ミュゼ・リア依頼考察〈後〉
【ヴェール目線】
ひんやりとした空気で真っ暗闇の中、
魔術で虹光を作り出して道を照らし出し、
ゆっくり、
またゆっくりと、
我はまた、同じ階段を上っていく。
我は美音壊の願神の完全復活を止めるために、生け贄の代替えになる魔力を産み出して、それを生け贄として扱った。
さすれば、復活はしちゃうけどいつでも我が生贄として扱った魔力を抜けるようになる。
椅子に座ろうとしている者の椅子を勢いよく引くいとも簡単な残虐な行為みたいで気が引けるが、もし、完全復活してギャーギャー歌われたら、周りの人々がいとも簡単に魔力を奪われてぽっくり逝かされるヤバいヤツとしか我、知らんから。
だからこうしてやった。完全復活だけは阻止するために。
途中で邪魔者が現れたようじゃったが、パツキン姉ちゃん率いるオフランス部隊? に助けられて無事に魔術を発動できた。
どうやら占いによってミュゼ・リアの地下街が分かったらしい。
占いした彼女曰く『世界の反対』じゃと。
凄いな! 占い! 少し見直したわ!
オフランス部隊、聞いたことはなかったのじゃが……、マナ・リア国防聖騎士団のエリート部隊にあったような……なかったかのような……。
まぁ、国の上は大嫌いだからそれはそれとして置いといて……、
――ここの階段やっぱクソ長い!
長い! とにかく長すぎる!
疲れきったか弱い脚に酷じゃ! 酷っ!
我の身体、幼女じゃぞ! 幼女!
空気はひんやりしているわりに身体がほとばしるぐらいに暑いし、汗も止まらないし。
誰じゃよ、こんなクソ階段設計したやつ。出てこい。絶対に処す。
はぁ……。
ため息吐いても歩み続けなければここから出られないし、帰って貯まっている漫画もゲームもすることができない。
いらつくが仕方なく歩き続けるしかなかった。
さて、地上はどうなっている? 激しい轟音が鳴り響いたようじゃが……。
――アヤメ・キリエ。
地下からでも分かる風の轟音に何かを激しく切り刻んだような金属音。
明らかに凡人が使うレベルの魔術ではない。複数の詠唱を唱えて発動した結果じゃ。
間違いない。我が知る限りこれができるのは彼女しかいない。
否、正確に言うなら戦いながら成長した彼女がやりおったか。
彼女は【原初の世界】から来た異世界転移者。
我も幼い頃、同じ世界に行ったことがあるが……、しかし、彼女は本当に【原初の世界】から来たのか……?
魔力を出し続ける修行をさせた時、目から菖蒲色の魔力オーラがゆらりと狼煙のように溢れ出ていた。
“【原初の世界】から来た異世界転移者だから”で納得出来るかもしれないが、彼女に稽古をつけているとそうとは思えない。
もっと別のおぞましい何かが身体の深淵に眠っているかのように見える。
彼女が知らない幼い頃に異世界転移して一度やってきたのだとしたらこの力に納得は……流石にないか。
んむ、とんでもない弟子ができた。ゼネと巡り合わせに感謝だな。
さて、やっと自然の明るい光が見えてくる。
こんなクッソつまらない階段はおしまい。
さっさと登り切って自然の空気を吸って、
――アルムン。
――ハイネン。
――マーリン。
――キリエン。
会いに行こう! 久しぶりすぎてあやつら驚くぞ!
