仇敵 ――インベーション・エネミー――
――気配は感じなかった。
分からない。
分からない。分からない。
分からない。分からない。分からない。
分からない。分からない。分からない。分からない。
分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。
分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。分からない。
――――ダメだ! 目の前にエンデがいる以上はどうやって復讐を果たすか……?
それだけを集中して考えなければ、次は私が殺される。
エンデは蔑むようにゲラゲラと笑っている。
恐らくは――自分が“殺されても生き返られる”魔術が発動出来るからか……?
だとしたら、尚更、腹が立つ……!
「何故、お前がミュゼ・リアに――答えろっ!」
考えが静止する前にエンデに向かって踏み出す。
旋風刃に今、残っているありったけの魔力を集中させる!
今の私にはもう……それで切りに行くしかない!
エンデはべぇーと舌を出すと、アリアの喉に刺さった太刀を引き抜いた。
――――鉄と鉄の音が鈍い音が鳴り響く。
私とエンデ――必然的に鍔迫り合いになった。
「キリエちゃんには分かんないだろうけど、異世界転生者は最強なんだ。どうもみんな癖が強くてね。殺せる時に殺さなきゃ自分が見るも無残な姿で殺されちゃうよ~!」
鳴り止まぬ撃鉄音。
何度も何度も旋風刃を切り下ろすも、彼の太刀によって切り返されてしまう。
「どう? 今日は殺せそうかな~? ん~?」
にちゃにちゃとほくそ笑みながらエンデはこの切り返しを楽しんでいる。
必死に殺しにかかる私を見てだ。
「――黙れっ!」
「おぉ~、怖いね~!」
次に振り下ろした旋風刃をエンデはまともに受けた。
鈍く切れた感じがする。直視すれば綺麗にぱっくり真っ二つだった。
「痛いね~! 遺体でも痛いって言ってる」
「エンデ……これでも“死なない”だろ」
エンデは死んでない。ただ、真っ二つにしただけ……どこかからか現れるはず……!
マナ・リアのいつかの一件で私の仇敵は絶対に殺せても死なない男だと嫌でも分かってしまった。
だから、まだ気を抜くことは許されない。
――次はどこから出てくる……?
――出てきたらどう動く……?
「――よっ!」
――――背後か……!?
咄嗟の耳の判断で背後を切り落とす。
しかし、無情にも鈍い鉄の音と共に私の旋風刃は綺麗に蹴り落されてしまった。
「どう? 悔しい? 悔しいだろうねぇ~? 憎き復讐相手に自慢の大事な玩具を蹴られたんだもんなぁ~!」
「旋風刃はおもちゃじゃない!」
「おぉ~! 怖い怖い」
ありったけの魔力を右の拳に集中させてエンデに殴りにかかる。
せめて一発でも殴らなければここでまた会った意味がない。
「ふんっ!」
しかし、エンデは右の掌から邪悪な瘴気を発生させて、瞬く間に彼を守った。
――――まるで、守護壁かのように。
「ちょっと平和的に話をしようか」
痛い。右の拳から吐きたくなるほどの瘴気が私の中にも流れてくる。
身体の芯から蝕んでいき、朽ちて粉々になってしまうほどに。
そんな都合よく……殴らせてもらえないか……!
「風魔術――【風】!」
自身の身体をめがけて魔術を発動する。
宙を不規則に舞う自身の身体はエンデから離れようと飛んでいく。
自分の力じゃ吐きたくなるほどの瘴気は振り払えないと判断した。
だから、自然の力に頼るなら自身の身体に発動するしかなかった。
鈍い音が身体から響く。壁に自分の身体がぶつかった音だった。
「もっと自分の身体を大事にしてあげなきゃ! 精神不調は嫌われるよ!」
動け! ――痛みなんかムシャノ村の人たちと比べたら――まだ動ける!
「キリエちゃん、まだ動けるんだ」
痛みを我慢しながら蹴り落されてしまった旋風刃まで走りに行く。
「なんか喋れよ。つまらないじゃないか」
旋風刃を回収すると、刃を風に溶かして――ダメだ。もう魔力が……!
「喋ってくれないなら君が興味を持ってくれるような話をしようか――アリアの話。いや、音無アリアの話だ」




