38:ふぉあぐら
ステータスが、喰われた?
変な独特な表現をするアルテミスに、俺は答えを探るしかできない。
「つまり、弱体化じゃなく、奪われたってことか? まさかお前のステータスが、そのまま相手のステータスに取り込まれた!?」
「違う!」
はあ!? キレてんじゃねえよ! こっちだって意味不明なんだからちゃんと説明しろよ!
手が出そうになったのを、寸前で止めることができた。すぐ暴力に訴えるなと言われたばかりだからな、ここで手を出して「学習能力がない」と罵られてもムカつくので、矛を収める。
一連のやり取りをなぜか静観していたミゼーアであったが、クスクスと笑い声を上げると、悪魔の形相でニコッとはにかんでみせた。
恐ろしいことに、俺に言葉を投げかけてくる。やめて。まるで新入社員時代、初対面の重役と会話をさせられた時と同じくらい気を使うから。
「君は、食事をするよね? 草でも、肉でも。良く噛んで、ドロドロのペースト状にして、飲み込むよね。体内では胃酸がそれらを更に溶かして分解していく……。さて、ではそれらを突然吐き出したとしよう」
こいつは何を言っているんだ……?
俺は、どんな相槌を打てばいいんだ!? ……黙秘が、正解のような気がする。
よし、真剣なまなざしのまま、ちゃんと聞いているアピールでもって口は貝のように閉ざす。
あ、続きを話始めた! 正解……!
「吐いたそれらを、また元の食材に戻すことはできるだろうか? その吐き出したゲロが100%家畜の肉だったとして、その肉を元の家畜に戻すことはできるだろうか?」
ゲロって言うのやめない? リアルに想像しちゃうから。
まあしかし、言いたいことは理解できた。その恐ろしさも……まざまざと。
「つまり、アルテミスの【こうげき】は二度と戻らない。……ステータスを、文字通り、喰っちまったから」
「その通り。封印とか、奪っただとか、そんな小難しい話じゃないんだ。……ただの食事……いや、つまみ食い程度なんだよ」
ミゼーアはアルテミスが捨てた矢を手に取った。
それを眺めて、少しだけ感嘆の声を出す。
「ほう、神殺しの【狂気属性】を付与してあったのか。それをあの本来のステータスで攻撃されていれば、ちょっと驚いたかもね」
神殺しが弱点。やはりこいつは以前、神であったモノだったのだろう。
女神に堕天させられし神々の一人……。
「アギト殿……。あやつが油断しきっている間に仕留める算段でござったが、初見殺しの一撃がバレてしまっては、勝ち目は……」
やはり相手は相当手加減していたわけね。
俺達の窮地をよそに、えらく感心した様子のミゼーアは、牙を剥き出し上機嫌だ。
この流れでいくと、ミゼーアは間違いなく俺とも戦いたがる。主神に挑む前に俺達で肩慣らしする気満々だ。
なんとか、興味の対象が俺に移ることは避けなければ――!
「ねえ、今度は君とも戦ってみたいな。さあ、おいで?」
はい死亡。
くっそだからこっちくんなって言っただろうが! バカテミスが! おらァ!
「ふぐっ! な、なんで殴るでござるか……!?」
拳を握る。ミゼーアを睨む。
なぜか向こうから攻撃は仕掛けてこない。舐められてるんだ。お前の攻撃なんて蚊に刺された程度も感じないと、完全に油断している。
アルテミスはともかく、俺に脅威を感じるような要素はないからな。
なにそれ。
――すげえ、ムカつく。
神ってやつは、皆そうだ。全てを見透かしたような態度で人の心を弄ぶ。
眼鏡に適ったら褒めてあげようってか? ふざけんな!
勝手に人を値踏みしてんじゃねえぞ!
だったら――!
望み通りにしてやるよ。
俺の渾身の【ライジングインパクト】を奴の鳩尾に食い込ませてやる。
。 勢いよく助走をつけてミゼーアに挑む。何一つ動く素振りがない。いけるか? だがアルテミスの斬撃は避けていた。それに一瞬消える回避能力も奴は備えている。
いやここまで来たんだ、やぶれかぶれ――だ!
左のボディブロー。
低い姿勢から足腰を踏ん張り、アッパーのように拳を突き上げる。
ただし、ベクトルは真上じゃない。
大地と水平――! 拳を、奴の臓腑に突き刺す……!
最高の射程。
最高の角度。
最高のインパクト。
無抵抗の相手なら、常に発揮できる――。
【ライジングインパクト】
それは驚くほど、抵抗を感じなかった。
まるでミゼーアの体内に、俺の腕が飲み込まれてしまったのではないかと、錯覚するほど。
しかし振り抜いた拳はしっかりとそこにあり、変わりに、ミゼーアがそこにはいなかった。
【ライジングインパクト】の付属効果である【吹っ飛び判定】を得たことにより、ミゼーアは殴りつけた勢いのまま、宙を舞っていた。
すとんと……着地。
殴り飛ばされたにしてはきちんと両足で地面を捉え、その場で立位を確保していた。
結局、ダメージは無かった――ように見える。
が、俺は、確かに聞いた。
パンチが炸裂する瞬間……。
「ふぉあぐらっ」
世界三大珍味の名を口にしていたことを。
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