飛び跳ねるような気持ちで階段を駆け上がっていく。
外に出られる扉を思いっきり開けた。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
【ヴェール目線】
〈アーク・レインドラ〉の寝室で私は起きる。
朝の支度をしながら騒がしかった昨夜のことを思い出していた。
ソウル・ラウンドアバウトの屋上を貸し切って、遅れてやってきた〈オルレアン部隊〉の戦友たちと一緒にお疲れ様パーティーをした。
ニヤが私たちが戻るまでの間、デカい魚を釣り上げて、異形の天使がいなくなった後で急いで町にあった肉を買い占めて、厨房を借りて晩御飯を作っていた。
絶品。
その二字熟語では足りないほどの胃を震わせる料理の数々を堪能できて幸せだった。
異形の天使を倒した時以上に生きた心地がした。
アルムは異形の天使との戦いで酷いけがだったから参加できなかった。
でも、ハイネが料理を持って行ったから多分、楽しめたと思う。
ジャンヌとゆっくり話すことができた。
彼女は祖先が異世界転生者らしい。だからいつか祖先が生きていた異世界に行きたいから【いせかいのとびら】を探していると。
私には【いせかいのとびら】は触れるとあたたかいことしか分からない。
その代わりに私が居た時のことを話した。
彼女から「綺麗な花畑は?」と聞かれたからなばなの里に行けばあると思うと答えた。
花に対してはあまり興味を持てなかったからごめん。今後、【いせかいのとびら】を見つけて私がいた世界に行けたら、是非、そこに行って花畑を見に行ってほしい。
そして、彼女と約束した。
「今度、誰も邪魔されない場所で真剣に手合わせをしましょう!」と。
いつかまたマナ・リアで会うため、笑顔で彼女と指切りをした。
連絡魔術で連絡できるように魔力を交換して魔術書に連絡先を刻みつけた。
ただ、一つだけ後悔していることがあった。
『昨日、みんなを笑顔にする〈ムジカ・アクセント〉所属のアイドル、オトナシ・アリアさんが行方不明になっていて自警団が情報提供を求めています』
ブリッジに着くと流れている朝のテレヴィの音。
アリアが行方不明になっていることを情報伝達者が伝える……、なるべくなら私は見たくない悲しい情報だった。
私は依頼を守れなかった。彼女を……友達になれたと思うアリアを守ることが出来なかった……。
『今日のドームライブ、人が埋まっていたのに……、アイツはどこに行ったんだ……』
光の向こう側に彼女の関係者が映っている。
彼女が吐露した気持ちを考えるとそうじゃないと言いたくなるが……。
「なァ? アリアはどこに行ったと思う?」
ソファで座っている包帯グルグル巻きのアルムが聞いてくる。
私は少し考える。
笑顔で星空の海へ消えていった彼女を脳裏に浮かべると、
「彼女はもっと自由に歌いたくて飛んだんだと思う。最強になって頂点取ったら……この世界だけじゃ狭すぎるよ」
窓の向こう側には青空が広がっている。
きっと今度は自由に誰にも邪魔されずに歌っているんだ。
私はそう信じたい。心から歌うことが大好きなアリアが誰にも邪魔されない場所で、のびのびと全力が出せる場所で。
「じゃあ、俺は安心できるな! よし、気持ち切り替えていこう! 俺もアリアに負けないようにッ!」
アルムがニコッと笑う。屈託のない青空のような晴れた笑顔で。
ミュゼ・リアに来てから初めて見たような気がした。
「朝から元気すぎるな、アルムンは。もっと身体を休めたらどうだ」
操縦席の回転椅子をぐるりと回ってヴェールがこっちを向く。
朝から優雅に身体に悪そうなえげつのない色をした見た目が気持ち悪いお菓子を食べていた。
「うるせぇ……、十分休ん……痛ッ! 背中つった……」
「ほぉら、休んどけ休んどけ! 声デカ暴力暴言女に怒られない内に我はのびのびと……」
「――こらっ! 朝からお菓子を食べるんじゃないニャ!」
「ゲっ!?」
「そうですよ! ヴェールさん。こんな闇、食べたもんじゃありません。身体に毒です!」
調子に乗るヴェールを今来たニヤとハイネがしかりつける。
「闇とはなんじゃ! 闇とは!」
「はい、灰魔術」
次の瞬間、ハイネの灰魔術によってえげつのない色をした見た目が気持ち悪いお菓子の数々は灰となってしまった。
「わ……、我の菓子が……」
「お菓子よりも朝ごはんをしっかり食べましょう! ねっ!」
それはそうだと思うが、流石に酷すぎるとも思う……。
仕方なくヴェールはハイネから朝ごはんが載ったおぼんを受け取ると、「我、操縦席で食うから」と言って行ってしまう。
しばらくして、
「みんな揃ったな! さっさとミュゼ・リアから出るぞ!」
館内放送が響き渡る。少しだけヴェールは拗ねているようだった。
起動するエンジンの音。
ニヤが作ってくれたトーストを食べながら窓から外を見ると、虹色の煙に砂が埃のように吹きあがっていた。
「生きて帰れるだけよし! 〈アーク・レインドラ〉発進!」
ヴェールがそう言うとアーク・レインドラ勢いよく前へ前へ進んで行く。
この町には後悔しかないけれど、それでも明日、明後日の未来が私には待っているから。
今日までのことを絶対に忘れずに戦い続けていくしかないんだ。
/第四襲 歌衝争儀編・了
約2年と2ヶ月に渡る『歌衝争儀編』が終わりました!
誤字脱字や足りない表現はあるけれど、それでも応援してくださっている人のおかげです。
もっと精進します!
それでは次回『魔具風迅編』でお会いしましょう!
読んでいただいてありがとうございました!




