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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第四襲 歌衝争儀編
77/85

【美音壊の願神】の間奏(破) ――ミュザイア・アリア――


【アルム目線】


 辺りに光り輝く光弾やアツそうな炎が流星のようにアリアへ降り注いでいく。


 だけど、当たる直前で“何もなかったか”のように周りから消えてしまっていた。

 おそらくはクソデカアリアのなんかの能力が周りで働いている。


 彼女が歌えばミュゼ・リアを護ろうとする兵士たちはもがき声が空を飛んでても聞こえるし。

 俺は魔術のこと詳しくはねェンだけど、多分、“アレ”禁止されたなんかだろ。

 使っちゃいけねェって。一般的な魔術じゃねェって。



 気を抜けば他人が発動した魔術や矢に当たりかねない状況だ。

 現に俺も「街に現れた化物だ!」って狙われているし……。

 けど、それでも俺は前へ進むしかねェ!

 避けながら飛び続けながら、どこを攻めればいいか? 考え続けていた。


 絶対にアリアを殴りたくないが――――ん、身体になんか人埋まってねェか?


 そう思って、周りの光を避けながら人が埋まっている場所に向かって今よりも勢いよく飛んだ。


 ――外は暑く、汗が気持ち悪ィ……。

 どうやら竜化は思ったより熱がこもるらしい。心臓がドクドクと鳴り響き続けてクソしんどい……。

 身体はいつもよりも軽いンだけど、魔術を使えば使うほど身体がひび割れそうに痛い。


 それでも、それ以上にアリアは心がつらいはずだ。

 人前で歌って踊るって、多分、大変なんだよな?

 だったら、俺も戦わなきゃいけねェな!


 目の前に近づいてくる身体に埋まった人。


 肌が黒く、ただひたすらに叫んでいるような顔……。


 この顔、アリアにそっくり!? ってかアリアかッ!?


 だったら、話早ェ!

 本体(コイツ)からアリアを引っこ抜けばこのデッケェヤツも消えるだろ!


 ――しかし、思ったよりも空気の負担が強ェ!


 本体に近づけば近づくほど、身体が圧縮されていく。しかも、キーンとした音が耳に鳴り響き続けて気持ち悪いし……。

 このまま身体がきしんで小さくなっていくような感覚を続けたら俺はヤベェ……。


 気がつけばクソデカアリアの顔が俺に向いていた。

 ――超ヤベェ……!?


 真正面から面と向かって見れば、おぞましくゾッとするような異形の顔。

 泣いてもいるし笑っても見える。そんな天使の姿をしたクソデカアリアが俺を凝視していた。


 咄嗟の判断で目を瞑る。

 心を落ち着かせ、力を緩め、

明鏡止時(めいきょうしじ)】……」


 音の圧力に屈して、反発されるようにクソデカアリアから一気に離れていく。

 そして、

「発動――【「(そく)(きゃく)】!」

「――――ジ繧クャ繝」マ繝ア槭ぃァ繧。ァ繧。ァ繧ア「ア繧「ア繧「ー!」


 俺に向かって怒鳴り散らすかのような叫びがミュゼ・リアに響き渡った。



 同時に、今の俺が出せる全速力で。


 先へ――。



 先へ――――。



 ただその先へ――――。



 間一髪でアリアの反対側の先へ回り込めて――――声の余波で吹っ飛ばされた。



 鈍い音が響き渡る。


 耳から、

 身体から、

 骨の芯から、

 ありとあらゆる身体の部位が痛いと悲鳴を上げた。

 どうやらミュゼ・リアの建物に墜落したようだった。


「……なんだよ……、俺…………ハエ扱いかよ………………」


 ぶはっと口から液体が出てくる。

 口を押さえて何かと手のひらを見たら、真紅の血。


 こんな俺でもしっかり流れているんだと逆に安心した。


 身体全体が痛いという気持ちを抑え、手をグッと握りしめる。


 あぁ……、目の前がくらくらする。

 クソデカアリアがゆらゆらと陽炎のように揺らめいている。


 でも、俄然やる気超出てきた。――――音の圧はどうやって「ぶち壊してやろうかッ!」


 脚に力を込めて、その場で勢いよく飛ぶ。

 翼をはためかせてクソデカアリアとの距離を縮めていく。


明鏡止時(めいきょうしじ)】……ッ!」


 一つだけ、ほんのたった一つだけ攻略の一手を考えた。


「【集中せよ……! 俺の心ォォォオオオッ――】」


 シバリングしながら両手に魔力オーラを集中させる。

 そうすれば、手に熱がこもり、溢れた魔力オーラを()()()()と身体を誤認させられるかもしれねェと考えたわけだ。


 ――だから、気合いを入れて両手に魔力を集中させる!


