心念 ――キリエ・ウィル・キル――
そう言うと、エンデはおもむろにあぐらをかきはじめる。
今でも殺しにかかろうとする相手がここにいるのにゆっくりのんびりと。
「音無アリアは【原初の世界】にいた。そう、君が元いた世界と一緒だ」
【おりじなる】……? エンデは何を言っているんだ……?
「アイドルって分かるかな? キリエちゃん」
エンデはしつこく問いかけてくる。
「しははははっ、黙ってたら会話にならないじゃないか」
聞く耳なんて最初っからない。
今は目にも止まらぬ脚の速さでエンデを切り殺す。
アルムのように獣が獲物を追う姿勢かの如く、――意識して今に活かす!
「まぁいい、アリアちゃんは【オリジナル】でもアイドルだったんだ。でも、つまらなくて窮屈で退屈しててね。――――だから、私が異世界に誘った。元の世界で! 死にゆくアリアちゃんを異世界転生させた!」
そう言うと、私に邪悪な魔力が――――――次の瞬間、吹き飛ばされていた。
エンデはいつ……私のほうへ魔術を発動させた…………!?
無詠唱なのに身体を蝕んでいく邪悪な魔力。身体全身が痺れるほど痛い。
しかも、発動したかどうかが分からないほど早すぎて分からなかった。
エンデはニヤリとすると、暗黒の瘴気となる。
瘴気はアリアのところへ行くと、瞬く間に元の姿に戻っていた。
「彼女がこの世界でもアイドルになりたいって言った時には僕感動してね。テレヴィで見る度にもう涙が出そうでね。でも、超超超イイ感じに魔力が育ってくれたからこれでアリアちゃんはおしまい! 我が異世界転生の儀式のために!」
生気を失ったアリアをエンデは抱きかかえた。
嫌な……予感がする……。
「じゃあね、キリエちゃん。君にはまだ生きていて欲しいから大切なことを伝えるよ。今すぐミュゼ・リアを離れるといい! じゃあね!」
そう言うと、エンデとアリアを包み込むように暗黒の玉が作られていく。
光を通さないほどのドス黒い色――まるで、ブラックホールみたいだ……。
「――待て……! 待て!」
このままではまたエンデが消えてしまう。
私は今日、ここで殺すんじゃなかったのか……!?
気がつけば身体が勝手に動いていた。
殺せないと分かっていても身体が勝手に。
身体が痛いと蝕んでいても脚が勝手に。
まだ殺せると信じていた。
エンデを今日殺せるとまだ信じなければいけなかった。
ここで信じなければムシャノ村のみんなの仇を殺す決心が果たせなくなる。
それは、――――絶対に嫌だ……!
――――――――嫌だっ!
ゆっくりと体感的に時が進む中で――もう少し、もう少しと足を早める。
先へ踏み込めばエンデを刺し殺せる可能性がまだあると信じて、
けたけたと笑うエンデにありったけの魔力を――「旋風刃にっ! 込めるっ!」
旋風刃にありとあらゆる風が集まってくると、刀身が虹色に輝きだした。
不思議な光だ。まるで、ヴェールが虹魔術で発生させる光のようで、
――――これなら行ける! やってみせる!
「あぁぁぁー!」
ありったけの力を込めて叫びながら前へ前へと突き進む。
エンデが消える刹那――肩に旋風刃を突き刺せた。
――この感触は今度こそ肉体と骨。
「今日、ここで殺す! キリエが今日、ここでェ! 殺すッ!」
私は虹色の暖かい光に飲み込まれて…………ここで気を失った。




