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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第四襲 歌衝争儀編
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【美音壊の願神】の独唱(序) ――ミュザイア・サヴァイヴ――

【アルム目線】



 走れッ!



 走れ、走れ、走れッッッ!



 俺の脚ッ!



 俺は俺の脚にとにかく走れと指示しながら、はるか向こうにいるおぞましいクソデカ化け物に向かっていた。


 俺の感だが、アノおぞましいクソデカ化け物はアリア。

 絶対(ぜって)ェ、アリアだ! 間違いねェエー!


 今まで脳裏に焼き付けてきた歌声がッ!

 あの化け物はアリアだと訴えかけてくる。


 信じたくないのに、脳は今体感した歌声から全てを信じろッ! と言ってくる。


 正直、どうすればいいか俺には分からねェ……。


 つ~か、着いたら俺はどうすればいいんだ? 仮にアリアを殴れんのか?

 ――――大好きな推しを殴れるわけねェエだろッ!


 アリアの歌声はどうやって対策する?

 ――――耳塞いでしまったら彼女に失礼だろッ!


 俺は動いてから考えるアホンダラだからよォ……!

 おとぎ話みてェに“二人は幸せなキスして終了”だったらいいんだけど、多分、現実は非常だから(ちげ)ェ……!


 行ったら何か変わると信じて……――ただ、あの化け物に向かって走るしかねェエッ!


「そこのお嬢さん、すぐに避難しなさいっ!」

 俺の目の前に老いぼれジジィが横切る。

 身長小さいからって舐めているかもしれねェが、これでも俺はお前ェより強いッ!


「――うっせェ、ジジィこそ避難しやがれッ!」

 そう言って、勢いよく横切った瞬間、




「――――ア繧「ア繧「ア繧「ア繧「ア繧「ア繧「」




 アリアがまた歌いだした。

 



「――――ウ繧ヲタ繧ソイ繧、タ繧ソイ繧」



 室内と違って外はまるで“音の壁”に阻まれていく感覚。これじゃァ、進めねェ……。



「――――ブ繝タ悶ちイ繧、ウ繧ヲエ繧ィ」



 ただ、俺だって対策は走りながら考えていた。



「――――ジ繧クユ繝ヲウ繧ヲ二莠ウ後えタ繧ソイ繧、タ繧ソイ繧、」



 【シバリング】――体温が下がった時に筋肉を動かすことで、体温を保とうとする生理現象。


 ただ、今回は体温を上げる目的はなかった。外は普通に快適に過ごせるぐらいだし、寒くもねェし。

 ――身体を震わせることで音の波から逃れられないかと俺は考えた! アホなりに。


 外から出ている音の波に合わせて俺の身体に魔力をリズムよく流し込んで筋肉を震えさせれば、波に乗って流れて逃げていくと思った。


 まぁ昔、ヴェール《ロリニート》が読んでいたグルメバトル漫画に描いてあったから、咄嗟の判断で思い出せただけだけどなァ……。



 よし……! 歌が止まった……!



 この距離、この間合いならアリアまですぐ辿り着けるッ!


魔術書(アルバ)ッ! 魔具召喚魔術まぐしょうかんまじゅつ 【獅子王の爪(ライオ・ネイル)】シリーズ! 装甲発動(アームド・オン)!」


 魔術書を出現させると魔具を装備する。

 両腕、両足にありったけの力と魔力を込めて、瞑想の準備を始める。

 深く息を吸って、吐き、俺の心の中に眠る獅龍を探し出すため――精神統一ッ!


■ ■ ■


「何のようだ、小娘」


 耳から野太い声が聞こえる。

 ふと、目を開けば、無茶苦茶金ピカに輝くドラゴンが俺を睨んでいた。


 金ピカドラゴンの脚を見れば【獅子王の爪】にそっくり。


 ん? 俺はどうして【獅子王の爪】を使えるんだ?


 知らんッ! んなことよりもッ、アリアを助けるための力を貸してもらうのが先ッ!


「なァ? もう一度、貸してくれよ! お前ェの力!」


「生意気な小娘、どこで育て方を間違えたか?」


 金ピカドラゴンは飽きれたかのように言うと、目を閉じて寝てしまう。


「――話聞けェ! この野郎ォー!」


「先日、小娘に力を貸して眠たくて仕方ないのだ」


 ふわぁとデカいあくびがうるさい。吹き飛ばされそうになるほど。


「小娘ッ!」


「はっ、はいッ!」


「何故、我が今、小娘に怒っているか分かっておるか?」


 ――――唐突ッ! 俺、いつ怒らせたンだ……!?


「えぇ~~~~、そんなこと急に言われてもよぉ……」


 俺がそういった瞬間、獅龍は目を見開き睨んできた。


「先日、仕方なく貸した貸しがまだ帰ってきていない」

「――えっ、貸しなんかッ!?」


 初めて聞いたんだけどッ!? えっ、貸しとかあんのッ!?


「目覚めたばかりに力を無理やり使われたせいでワシは疲れてしまって動けない……」


 思い返せば、泥野郎と戦ったときはすんなりと獅龍の力が使えた。

 だけど、まだ力の出力が足りないような気がしたから俺の力の問題かと思ったンだけど……。


「力を貸せばワシにデメリットしかない――メリットはどこにある? 対価はどこにある?」


 ふと、一つ考えた。


 たった一つのデカいメリット。


 これしかない。


 これしかアホの俺には考えられねェー!


「じゃあ、腹が減ったら俺の身体を貸すッ! 俺の代わりにたらふく食えェー! 食って寝たら圧倒的に疲れは取れるだろォーー!」


「…………!」


 ――――微妙な沈黙が流れる。


 しばらくして、

「がっはっはっは、ワシのこと腹が減っているだと!? 面白いッ! 気に入ったッ!」


 獅龍は目を見開くと、勢いよく俺に向かってくる。


「言ったからには約束は守れよ!」


 そう言うと、俺を丸吞みで……


■ ■ ■


 ――ハッとして目が覚める!


「力を貸せよォ……! 俺に眠る獅龍(レオルド)ォ……!」


 目がァ……!

 肌がァ……!


 割れるかのような痛みが全身に襲って苦しい……!


 しかも、前回と違ってケツも背中も痛ェ……!


 身体全身がクソアツい……! ハァハァと動悸が止まらないほどに……。


 

 ――――これが人間から龍に変わる感覚なのか……!?



 こういう時こそ気合いだッ! 気合いッ!

 ありったけの全身に走る痛みに対してありったけの気合で全力で耐えてやるッ!











「――――アァァァーーーーッ!」

「――――ア繧「ア繧「ア繧「ア繧「ア繧「ア繧「」











 空に、

 町中に、

 俺とアリアの声が響き渡る。


 気がつけば、熱がひき、俺の背中に獅龍と同じ翼が、尻尾が、立派に生えていた。


 これならあのクソデカ化け物に対して、負ける気がしねェ!


 両足に力を込めて、翼をはためくため動かし始める。

 もう少し飛べば、クソデカ化け物……! いや、アリアの元に辿り着けるッ!


「【明鏡止時(めいきょうしじ)】――――」


 ――――今なら飛べるッ!


「【「(ちょう)()】ッ!」


 生まれて初めて味わう自分が勢いよく飛ぶ感覚に面白れェと感じながら、あと少しのさきにいるアリアに向かって飛んだ。


 ――――俺が絶対ェ、アリアを助けっからよッ!

夏休み堪能していました!

コミケ、クッソ楽しかった!

他にもいろいろあって投稿が遅れてごめんネ!

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