叫び声 ――リーチ・エニワン――
旋風刃によって切ったフードがひらりと舞い落ちる。
月明かりに照らされると少女の顔がはっきりと目に映った。
間違いない。あの顔は確か……――思い出した……!
アルムが夢中になっている〈ムジカ・アクセント〉の“あいどる”――アリアのはずだ。
顔は同じ……しかし、どういう訳か昨夜の金髪はいつの間にか桃色髪に変色している。
“あいどる”と呼ばれる職種とやらは、そうも簡単に髪を変えなきゃいけない仕事なのか……?
分からない。
しかし、目の前にいる少女の顔は昨夜、見た顔だと記憶がそう言っている。
だから、彼女は
「アリア……なのか……?」
信じたくないが信じざる負えない。
「見られちゃった……。見られちゃったよ、わたし…………」
「そうなのか……?」
ルビー色に輝く眼から一滴落ちる。
キラキラリと輝く眼はまるで、宝石のようだった。
「どうして人を……?」
「聞かないで……」
「どうして人を殺した!?」
「聞くなぁぁぁぁぁぁぁあぁぁあぁぁあ!」
少女の叫びが突如、音圧となり私を襲いかかる。
あまりにもよけきれずに奥へ吹っ飛ばされてしまった。
「最初は殺したくなかったの。でも、あなたみたいな鬱陶しい人がうじゃうじゃいて」
「だから、殺したのか……? 尊い人の命を……!?」
「あんな醜い奴ら、尊くなんてないっ!」
姿勢を整えながら前に進もうとするが、出てくる音圧が激しすぎて前に進むことすらできない。
「わたしね……、異世界に来てから人を殺して“声”を奪わないといけない身体になっちゃったの……」
「だから、声を奪うために殺したのか」
「違うの……。声を奪ったら勝手に死んじゃう……」
「声を奪わないと生きていけないのか……?」
「――そんなこと分かんないよっ!」
再び――彼女の叫びが音圧となり私を吹き飛ばす。
耳を防がなきゃ。いつか鼓膜が破れる。
だけれど、このまま耳を防いでしまっていいのだろうか……?
ごふっとアリアは咳き込む。
ふと、口を見ると血が出ていた。
恐らくは無理している。無理して自身の魔術を分からずに使っている。
「分からないから殺すしかないじゃないっ! わたしがわたしとして生きるためにっ!」
アリアは助けて欲しくて心の底から叫んでいるんじゃないか……?
だとしたら、私は――
「廻れ――旋風刃!」
8本の旋風刃を“風”と同化させて、私の周りを浮遊させる。
ぐるぐると弧を描くように動かすことによって風のバリアが作れるはず……!
だったら、ぶっつけ本番……! やってみるしかない……!
それしかもう彼女に近づく手段は無いのだから……!
彼女がヒステリックに叫ぶたびに音圧が広がっていく。
建物の壁が音圧によって朽ちていく。
でも、不思議と安心していた。
建物の瓦礫程度じゃ私の旋風刃は絶対に止められない現象を――見えた……!
風の勢いのその先にある魔力の力――掴み取る……!
「【我、風の刃と共にあり――】【風の刃、自然と共にあり――】【いざ、我を守りたまえ――】」
「おかしい……おかしいでしょ…………!?」
心を風に溶かすこと――それが今、出来たなら私はコントロール出来る!
「嵐魔術――暴嵐風」
私を守ろうと旋風刃は落ちてくる建物の瓦礫もアリアの音圧すらも削り切ってくれる。
だから、一歩。
また、一歩と。
アリアに歩み寄っていく。
「どうして近づいて来れるの? おかしいでしょ?」
賭けてみたい。――音圧に圧し殺されるか、音圧をはねのけるか。
――やってみる価値はある!
久しぶりの更新になってすみません!
忙しいですがちょっとずつ進めていきます!




