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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第四襲 歌衝争儀編
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【美音壊の願神】の目覚め(開) ――ミュザイア・リヴァイヴ――

【ハイネ視点】


 心地のいい鳥の鳴き声がします。いつの間にか机で寝てしまったようでした。


 顔を洗って歯も磨きます。


 ほっぺたをぱちんと叩いて、

「今日も気合い入れて、頑張りますよー! おぉー!」 

 気合い入れました!


 昨日は二日酔いを反省してやけ酒をやめました。

 本当はミーティングが終わった後、吞みたかったのですが、ここは我慢。

 代表代理(バイスマスター)としてみなさんを引っ張る存在にならないといけません!


 目指す目標はヴェールさんを超えること!


 今日も頑張ります!


「アルム、おはようございます! 朝ですよ!」


 そういえば、アルムは一人で雑魚寝してましたね。

 あまりにもキリエさんが帰ってくるのがあまりにも遅いから、心配してない素振りを見せては、身体はそわそわと動いていて……。


 そう、思っているとアルムの目がぱちくり。

 目と目が合いました。


「なぁ、キリエは帰ってきたんか?」

「まだみたいですね……。どうしたんでしょうか……?」


 私がそう言うと、アルムは窓を開けて、

「キリエ帰ってくるの遅いッ! 陽が上がったぞォ――――!」


 ――今日もアルムの叫び声がうるさいです……。いつものことなんですけど……。


 あれから私も連絡を送りましたが、何も反応がなくて心配に思っています。

 キリエさんのことですから、恐らくは大丈夫でしょうけど、何かあった時じゃ遅い……。


 だから、アルムもこうして――

「キリエェェェエエエ――――! いたら返事しろォォォオオオ――――!」


 ――この……脳筋バカ……。泣きたい……、酒に頼りたい…………。


 だめよ、だめ! 今日も酒に頼らずに過ごすのですから! おぉー!


「つーか、ロリニートはなんか連絡よこせェエーーーーーー! こっちはキリエがいなくなって一大事になっているんだよォオーーーーーー!」


 ドンドンと私たちの扉を勢いよく叩く音がします。

 噂をしたらようやく来てくださったと思ったら、

「――――大変ニャ! 大変なんてレベルじゃニャいっ!」

 息を荒げながら部屋に戻って来たニヤさんでした。


「外から嫌ニャ音がして、“聴き”続けてたら心臓が破裂しそうニャ!」

「そんな音、外で聞こえんのか……?」

「アルムは聞こえないのかニャっ!? デッカい音量でアイドルの曲聴きすぎニャっ!」


 ――――ん……?


「アルムさん、ちょっとどいてもらえます?」

「ちょっとって、はいちょっと」

 ふざけてほんとにちょっとだけしか足を動かさないアルム。


 ――――キレました。


 右手に力を込めてアルムの頭目掛けてグーパン。


「痛ェっっっ! グーはダメだぞ! グーは!」

「――ふざけている場合じゃありません! イヤな予感がします!」


 えぇ~って悪態つきながらアルムはどくと、窓からミュゼ・リアの景色を見ます。

 今日はやけにどんよりとした空気。昨日と比べて活気がないどころか、苦しんだ声が聞こえる……?


「なぁ、さっきからアリアの歌声聞こえねェーか? いつもと違って悲しく聴こえるっつーか、なんつーか……すっげェー小さいンだけどよ……」

「私には苦しんだ声しか聴こえませんが……」


 窓の向こう側で鳥が元気よく飛んでいます。

 自分の意思で思うがまま自由に舞うように空を飛んで、そして、みるみるうちにやせ細っていく。

 ――見間違え……? こんなことありえない……。

 でも、見れば見るほどさっきまで自由に元気よく飛んでいた鳥は、あからさまに活力がありません。

 くちばしを叫ぶように開けて、羽根は無残にも散って、私たちに向かって下降して……。


 ――ポトリ。


「ニャぁぁぁあああ!? 鳥がっ!? 皮と骨だけしかないニャぁぁぁあああ!?」


 ニヤさんの言う通り。

 落ちた鳥は筋肉なんて最初からなかったかのように皮と骨だけで……。

 まるで、誰かに助けてと叫んでいるかのようで息絶えていて……。


 この症状――――“叫んで声が枯れたかのような死体”に似ている……?


 だとしたら、

「アルム! ニヤさん! 今すぐ耳を防いでください! さもなければ、私たちまでも――――」


 耳を両手で防いだ刹那のことでした――









「――――ア繧「ア繧「ア繧「ア繧「ア繧「ア繧「」








 耳を両手で防いだはずだったのにそれすらもすり抜けて聴こえてくる声。

 綺麗で透き通った声なのに、耐えがたきノイズ混じりで防ぎたいと思えるような不協和音。

 聴けば聴くほど心臓の鼓動の音が速くなっていく感じ……このままじゃ絶対まずい。


 ――これは誰かの魔術。音に関する魔術に違いない。


 どうにかして、灰を確保しないと……考えたくても心臓の鼓動が苦しくて考えられない。


 せめて……耳栓を作らなきゃ……手で防ぐだけじゃ話にならない……。


 しばらくして音は鳴りやみました。


 次にまた不愉快な声を聴いたら、いつ身体のどこかおかしくなるか分からない……。


「大変ニャ……! 外を見るニャ!」


 ニヤさんが叫んだので、もう一度外を見れば、ありとあらゆる場所から翼が生えて頭のない一つ目の怪物。恐らくはあれが音の主の正体。

 天から現れて歌いに来たとするなら早く帰ってもらいたいですが、恐らくは誰かが儀式で呼び寄せたのでしょう。


 それに、アルムが聴こえた歌声がもし、アリアとそっくりでしたら、恐らくはもう……。


「なぁ、やっぱりこれ、アリアの声だぜ……。多分、苦しんでいるんだ……」

「アルムにはそう感じたのですか?」

「やっぱ推したアイドルにはファンが頑張って応援しないとなぁ~!」


「よしっ! キリエのことも心配だけど行ってくるわ!」


 にひひと笑いながら私の顔を見ると、すぐさま走り出します。

 私も追いかけようと思いましたが、あの野生児、脚が速くて速くて私じゃ追いつけません。

 恐らくはあの天使のような化け物を殴り倒しに行くのでしょう……。


「ニヤさん、下の死んでいる鳥を今すぐ骨だけにして調理出来ますか?」

「こんな時にどうしてニャ!? 調理ニャんかあの怖い天使を倒した後でも」

「――――その鳥ガラが今一番欲しいんですっ! よろしくお願いいたしますっ!」


 もし、鳥に私が感じた魔力が骨にまで残っているなら、音の耐性を持った耳栓型の魔具が作れるはず……。

 って言っても、骨を灰にして、魔力を流し込んで固めるだけですが。

 それでも、あの天使のような化け物を倒せるなら容易い時間です。


 ニヤは私の目を見ます。真剣なまなざしでじっと。


「分かったニャ! 絶対ニャっ!」


 アルム、届けますからね! 私のたった一人の義妹(シスター)ですからっ!

 よし、集中するために酒っ! 飲んであれを絶対にぶっ倒しますからっ!



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