12:食われ死ぬ
意に反してスケルトンの猛スピードは、コンマ一秒で俺との距離をゼロにした。
轢き殺されるかと思った。
奴の肋骨にスライスされるかと思った。
だが骨は直前で立ち止まると、ニヤけたままの表情が固まって動けないでいる俺の頭部を万力のように両手で押さえつけてゆっくりと口を開くのだった。
目の前で起きた事象をただ淡々と、無感情に、言語化するのが精一杯だ。
頭が痛い。あと少しでも力を加えられれば握り潰されそうなほど締め上げられる。
たが、実のところそうじゃないとわかる。
このスケルトンは、むしろ逆。
まるで味噌汁の豆腐を箸で摘むかのような手心でもって、俺を包み込んでいるのだ。
割れないように。
崩れないように。
――食べやすいように。
理解した。
このスケルトンは、箸だ。
大きな獲物を捕獲し、食べやすい大きさに細かく噛み切るための道具でしかないんだ。
その口の中に潜む本体。
目を光らせて蠢くのは、たった手の平サイズの生き物だ。
「トカゲさん!」
いや、彼じゃない。模様が違う。そして、それはほんの些細なことだ。
トカゲは喋らない。
俺にはもう励ましの言葉は必要なかった。
箸で摘み上げた食物に抗う術はないと知っているのだ。
ああ、そうか。
ようやく状況の整理ができた。
俺はこれから、このトカゲに捕食されるのか。
え……嫌なんだけど。
えええ! 待て待て待て逃げっ、いででで! スケルトンの力強っ! ぜんぜん振り解けないちょっと待ってマジでこれ!
え死――。
「やれやれ、ピンチになるのが趣味なのか?」
聞き覚えのある声に、一瞬思考が停止する。
それは今まさに俺を一噛みする最中のスケルトンも同じように、そして食い込ませた歯を引き戻して、俺が向いてるのと同じ方向に振り返った。
それはつまり骨の隙間から覗く俺の真正面であり、スケルトンの背後。
それは洞窟の濡れた岩肌に似つかわしくない、カラカラに乾いた人体骨格の骸。
漆黒の眼窩からひょっこり顔を出すのは、手の平サイズからさらに半分の大きさになってしまった……!
「トカゲさん!」
「何度だって助けてやるさ。それが強者の責務なんでね」
はわ……カッコいい……。
その言葉の心地よさはもう性的快感じみていた。
トカゲさんはスケルトンを操縦して、今まで俺を襲っていたもう片方のスケルトンに指示を出す。
手をひらひらと、そこをどけと言わんばかりのジェスチャーをしてみせた。それを文句もなく従わせるあたり、トカゲさんの人望が伺えた。
「た、助かりました! ありが」
お礼の言葉もそこそこに、トカゲさんが操るスケルトンはガッシリと俺の頭部を鷲掴みんだ。
大きく開かれた口が迫り来る。
「え? トカゲ……さん?」
トカゲさんはもう喋らない。
箸で摘み上げた食物に抗う術はないと知っているのだ。
もう片方のスケルトンが俺の手を掴み、口を開けた。
獲物の内訳決めてただけだったああああああ!
結局お前も食うのかよ! 幼気な異世界人心を弄んどいて!
せめて死ぬ瞬間まで気持ちよくしてくれりゃいいのに!
いざ食べるとなったら途端にドライになるんじゃねえよ!
やだ、怖い! 食われ死ぬってなに!?
前世にどんな悪行積んだらこんな死に様晒すことになるんだよ!




