39:通用する
奴は動かない。
立ってはいるが、頭は項垂れてその表情は読み取れない。
ただ――滴が、垂れた。
ぽたり、ぽたりと、ミゼーアの足元には雨粒のようにそれらが広がっていく。
俺は、その光景を目にした瞬間――。
「はぅ……! いで……あうぐっ……! ど、どう、して……はぁう……!」
激痛と驚愕に支離滅裂になるミゼーア。
あれ、効いてる……よな?
俺のパンチ。
手首までずっぽりめり込んでたし、肉を隔ててはいるものの、内蔵を押し潰す感触が生々しく左手に残っている。
ジンジンと、腕全体が脈打っているようだ……。
確かな手応え。
つまりは――成し遂げたのだ。
神などという傲慢な存在に、鉄拳の制裁を与えてやった。いや普段から女神をぶん殴っちゃいるが、このいかにもな、邪神?
ミゼーアという狼顔の神は強敵臭がプンプンしてたから、その喜びもひとしおだった。
傍目も振らず、飛び跳ねた。
「ウェエエエエエエイ!」
ゴミステータスにゴミスキル。さらにはクソ女神の妨害。
もっと言えば、俺はしょせん一般人だぞ。
格闘家でもなければ喧嘩慣れしたDQNでもない。古武術道場なんて見たことも聞いたこともないうえに、VRMMOがが普及するのは数十年後の未来だ。いやもっと近未来かもしれないが、今はそんなことを訴えたい訳じゃない。
とにかく、雑魚だ。
雑魚だったんだ。俺は。
女神に言わせれば、スライムにすらダメージが通らない真正の最弱野郎。
それがどうだ。
見ろよ、奴を。ミゼーアを!
呼吸が浅く、瞳孔が開いて、その場から一歩たりとも動くことが出来ないでいやがる!
恐らくはこのダンジョンでもトップクラスの強さを誇るだろう怪物を、俺の拳で黙らせてやったんだ!
メタいことを言えば、このタイミングで登場するあたり、【四天王の中でも最弱】な部類ではあるだろうが……。
それでも、俺の努力が無駄ではなかったと証明された。
届いたぞ――。
俺の力は、このダンジョンに通用する!
絶対に途中で死ぬだろうと思っていたんだ。モンスターの一撃に無残に散りゆくものだと、虫のように潰されて儚く消える運命なのだと……。
だが、俺にも……奴らを捻り潰す力が備わっていたのだ!
一方的な殺戮じゃない。
これは俺という【強者ではないモノ】がどこまで粘れるかって話じゃなくなったんだ。
これは、俺とモンスター共との――殺し合いだ。
「アギト殿! 何が起こったでござるか! 一体何を……うわっ、なんて顔してるでござる……!」
「ウェイ?」
あ、ウェイ語出ちゃった。
そうとう舞い上がってる。なんて顔してるってお前……。
気持ち悪いぐらいニタニタしてるに決まってんだろ。
今俺、この世界来て以来……いやもう、人生最大。
テンションダダ上がりっすわ。
はあん、思わず思考も言動もチャラくなっちゃう。
「いやしかし、なぜアギト殿のなんの変哲もないように思えるパンチが、奴にあれほど甚大なダメージを与えたのでござろうか? 【こうげき】は1000しかなかったのでござろう?」
「ウェーイ」
「は? いや真面目に答えるでござるよ。でも確かにアギト殿のゲンコツは見た目以上に痛いでござるからな。しかし拳系の威力強化のスキルなんて所持していない。……ううむ」
ふむ、確かにこれまで、何の疑問もなく女神をぶん殴り続けてきたが……、いつも尋常じゃない見た目に変貌するよな、あいつ。ダメージはゼロらしいけど。
それと何か関係があるのか?
――ま、今はどうでもいいや。
必然的に、俺の返事はこうなった。
「ウェウェウェーイ!」
「くっ! ムカつく……。はっ! もしや、アギト殿も奴の攻撃を受けて!? 拙者が【こうげき】を喰われたように、アギト殿は……! 【知能指数】を!?」
「んだとオラァ!」
「いぎぃ!」
認めるけど。知能退行したのかよって思いたくなるほどイライラさせたのは認めるけど。
だからといって、暴言を看過できるほど人間が出来てはいねえんだよ。
すると、打たれた頬を擦る涙目のアルテミスに正論を言われた。
「あたた……もう! 怒るくらいならちゃんとしてほしいでござる!」
「ごもっともだ。すまん」
「よ、よかった。分かればいいんでござ……」
「だけどウェーイ! ウェウェウェ!」
「ぐあー! ガッパキマゲー!」
うわっ、出た変な呪文!
知らない言語なのに意味は通じる不思議な感覚。
「おい、お前のたまに出るそれなんだよ」
「あ、エルフ語出ちゃったでござる。これは失敬」
「エルフ語!?」
どうやら全く知らない言語だとしても、神が発すればどんな言葉も意味は通じるのだという。
便利な現地ガイドさんかよ。
お読みいただき感謝でございます。
少しでも面白いと思ったなら「ブクマ」「いいね」「☆での評価」お願いします!
ランキングに載ってこの作品をもっと広めていきたいです。よろしくお願いします!




