紅い月夜の殺戮者 ――レッドムーン・キラー――
送文記録:1件
送文者:ネック・ザン
件名:誰でもいいから助けてくれ
拝啓。
私の名はギルド〈小さき世界〉のギルドマスターネック・ザンである。
ギルドのメンバーは全員、私の目の前で死んだ。
今も命の危機に怯えながらこの送文を書いている。
どうかこれを読む方に届いてほしい。
これから私が書くのは弱小ギルドへの注意喚起であり、早急にベテランギルドを呼んで、この悪夢の連鎖を断ち切ってほしい願いである。
私たちが戦うべき相手は追い剝ぎゴブリンなどではない。
地獄の炎を扱う仮面の殺戮者である。
私は今から太陽が七回沈んだ頃、『追い剝ぎゴブリン討伐依頼』を承った。
最初は『ドラゴンみたいな化物じゃねェし、んなもん余裕だろ！ なァ！ ゴブリン如きに日酔っているヤツ、いるゥ～？』と仲間たちを励ました。
身内のノリ、きつすぎだろと思うかもしれないが、私たちのギルドはいつもこんなノリである。
楽しかった――依頼に行くまでの間は。
被害の村に着いた私たちは、すぐに歓迎された。
どうやら¨人間¨が来るのがすこぶる久しかったらしい。
だから、パーティーが開かれた。
酒を飽きるほど飲まされ、バカ騒ぎを村の人たちとした。
女の子はとても可愛いかった。
しかし、決まって背中に継ぎ接ぎ後があった――全員に。
私は気になって聞いたが、女たちは決まって『この村の風習ですよ』とはぐらかす。
今、思えば……、思ったところでたらればだ。
奴らこそ追い剝ぎゴブリン――人を殺して皮を奪って自分らの見た目にするゴブリンで、既に村を支配し、人になりすました後だった。
私たちは酔ったまま村で寝ることになる。本来、出るとされている洞窟まで距離があったからである。
夜――静かな夜。奴らは本性を表した。
私はふと尿意に襲われて、外に出る。
この日は丁度、紅い月で綺麗で、綺麗な叫び声が静寂な夜中に響き渡った。
私たちが寝ていた建物が火魔術で燃え盛ると、仲間2人が飛び出してくる。
チームの一番のガリがやられた、すぐにこの村から出ようとしたが、妖艶な容姿を持つ仮面の女性が目の前に現れた。
最初はギルド管理協会から応援が来たのかと思った。
これで、奴らの村を滅茶苦茶に出来ると思っていた。
刹那、仲間の1人が首を斬られ、身体が燃えた。
きひゃひゃと気味が悪く、笑い出す仮面の女性は『お命、頂きますわよ』と言いだす。
恐怖に襲われた残された私たちは依頼を放棄しようと、走り出した。
走っても走ってもきひゃひゃと追いかけてくる女性は、まるで怨霊のように怖かった。
途中で転んだ仲間を見逃さずに、その場で首を跳ねた――まるで、獲物の首を跳ねるかのように。
気がついたら私は洞窟の中にいた。
中は皮がない人の死体だらけだが、ここしか隠れる場所がなかった。
私は急いで魔術書を出現させ、送文魔術でこれを書いている。
今も足音がコツンコツンと洞窟の中で鳴り響いている。
私はもう長くはない。
これを見たギルド管理協会の方にお願いしたい。
どうか、上位ギルドにこの依頼を――
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「人間――人間って、すばしっこい」
快感――逃げた男の首を切り落としちゃった。
「死んじゃった――残念」
少し暑いから仮面を外す。
首がなくなった死体は赤い月に照らし出されると、あまりにも美しかった。情熱を秘めた瞳は紅く、何もかもが¨綺麗¨の二言で収まってしまう。
「あなたたちも転生出来るといいわね――異世界に」
首から流れ出る血を人差し指で拭き取り、ぺろりと舐める。
幸福――――人が死んだ直前に流れ出る血はひと際、美味しい。
男の生首は出口に向かって回りだす。
まるで――ちりじりに別れて死んでいった仲間を求めるように。
