落ちたかと思えば、蛇のように鎌首をもたげるのだった。
アルテミスを襲った槍……その正体か。なるほど、そりゃメシ喰うんだったら口からだよな。ねぶり舌とは、なんとも行儀が悪いがな。
でも、くそ……。
この体勢じゃ【ライジング・インパクト】は放てない。
消えたように見えるくらい、目で追えないほどのスピード。実際に消えていたとしたら正に対策は不可能。
そして、この状況。
片手で持ち上げられ、宙に浮かされ、俺は両手で抗っているというのにびくともしない。
ため息が出た。
「……せめて、美味しく食べてくれよ?」
「心配ない。どんなにゴミでも、ステータスの味は皆同じだ」
俺の同意を待ち望んでいたかのように、ミゼーアはすぐさま、俺に赤く滾る肉棒を突っ込んだ――。
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