表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第四襲 歌衝争儀編
78/85

【美音壊の願神】への終止符(急) ――ミュザイア・コロン――

【アルム視点】



 ――――突如、心臓の痛みが走る。



 口から溢れんばかりの熱い液体が吹き出てきた。



 次第に力が入らなくなって、翼が消滅していく。



 気がつけば、真っ逆さまに落ちていた。



 あと少しで、ほんの少しでアリアのところまで行けたのに、俺の新しい力を過信しすぎた。



 あぁ、力がもう出ねェ……。



 最高にダセェな……俺ェ……。



 このまま大人しくクッソ高いところから落下して、あっけなく死ぬらしい……。



 俺のことを拾ってくれたヴェールにここまで育ててくれてありがとうって言えなかったなぁ……。



 出生不明のクソガキだったけど、ヴェールとハイネ、そして、キリエのおかげで毎日が楽しかった。



 あぁ、楽しい人生だったなぁ……。



 つーか、俺、人なのか?



 えっ? そこはっきりしないまま死ぬのなんかイヤなんだけど!



 こんな可愛い愛弟子が死にかけなのに助けにこないヴェールに腹立ってきたんだけどッ!



 おいッ! どうなっていやがるッ!



 もう少しで俺、地面にあっけなく叩きつけられンだけど!?



「あぁ~~――――クソッたれェェェエエエエエーー!」



 地面に当たる直前、怖すぎて目を瞑った。


 ――――ふにっ。


 ふにィッ!? なんか柔らかい感触がするんだけどッ!?


 そうか! 俺はもう地面に叩きつけられて即死したから、これは天国の雲の感触か!

 はぁ~~、天国って柔らけェ~!


「灰魔術! 【灰神楽(はかぐら)】!」


 えっ!? 天国なのに、なんか聞きなじみがある声がする。

 俺、ちょっとイヤな予感するんだけどッ!?


 つーか、灰が喉の変な場所に入って咳が……ごほッごほッ……。


「なんとか……! なんとか間に合いましたね……!」


 やっぱりこの声にこの魔術はほぼ確でアイツしかいねェ……!


 恐る恐る目を開けると、

「助けに来ましたよ! アル!」

 舞い散った灰が晴れた先に俺のおっぱいドジっ子疑似お姉ちゃんことハイネが俺をお姫様抱っこしていた。

 カムバック……ヘル……! 何が天国だよッ! クッソォ~~!


 辺りを見渡せば、人の気配が感じられないミュゼ・リアのどこか。

 果物や雑貨が見えたから出店の商店街ってところか。


 奥を見れば、アリアが俺が発動したと思われる魔術の熱気で苦しんでいた。

 無我夢中だったからこんな熱気が出るとは思わなかった。

 本来であればアリアを引っこ抜いて帰ってくるつもりだったのに……無理だ。

 気合いと気迫に根性、そして、何よりも勢いと速さが足りないと思ってしまった。


 あァ、今の自分が悔しい……!

 ボロボロになってハイネに安全な場所まで連れて行かれる自分が超悔しい……!


 心臓が痛ェ……と邪悪に澄み切った赤く染まった空を見る。


「こらっ! アル! 聞いてましたよ! 汚い言葉を使ってはいけません!」


 俺の耳にキンキンに響くような金切り声で勝手に怒っている。

 わぁ~わぁ~がやがやとハイネが言えば言うほど耳にダイレクトに伝わってきて、アリアの魔術より殺意あるぞ! コイツ!


 あまりの声量に耐えられねェからそっぽ向く。

「とりあえずイヤフォンです! ボロボロですが……、本当に……ほんとにいぎででよがっだ……!」

 横目でチラッと顔を見たら、意外なことにハイネは泣きながら俺の耳にイヤフォンを刺す。

 泣くのもそうか、今回ばかりは俺が勝手に危険なことをした。

 推しのためとはいえ、勝手に死にに行くような真似をした。

 俺が死んで悲しむヤツはいる。現にハイネが泣いているし……。

 ロリニート(ヴェール)は泣くんだろうか……。


 分からねェ……。


 ただ、少しだけ初めて分かった。

 一歩間違ってここで死んでしまったら、ハイネが泣くかどうかすらも分からなかった。


 あァ……、まだ生きててよかった。


 つーか、さっきから俺の肌がなんか知らねェーけど水に濡れた感じが……。

 これ、ハイネの涙と鼻水じゃねェエーかッ!


「俺を抱きかかえて泣くんじゃねェ!」

「生きている内に鼻水攻撃です!」


 喉が、喉が突き刺すように(いて)ェ!

