届いた声 ――ジャスト・アクセプト――
嵐魔術――暴嵐風。
嵐のような激しい風巻き起こすことによってありとあらゆる攻撃を搔き切ることが出来る強力な上級魔術。
ミュゼ・リアに向かう前、ヴェールと特訓した際に出来るかもしれないと思った魔術だった。
しかし、上級魔術を発動するには詠唱が必須。
とにかく速さで戦う私の戦い方には必要のない魔術だと思っていた。
だって、下級魔術のほうが、無詠唱で発動できるし。
上級魔術なんか魔力の消費が果てしないし。
詠唱して上級魔術の負担している暇があったら速攻で切りかかったほうが速いし。
なにはともあれ、こうして私を救ってくれている。
ヴェールに魔力のコントロール力を鍛えてもらったおかげでなんとか嵐魔術を発動できた。
「来るな! 来るなっ!」
アリアの叫び声が音圧となり、私を拒絶するため押し飛ばそうと向かってくる。
全て旋風刃が作り出した暴風によって掻き切られていく。
少しだけ音圧はまだ強いが、しっかりと脚に力を入れて歩けば前に進める。
「どうして平然と歩いてこれるのよっ!
三詠唱魔術――身体の体質的に魔力があまりないからこそ使う気になれなかった。
「どうしてっ!? どうしてっ!? どうしてっ!?」
だけれど、今、目の前で圧倒する力を実感してもっと強くなりたいって思える……!
「私は転生者よ! 最強じゃないの!? どうしてなのよっ!?」
「アリア――確かに最強だ……。でも、私はこんなところでくたばってられない! 負けてられない!」
アリアがいる先へ――辿り着いた先で旋風刃を元の形に戻す。
「嫌だ……、まだ、死にたくない……死にたくない死にたくない死にたくない…………」
すぐ近くに迫ったアリアは恐怖で怯えて咳き込んでいた。
――――分かった。もう終わらせよう。
鞘に旋風刃を納めて、今、私の中にある魔力全てを注ぎ込む!
「い……や…………」
今――――この間合い!
「この勝負――もう私の勝ちだ」
一瞬の刹那で刀を引き抜くかの如く、手を差し伸べた。
「まだわたし……負けてないもん……こんなに近かったら――」
咳き込むアリア。口からは血が溢れ出てきていた。
「アリアの喉は無理をしている。これ以上、無理したら歌えなくなる。歌えなくなったらアリアのこと好きな人が悲しむはずだ」
「ねぇ、ファンが今のわたしを見たらどう思うのかな……?」
「ふぁん? ってなに……?」
「ファンはファンよ! あなたが言うところの好きな――」
咳き込んで口からドバっと血が出る。
「大丈夫か?」
「あなたのせいでもう死にそうよ……」
そういうと彼女は上の空を見た。
「いや……死ぬべきなのかな……散々、自分のために人を殺してきたし……」
少し考える。
私だってギルドの依頼を受けて人を殺してきた。
悪人を殺せば私みたいに悲しい思い出を背負って生きていくことはなくなると信じてこれまで殺してきた。
でも、殺すという行為に違いはない。
私だって罪を償って――やっぱり、まだ分からない。
「生きて答えるべき……」
「えっ……」
やっぱりまだ分からないこそ生きて答えたい。
そう思った私がふと、アリアに答えた。
「もっと別のやり方でアリアはこの世界で生きれると思う。どうしたら人の“声”を奪わずに生きていけるか探さないか……?」
「分かったわ……じゃあ、もうちょっと生きて」
――背筋がゾッとする。
目の前にエンデ・ディケイドが突然、現れた。
太刀を持ち突然、上空からと……。
突然、上空から……? 目の前にはアリアがいたはずだ。
あまりにも一瞬でわけが分からない。
鼻孔をくすぐる嫌な匂いがする。
キリエはこの匂いを生きている間に幾度もなく嗅いできた血の匂いだ。
ふと目線を下に逸らすと、アリアの首にエンデの太刀がぐさりと刺さっていた。
「――こんばんは! キリエちゃん!」
アリアの首から広がる血。
震えが止まらない私の背中。
ゲラゲラと笑っているエンデ。
――――――――風が私を嘲笑っていた。




