35:第三階層での死闘!「カイザーフェニックス」編
カイザーフェニックス。
とてつもなく強く猛々しい、聖なる炎を纏った神獣。……だった。
このダンジョンにおいてそれは、凶悪な災厄の化身でしかない。
対峙した瞬間に理解した。
この世には、二種類の存在しかいないという事を。
すなわち……強者と、そうでないモノ。
ダメだ。勝てるプランが、見つからな――!
勝った!
レベルはまさか1000の大台に乗った。スキルも豊富で、まさに【不死鳥の皇帝】の名を冠するに相応しいモンスターだった。
未だに……震えが止まらない。
五体満足でいることが、本当に奇跡としか言いようがない。
何十回と死を覚悟しただろうか。
ははっ。そう考えれば、どっちが不死鳥か分かりゃしないがな。
まさかあの場面で、あんなことになろうだなんて、誰が想像できただろうか?
世界がスローモーションに見えた。
なんだか夢のように思えて、幼少からの記憶を、昨日のことのように振り返っていた。
走馬灯っていうのか? 過去の記憶から死を逃れるための手段を探しているのだと聞いたことがある。
――結果として、俺はそんな手段を見つけることができたんだ。
迷ってる暇なんかなかった。阿吽の呼吸で女神に合図を送ると、最早ずっと手にしていたと錯覚するほどの自然さで、アイテムは俺の手中に収まっていた。
そのアイテムの名は――。
「大丈夫でござるか? ほら、これを」
「ああ、サンキュー。いや流石に、まだ立てそうもない。膝が笑ってるわ」
背後から声をかけられ振り向くと、ほっぺにひやりと硬いものが押し当てられた。――氷だ。拳くらいの大きさだった。
驚いたものの、火照った体を冷ますには丁度いい。魔法で創ってくれたようだ。
礼を述べると、そいつはニヒヒと笑って俺の目の前に躍り出た。
エメラルドの髪はポニーテールに纏められ、髪色と同じ宝石のような瞳が俺をじっと見据えている。
花や草や葉っぱやら、いろんな種類の植物を織り込んだ服を着ているので、体も緑だ。
俺は再度、この活発な少女に感謝を口にする。
「本当に、ありがとな――アルテミス。お前がいなかったら、俺は今頃、灰すらも残っちゃいなかっただろう」
「ははは! えらく殊勝でござるな。なに、拙者もアギト殿に何度も助けられ申した。おあいこでござるよ。礼なら、拙者を蘇らせた女神にでも言うでござる」
アルテミスは、向こうで転がってる女神に親指を向けて、冗談めかして言うのだ。
口が裂けても、それはない。
女神が転がっている理由にしたって、あの決死の場面で……! あ、あろうことか、あのクソ女神!
戦闘中だっていうのに、俺は我を忘れて血反吐をまき散らすまで奴をぶん殴り続けた。ボディを重点的に、とうとう血のションベンを垂らす恐怖の腎臓打ちにまで手を出してしまったよ。
くっそ、腹立つ……! 忌々しい!
――二階層でエルフを殴り殺す度に、女神は彼らに祈りを捧げてスキルカード化させていった。
信仰のない俺にはそのカードを使用することはできないし、てっきり女神の護身用スキルかと思っていた。実際に、その時は女神もその程度の認識だっただろう。
しかし三階層へ降りる直前。ふと何かを思い出した素振りを見せると、女神は山盛りのカードに向かって祈りはじめ……。
女の子が目の前に現れた。
「あ、出来ちゃいました。アルテミスくんの蘇生」
「ぬわー! 止めるでござるよ我が眷族よ! 止めるでござるー! ……あれ? ここは、我が眷族たちは? ……あれ!? なぜ拙者は女体に!?」
死ぬ直前の状況で蘇生したみたいだった。
それからしばらく女神と対話して、元は男神だったが素材が足りずに女相で顕現してしまったことや、元は神でも所詮は残りカスを寄せ集めただけなので、レベルも戦闘力も低いザコであることがわかった。
なんでこんな使えないゴミを復活させたんだ……。
元の神としての力を持っていたとしても、自身の眷属に殺されるほどの奴だぞ。
せいぜい序盤でデコイとして散っていくのが関の山だろ。
そう思っていた。
――舐めてたわ。
カイザーフェニックス戦でアルテミスは、怒涛の活躍を見せてくれた。
むしろ足を引っ張っていたのは俺の方だった……。何度も、何度も助けられた。
最後は息を合わせたワン・ツーフィニッシュ。
時間にして十数分くらいの決戦だったが、俺とアルテミスはもう互いに背中を預けるに値する戦友となった。
そう、中でも炎に飲まれたあの瞬間――!
「――ん? アルテミス。なんだその、胸から、生えて……る!?」
突如。
それは、余りにもあっという間だった。
強敵を打ち倒した安堵。戦いの疲労。もうこの階層に敵はいないだろうという油断。
そんな言い訳を並べたところで、結果は変わらない。
いやそんな言い訳がなくとも……きっと、変わらなかった。
「な、誰だ……お前!? アルテミスに、何を!」
俺はずっとアルテミスを見ていた。彼女から目を逸らしてはいなかった。
急に現れたのだ。それは当たり前のような顔で、なんの躊躇もなくアルテミスを貫いたのだ。
赤くいびつな……槍?
それは脈動する肉の棒にも見えた。
アルテミスの胸から生える――悪魔の指先のようだ。
「ははは、ごきげんよう。余りにも隙だらけだったもので……つい、喰っちゃったよ」
――近付けない。
一歩でも動けば、その瞬間に俺もアルテミスと同じ末路を辿るだろうことが、易々と理解できた。
殺生与奪の権利は完全に奴にある。
黒く、醜悪な形相だ。
狼のように尖った口に、漆黒の体毛が顔面を覆っている。口の中は恐らく鋭利な牙が所狭しと並んでいることだろう。
瞳は水銀のように鈍く流動的に光っている。
しかし肉体は、俺達と同じように人型の容姿だ。服装の下はどうなっているか分からないが、少なくとも、見た目はそうだ。
狼の口が開く。
「こんにちは。僕はミゼーアだよ。主神に会いに来たんだけど、あれ? 寝てるの?」
……俺に話しかけているのか? 視線はあっちに転がっている女神の方を向いているが、今しがた殺したアルテミスに問うてはいるまい。
だとすれば、すぐに答えなければ機嫌を損ないかねない。
当たり障りが無いように、迅速に、言葉を並べる。
「俺が殴り殺した」
「えっ」
「えっ……あっ」
いや、違う。違わないけど、そうじゃない。まず死んでない。
くっそ、完全にこっち向いた。ミゼーア顔こわっ!
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