【美音壊の願神】へ送る妖眼の憐歌(終) ――ミュザイア・キリエ――
――8本。
――――64本。
――――――――2乗の2乗と旋風刃の刃が増えていく。
私自身のありとあらゆる神経を張り巡らせ、飛ばした刃に過不足なく魔力を流し続けている。
分裂した小さな刃はあまりにも大きな異形の天使にありとあらゆるところを切りつけに行ったが、いまだに体内に存在するだろう現魔術書が見つからない。
あの天使の身体の大きさに対して刃が小さすぎるから全体を切り刻めないと思ってしまった。
このまま探しきれないのであれば私が耐えられない。先に死んでしまうのは私だ。
嫌な汗が身体に滴り落ちて不愉快。
どうすれば……と口から吐きたくなる……。
それでも、魔力を流し続け、現魔術書を絶対に見つけるしかない……!
今度こそ私が……倒すんだ……!
【――“眼”覚めの時よ……! 君……!】
ゾワゾワする……。
周りにはほぼ人は動いてなかったはずだ。
ひとけがないのに消え入るような声で誰かが隣でそっと囁いたから……。
その瞬間、その声が聞こえた刹那、時が自然が異形の天使がゆっくり動いて見える。
“死”が隣で待っているぐらいの邪悪な魔力だけが耳の感覚に残って気持ちが悪い。
心臓が破裂するほどの激しい動悸がする。
まるで、この世にいない誰かが私に吐いた魔術みたいで……。
違うっ! 今は目の前の異形の天使の現魔術書を切り刻むことに集中しろっ!
意識を研ぎ澄ますため目を閉じる。
ゆっくり心を落ち着けて、息を浅く吸って吐く。
“眼”を開け、――――詠唱が口からすっと出てきた。
「【我、風の刃と共にあり――】」
こんな詠唱、記憶にない。
「【風の刃、自然と共にあり――】」
でも、頭からおのずと湧き出てきた。
「【風に生を受け――】」
今は目の前にいる異形の天使を倒せるなら頼るしかない。
「【風に名を受ける――】」
やってやる! ぶっつけ本番だ……!
「【幾千幾億の自然の風が――】」
私が身に纏っていた魔力が緑色から徐々に徐々に白く紫色に光っていく
「【嵐となり――】」
颯々たる風の音が強く激しく包み込む。
「【我を束ねて――】」
友達の風にも応援されているんだ……!
「【刃となる――】」
やって見せる!
「発動っ! ――――【妖眼大刃風切】!」
不思議と意識が研ぎ澄まされ、私に残っている魔力全てが分裂した全ての旋風刃に送られる。
身に纏っていた魔力オーラも白紫色に輝きだし、瞬く間に一本の巨大な光の刃になった。
まるで、嵐かのように私の周囲に激しい風が吹きすさぶ。
さっきまで風なんて吹いてなかったのに、私にまだあきらめるなよと応援しているみたいだ。
「これで……! 断ち切る……っ!」
旋風刃を思いっきり振り下ろす。
すると、巨大な光の刃が、風が、異形の天使に向かって、瞬く間に飲み込まれた。
耳からかすかに聞こえてくる何かを切り刻む音。
ようやく……ようやく現魔術書に旋風刃が当たり切り刻まれているらしい。
人を不幸にする魔術なら、現魔術書から二度と魔術が発動できないぐらいに細かく切り刻んでやる!
「ア縺ゅリjガ縺ト後→…………」
直後、ミュゼ・リア一帯を瞬く間に激しい白紫色の光が包み込んだ。
ふと、目映い光の中で目を開けると、目の前にはアリアが立っていた。
――彼女は笑顔で私に……。
なんて言おうとしたか分からないけど、こう言ったと思う。
『ありがとう』と。
目映い白紫色の光が晴れていく。
はぁ……はぁ……とありったけの魔力を使いきったから息切れが激しい。
今は外の空気を吸い続けなきゃ死んでしまうぐらいに。
空を見上げれば満天の星空。
星空の下で異形の天使がついさっきまで存在していた場所でアリアが満足そうに微笑んで眠りにつき、やがて、灰となって輝く一番星まで消えてしまった。
どうやら私は……、私たちは異形の天使を倒すことが出来たらしい。
倒す瞬間はこの目で確認できなかった。光がこれでもかってくらい激しすぎて……。
でも、音で異形の天使が朽ちていく感じが伝わってきた。
だから、絶対、私が倒したんだと確信している。
そうじゃないと、私がここにくるまで頑張っていたアルムが無駄なあがきみたいでかわいそうじゃないか。
ちゃんと彼女に気持ちは伝わってたこと、帰ってから話さないと……。
――旋風刃の刃が柄に戻ってくる。
すると、徐々に刃が錆びついてしまい、ついには柄だけ残して刃はボロボロと粉々に朽ちてしまった。
「ありがとう……今まで一緒に戦い続けてくれて……」
軽くなった旋風刃を強く握りしめる。
今日の私の全力に付き合ってくれて感謝しきれなかった。
無事に今日、キリエと愉快な仲間たちがアリアを倒すことができました!
普段、読んでいただけている読者のおかげです!
ありがとうございました!
もう1話だけ歌衝争儀編は続くんじゃ……!




