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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第四襲 歌衝争儀編
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叫びのような子守歌 ――チェリッシュ・カムパッション――


 (キリエ)は果てない暗黒(やみ)の中で漂っている。



 ありったけの魔力を使い果たしてぐったりと……、――あれからどうなった……?



 どこからか悲鳴が聞こえてきたから向かった先にはアリアがいた。



 彼女こそ罪なき人を“叫んで声が枯れたかのような死体”にさせていた犯人。



 でも、彼女と戦ってみて誰かの助けを求めているようだった……。



 ――彼女の心そのものを助けてくれる人。



 ――心の底から笑い合える人。



 ――心そのものを分かり合える人。



 そんな人を彼女は求めていたんじゃないだろうか?



 魔術は“発動者の本質に似る”って幼い頃に魔術基礎の本で見た。



 アリアは自分を認めてほしいと願い続けていたからこそ、自身の得意な歌声と認めてくれない誰かを拒絶する心の壁が混ざりあって今の魔術が完成したのでは……?



 だから、手を差し伸べて助けたかった。



 彼女のことを少しでも分かってみたかった。



 だけれど、エンデが現れて……アリアは殺された。



 ありったけの身体の中の魔力を使い切っても倒せず、挙句の果てにはアリアを抱きかかえたまま逃げてしまった。



 あぁ……、(キリエ)はまだ弱い…………。



 まだまだ強くなりたいし、ならなきゃいけない。



 どうすればと思っても、私そのものに魔力はない。



 ふと、耳をすませば、どこからか歌声が響いてきた。



 木漏れ日のようにやさしく温かくて……。



 いつの日か元居た世界のおばあちゃんの子守歌を思い出した。



 虹色髪で瞳がクリスタルの少女が活躍する絵本を木漏れ日の中で膝枕して、よく読んでもらって、最後に子守歌を聞いてよく眠っていた。



 おばあちゃん、あれから元気だろうか……?



 (キリエ)は虹色髪で瞳がクリスタルの少女というかお姉さんというか変な人というか……?



 よくわからないけど、異世界でいろんな友達ができたと思う……!



 笑いたい時、悲しい時、怒りたい時は一緒に共有することができて、



 苦しくて大変な時があったら、お互いの手と手を取り合って助け合えることが出来て、



 ――――そんな最強で最高な友達。



 虹色髪で瞳がクリスタルの少女は最後まで諦めずに友達を笑顔にし続けていたのだから。



 だから、私も――――最後まであらがい立ち向かい手をさし伸ばし続けよう。


■ ■ ■


「よし……!」


 腰が、筋肉が、骨が、きしむように痛いし、右太もも、左の二の腕はすりむいていて流血していた。

 私は回復魔法を使えない。

 だから、独りでの依頼が多かった経験から今でもすぐに応急手当が出来るセットを常に腰に携帯していた。

 イタミスグトレ草を塗りたくった湿布、最強。


 右太ももを包帯で程よく縛ると、暗闇の夢の中で聴こえたアルムの声を探し出すため走り出した。



「――――ア繧「ア繧「ア繧「ア繧「ア繧「ア繧「」



 大きな声に、空気が破裂するかのような打撃の音。

 ふと、空を見上げれば<ミュゼ・リア歴史研究博物館>で見た人の形から鳥のような翼が生えた天の使いが歌っているようだ。

 

 昨日見た像の影とそっくりそのままで驚いたが……、しかし、話によれば依代になったミュゼ・サーリアは死んだはずだ。


 ――――一体、誰が依代に……? ここまでの化け物、誰が依代になって顕現できる……?


 まさかとは思いたいがこの声……、アリアの声にそっくり……!?


 悲しくて、

 怒ってて、

 苦しくて、


 行き場のない想いが歌声となり、空気にぶつけられて風が怖がっている……。


 走りながら周りを見ていると、魔力をあまりもっていないミュゼ・リアの民がもがき苦しんでいた。

 魔力(まりょく)生力(せいりょく)を緩やかに奪われ続け、おじいちゃん、おばあちゃんみたいによぼよぼになっていく。

 混乱している民は我先に逃げようと必死で、道路は混雑していた。


 これが【美音壊(ミューズ)】――――周りの人間の魔力、生力を奪いつくす魔術。

 ミュゼ・リアの明るい街が天の使いによって奪われ始めていたようだ。


 私が思っていた以上にことが進んでいる。

 助けたければ、あの天の使いを倒すしかない……と。


 しかし、逃げ惑う民が多すぎて、私が走れる道はあまりにもなさすぎる。


 さて、どうやって――――?


 どこからか機械(マシン)のような駆動音(くどうおん)が聞こえてくる。

 

 ――この音は確かヴェールが乗っていた二輪車型魔具の音……!?


 ふと、音が聞こえた方を見上げると、間違いない。

 虹色に光り輝く無機質な魔鉄のボディに、辺り一面にまき散らされる虹色の粒子。

 ヴェールが乗っていた二輪車型魔具が私の元へ向かってきて、目の前で止まった。


 しかし、誰も乗っていない。無人のまま私の元まで来たようだった。

 ぱかぱかと前方部分が虹色に光る。どうやら私に乗って欲しいようだ。


 よし――ならば、乗ろうかと、二輪車型魔具にまたがる。


 すると、搭載されていた虚映受像魔具(きょえいじゅぞうまぐ)が起動して光映像(ホログラム)が展開された。


 どうやら、二輪車型魔具の名前は〈アーク・ヴェーラー〉。

 速度をつけて運転したかったら搭乗者の魔力が必要らしい。


 息を吸って……、吐く。 


 そして、〈アーク・ヴェーラー〉に魔力を流し込んで――――加速した。


 私が乗った二輪車型魔具は虹色に輝くオーロラを宙に作り出し、天の使いがいる場所まで向かい始めた。

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