32:神々の食卓
青く淡い光。
次層へのゲートが放つ魔力の光。
それを眺めていると……どうしようもない虚無感に襲われて、動けなくなる。
――次こそ死ぬかもしれない。
そう思ってしまえばもう、体が言うことを聞かないのだ。
乾いた地面に腰を据えると、お尻が根を張って身動きが取れない。
ひとたび横になってしまえばもう、俺は完全に置物となった。
「アギト様……。この度は本当に申し訳ございませんでした。ですが、どうか機嫌を直して下さいませ……」
女神ぃ……。
落ち込んだ表情で涙ながらに訴えるこいつの腹の底が透けて見えるようだ。
内心では高笑いが止まらないだろう。従順なフリをして、俺がいつ無様な死を迎えるか楽しみで仕方ないんだ。
ああ、くっそ!
まさか貴重な、アイテム枠を削ってまで……!
命削ってまで、メシが食いてえわけねえだろうがっ!
「あああああああああ!」
「きゃうっ」
キノコをぶん投げる。
それは女神に当たって、ぽとりと地面に転がった。
何を投げつけられたのか、女神はそれに目を向けた瞬間に理解し、そしてすぐに目をそらす。
だが見てみぬフリをしたところで、俺が奴に下す命令に変更はない。
「食え」
「……いやです」
「それを食えば、許してやらんこともないぞ」
「えっ。ほんとう、ですか……?」
真偽は答えずに顎で指示する。
おずおずとキノコを拾い上げ、女神は青い顔しつつも眼前まで持ってくる。
それから二度、助けを乞うように俺を見る。
俺は黙って命令を下す。
それから三度目。
俺は鼻で笑い、女神が手にする種類と同じキノコを引っ掴む――目の前には色とりどりの毒キノコがあるから、瞬時に同種を見つけ出した自分に心の中で感心した。
そしてこれ見よがしに、大口を開けてみせるのだ。
「どうした、食べ方を忘れたか? こうするんだよ。よく見とけ」
ガブリ。
口の中に広がる青臭さと、ねちょねちょとしたうっすい甘みのミスマッチが、相変わらずゲロ不味い。
キノコ特有のキュッキュッとした歯ごたえが、辛うじてこれを食物であると脳に認識させることにより、俺は飲み込むという手段に移ることが出来る。
喉越しがまた、イガイガとした渋味によって最悪の気分にさせる。
「うえっ……」
女神が嗚咽する。
ポーカーフェイスでいたつもりだったが、俺の食い様はよっぽどひどいものだったようだ。
もっと味としてはまともなキノコにするべきだったな。こいつは見た目も味も毒性もオール最悪。
「きゃあああ! ま、不味い! 痛い! グロい!」
おっと、ついに女神もそれを口にしたか。
途端に全身の毛穴から血を噴き出し、白雪のようだった肌が斑模様に変色している。
何度見ても……すっげえ気持ち悪い。
神ですらここまで苦しめる猛毒。このダンジョンはほとほと規格外すぎる。
ちなみに俺も同じキノコを食しているが、全く毒に侵されることはない。
何もこのキノコだけに特別耐性があったわけではなく、とりあえずキノコはおろか、口にできるものの全てにおいて俺は平気で咀嚼し、味わい、嚥下できる。
これぞ女神が与えしユニークスキル――【神々の食卓】の効果だ。
食後30分間は状態異常にならない。
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