「【真っ赤に灼熱せよ……! 俺の両腕ェェェエエエエエッ――】」


 シバリングさせて両腕に熱をこもらせる。

 初めて見る真っ赤な両腕にやればできるもんなんだなと感心しつつも、まだまだ気を散らすわけにはいかねェ。


「【絶対に勝てよ……! 俺の身体ァァァァァアアアアアッ――】」


 ふつふつと煮えたぎる()()()両腕に業火のように火照っていく俺の身体。

 今ならイケる! ――――絶対ェにイケるッ!

 ありったけの気合いと気迫と残っている魔力をクソデカアリアにぶつけるッ!


「発動ッ――――灼熱赤破(フレイミング・)勝掴神拳(フィスト)ォォォォォォォォオオオオオオオオッ!」 


 ありったけの両手に溜めた魔力を放出し、目には見えない音の壁に手を伸ばしてみる。

 音の圧に圧し潰される感覚はあるけど……、彼女の苦しみと比べたらイケるッ!

 それにぶつけるのは気合いと気迫だけじゃねェ!


「俺はァァァアアアッ! アリアの歌が好きなんだよォォォォォオオオオオーーッ!」


 好意ッ!

 彼女が歌う歌が大大大大大大大大大大大大大大大大大好きな気持ちをアリアに伝えるんだよォォオオオオオオオオオーーッ!


 ♢ ♢ ♢


【キリエ目線】


 ――辺りに耳を防ぎたくなるような音が響き渡る。


 耳を劈くぐらいの爆発する音とともに異形の天使が悲鳴を上げた。

 身体がメラメラと燃え上がり、呻き苦しんでいた。


 ヴェールの二輪車型魔具に乗って空を飛んでいるから心地のいい風が流れて来てたのだが……、暑苦しいと思えるくらいの爆風がさっきの一瞬で覆いかぶさってきて一気に汗が吹き出てく。


 ――一体、誰が? どうやって? この爆風を発生させた……?


 ふと、建物の隙間から豆粒ぐらいの人が見えた。


 これが辺り一面を爆発させた人なのか? と考えていると……、どこからか近くで息を荒げている女性の声がささやかに聞こえてくる。


 ふと、上空から瓦礫が女性に向かってきたから、二輪車型魔具に魔力を入れて加速する。


「行けっ! 旋風刃!」


 8本の刃が瓦礫をいとも簡単に細かく切り刻む。


「ここはもう危ない。どこか安全なところに行けるか?」

 息を荒げている女性にぶつかる頃には砂と変わらないくらいの小粒になった。


 この灰色髪に黒いレザー調の服どこかで……。


「えっ、ありがとうございます。――って、キリエさんじゃないですかっ!?」


 驚いた。ハイネだった。


 ハイネは耳から何かを取る。

「どうしてこんなところにいる……?」

「アルが……一人であの怖い天使のところに……」


 今、真っ赤に燃えている異形の天使に指をさしながらぜぇぜぇ、はぁはぁ。


 とにかく見ていて辛そうだった。


「耳栓ようやく出来たころにはもう激しい音が鳴り響いていて……、アルの普段通りの馬鹿でかい声が聞こえてきたから安心はできますが……」


 でも、見ていて不思議だった。

 ハイネだけが異形の天使の影響を受けてなかった。


 本来ならば魔力ある人間が歌声を聴けばよぼよぼにしぼんでいくはずなのに、どういうわけかいつも通りのハイネだった。

 いや、(キリエ)もうるさく感じるだけで、何も変わってないようだが……。


「ハイネは天使の歌声は大丈夫なのか……?」

「えぇ、それはもう! あの大きな歌声に対して耳栓を作りましたから!」


 じゃーんと見せるハイネ。

 確かに耳栓から魔力を感じる。


「これをアルの元へ届けなければいけません! あっ、キリエさんの分もありますよ!」

 彼女から耳栓を受け取ると、両耳に差し込んだ。

 ――――これなら行ける……!


「ハイネ、後ろに乗れるか……?」

「後ろですか?」

 自動二輪車型魔具を地につけるとハイネを後ろに乗せる。

 彼女の手が私に覆いかぶさるように操縦部を握りしめた。


「よし……、――行くぞ……!」

「ふぇっ!?」


 魔力を流し込むと、煌びやかに光り出して、粒子をまき散らしながら勢いよく発進する。

 あまりの速さにハイネが驚き、勢いよくしがみついてくる。

 ってか、背中から胸の圧が凄まじい。


「はっ……、速すぎですよっ!? こんな速さ、体感したことがありませんっ!」

「ん……? 速いのか?」

「速すぎですってェー!」


 空に異形の天使とハイネの叫び声が響き渡る。

 耳栓ではあまり聞こえないおかげでより運転に集中できる。早速、使い勝手の良さを実感できた。


 さて、――――これなら異形の天使を攻略できる!


二年も完結待たせちゃった歌衝争儀編もいよいよ2~3話ぐらい!

次回もよろしくお願いいたします!

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