 アリアよりもハイネに向かって叫びすぎてしまった。


 はァ……。

 息を吐いて心を落ち着ける。


 ふと、もう一度アリアを見ると、背中から虹色の粒子が出ていた。


「なんだよ、ロリニートの癖に……! 助けに来てくれたじゃんか……」


 よく分からねェーんだけど、クソデカアリアの本来の力が出せてたなら今頃、吸われたヤツ全員死んでいるはず。

 なのに、まだ微かな息が聞こえ生きているなら、ロリニートがどこかで弱体化(デバフ)をかけたに違いねェ!

 アイツ、サボっていると見せかけて、しっかりと裏で働いていやがる!

 また、一本取られてしまったと深いため息を吐いた。


 もう一つだけ……、

「なァ、キリエはアリ、あのクッソデカい化け物と戦っているんだよな?」

 ハイネがここにいるならキリエもどこかに絶対にいる。

 ハイネだけじゃ、脚がクッソ遅いし、トロいし、ドジっ子だし、俺のこと絶対に追いかけられないだろと思った。

 しかし、どういう風の吹きまわしか奇跡か分からねェけど、ハイネが助けにきた。


 奇跡だ。こんな出来事、初めてだ。


 だから、ハイネだけじゃない。

 キリエがハイネをどこかの道中で助けたからこそ、ハイネは俺を助けることができた。


 今、キリエはアリアと戦っているはずだ。


「えぇ、キリエさんなら秘策があるって言っていました。だから、信じましょ! 絶対に帰ってくるって!」


 こんな弱り果てた自分が情けねェ……!


「信じるか……。まぁ、ロリニート以上に信用できるしな!」


 キリエが無事に帰ってくることを信じて……、目が自然に閉じた。


 あとは……頼んだぞ……!




 ♢ ♢ ♢


【キリエ視点】


「ヤ繝、ケ繧アル繝ォ…………イ繧、タ繧ソイ繧、…………」


 ハイネにアルムのことを任せた後、やっとのことでヴェールの自動二輪車型の魔具を止めて、降りる。


 私の目の前ではアルムが放っただろう熱気に異形の天使はもがき苦しんでいた。


 アリアが可哀そうと思いたいが、周りで大勢の人間が魔力を奪いつくされて死ぬかもしれない恐怖と比べたら、まだ幾分かはましだと思いたい。


 おかげでアリアと戦ったときに感じていた邪魔な音の壁は感じなかった。


 これなら行ける! やってみせる!


「よし……!」


 自身に鼓舞するためそう言うと、左腕に魔力を込める。

 そして、

魔術書(アルバ)!」

 魔術書を出現させた。



魔具召喚魔術まぐしょうかんまじゅつ旋風刃(せんぷうじん))】」

 魔術書を勢いよく開け、呪文を唱えながらページを破る。

 風が強く吹き上がり、瞬く間に【旋風刃】を腰に召喚させて据えた。


 はぁ……と息を強く吐く。


 狙いは異形の天使ではない。アリアでもない。

 身体のどこかに眠っている“始祖(しそ)現魔術書(リアルバ)”だ。


 博物館のおじいの話を聞いて、たった一つだけ気になったことがあった。


 発動した後の現魔術書はどうなるのだろうか? って思った。


 魔力を持つものがすぐさまに出せる魔術書というものはどうやら近年で発達した『自信が出せる魔術を可視化できる魔力の塊』らしい。

 出したい時に出せて、邪魔な時は消滅させることが出来る。

 しかし、現物として残り続ける現魔術書はどうなってしまう?


 そこに残り続けるのか……? あるいは、発動したら跡形もなく消えるのか……?


 なんとなく博物館で見た現魔術書はそのものが魔術を発動しているように見えた。


 なら、立てられる仮説を一つ。


 ――発動した現魔術書の魔力にアリアが吞み込まれて、異形の天使が突如、現れたのではないか?


「タ繧ソス繧ケケ繧ア…………」


 だから、私は……これが一番正しいと信じる私を全力で信じてみたい……!

 信じて、今出せるだけの魔力を【旋風刃】に注ぎ込んでみたい……!

 注ぎ込んで、異形の天使の身体のどこかに眠っている現魔術書を切り刻まなきゃいけない……!


 ゆっくり、ゆっくりと鞘に納まった刀を引き抜いていく。


 そして、

「風の中――消えろ、刃! 行けっ! 【旋風せんぷう)(まい)】!」

 

 一本の刀の刃がが分裂して八本に。

 異形の天使に向かって勢いよく行かせた。

後、2話で歌衝争儀編が終わります!

終わりに向けて! 次の章に向かって! 全力で2話書いていきます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