風呂場にて ――アンノウン・トゥルース――
月が沈む頃、私はギルド〈デイ・ブレイク〉の大浴場の湯船に今日のことを思い出しながら浸かっていた。
あれから、アルムとハイネと無事に合流。
ギルド〈テレス・アルレギオン〉にいたペテン・シストール含む24名はその場で確保した。
ヴェールはペテンとの戦いで力を使い果たし、力を抜くように寝転がっていた。
息がぜぇぜぇと荒く、『我、本気出すつもりなかったのに、狐っころに飲み込まれたから本気出してしもうた。しんど……』と手でひたすら仰いでいた。
――年寄りか!
魔力消費量が少なかったキリエがゼネに連絡魔術で呼び出す。
ゼネは即座に座標を特定してギルド〈テレス・アルレギオン〉24名全員とヴェールを転移魔術でギルド管理協会に転移していった。
のだが、『野郎の裸には一切、興味がありません。今度こそは何か着させて転移してくるように! 次やったら依頼料を半分に減らす!』と怒られてしまった。
同感であるが、彼女を見ていると好みだよなと思う。もし、これが女性の裸体だったら興奮しているだろう。
ってか、ヴェールも連れていかれてるし。
ギルドマスターだから事後報告しないといけないってやつなんだろう。しかも、行くのとても嫌そうな顔してたし……。
――すぐに状況の異常さに気づく。
私たちの転移はどうした……!?
必死にゼネに連絡するも切られて出てこないし、歩いて帰れ……ってこと!?
ゼネから送文魔術で文章が送られてくる。
『ギルド管理協会の魔力供給量じゃ25名が限界でした……。メンゴ!』
そんなこんなでキリエ、アルム、ハイネは仲良く歩いて帰ってくるはめになった。
帰り道はとても楽しかった。
アルムには一週間ギルドにいて、抜けるかどうかは考えると伝えた。
すると、2人は笑顔で涙流しながら『ようこそ地獄へ!』と迎えてくれた。
後は、2人が使う魔術について詳しく聞いた。
アルムが使う魔具召喚魔術【獅子王の爪】は自分の両腕、両足に武器兼防具である獅子王の爪を召喚して装備する効果だ。
装備したら自動で身体能力が上がるから、本来の魔力である筋肉強化魔術は相手に合わせて使っているのだそうだ。
ハイネが使う破壊魔術【灰に帰す】は全てを灰にする効果。
効果範囲はハイネが向いている先1km。
なんでも灰にできるらしいのだが、関係ない人を巻き込む可能性があるため、酒を飲んでコントロールできる状態にしておかないといけない。
だから、相手を全裸にさせて戦意喪失させる目的で使っているのだそうだ。
ヴェールが使う極光虚無魔術について詳しく聞こうと思ったが、2人もなにがなんだか分からないらしい。
極光魔術は極稀に使える魔術師がいるのだが、極光虚無魔術に関しては口を揃えて『この世界で作られた魔術ではない』とだけ言った。
凄い神々しく煌めいていたのだが、泡を吹いたペテンを見ていると¨絶対に受けたくない¨
と思う。
魔術の発動が¨無効¨にされる。魔術書の中身が¨無¨に書き換えられる力はどれも強い。
過去に『ヴェールを暗殺してくれ』と言われなくてよかったと安堵した。
何事もなくギルド〈デイ・ブレイク〉のアジトへ帰還して、風呂に入れている。
風呂にゆっくり肩まで入るのも久しぶりだ。暗殺先で宿屋があるならそこで水をお湯にしてシャワー。魔力を消費しないといけないため、長くは浴びれなかった。
「仲間……か……」
久しぶりのチームワークはとても楽しかった。
ギルド〈デイ・ブレイク〉の仲間たちとなら共に戦えるかもしれないし、協力した先でエンデ・ディケイドと巡り会えるかもしれない。
「――キリエン! 我も風呂に入るぞ!」
「ヴェール!」
ヴェールが突然、入ってくる。
簡単に頭から身体、脚へとお湯で洗い流して、湯船に入ってきた。
安心したような息を漏らすヴェールをキリエは見る。
相変わらず髪を止めたまま入ってきていた。
髪を外したヴェールはとても綺麗な長身の女性だった。
――それに比べて、今のヴェールはどうだ。推定、12歳の幼女体型じゃないか。
「なっ、なんじゃ!? いきなり我の体をじっと見て……!? エッチ! キリエンも百合眼鏡と一緒だったか……!?」
「何故、髪留めを外したら成人体型になるか気になる」
質問するキリエ。
沈黙する風呂場。
静寂の中、水滴がピチャンと鳴り響いた。
「なんじゃ、百合眼鏡と思考が一緒じゃなくて安心したわい!」
ヴェールが胸をなでおろしたかのように笑う。
ゼネはどんな酷いことをしてきたのか逆に気になってくるが、きっとろくなことじゃないだろう。
「聞きたいか?」
「是非とも」
ヴェールは湯船を飛び出すと、
「やっぱ、教えてあーげなーい!」
髪を洗うためにシャンプー台へ行ってしまった。
そうだった。ヴェールという人はどこか適当で不真面目な人だ。
期待するだけ損だった。
「なぁ、キリエン」
ヴェールがその場で脚を止める。
「キリエンは¨異世界転移¨或いは¨異世界転生¨を信用するか?」
私はこの世界とは別の世界から召喚されて今日まで生きてきた。
ならば、答えは一つ。
「信用する――私はこことは違う異世界からやってきたから!」
ヴェールが私の方へ笑顔で振り向く。
「なら、我の姿は¨異世界転移¨への呪いじゃよ!」
笑顔って残酷だ――心を騙す暴力だから。
私はヴェールに何を聞けばいいのか分からなくなってしまった。
/第一章 独捨仲入編・了