音の壁 ――ターゲット・アヴォイデンス――
私はただ前へ――前へ走る。
どこかで誰かの悲鳴が聞こえから……。
だから、私は――前へ走る!
声はこの路地裏を入ってすぐあたりから聞こえたか……?
ならば……と思えば身体の向きを変える。
路地裏に入ると風が震えるような怯えた感覚がした。
――近いっ……! この先……!
そう思ったとき、私の目には寝た人とその場を離れようとしていたフードを被った人を捉えた。
寝た人からは魔力が感じられない。恐らくは死んでいる……。
なら、目の前で離れようとするあのフードがミュゼ・リアの殺人鬼か……!
「行けっ! 【旋風刃】」
刀に魔力を込めて瞬時に引き抜くと、刃は8本の風の刃となり、4本をフードの人に向けて飛ばした。
残りの4本は私の背中近くで待機させる。
相手がどんな魔術を使ってくるか分からない以上は接近戦になっても戦えるように控えておきたい。
しかし、
「来ナイデ!」
フードの人が私に向かって叫んだ瞬間、風の刃はみるみる勢いが落ちていく。
ついには地面に響き渡る鉄の音。風の刃が元の魔鉄の刃となり落ちてしまった。
こんな刃の勢いが無くなる経験は初めて。
いつもならば意識して魔力を込めたら切れるのに、何か壁があったような感じがした……。
――あのフードが目に見えない壁でも作ったというのか……?
――叫んだだけで……? もっと別の属性を持っているはず……。
考え続けてたら目の前にフードの人に殺される。
確かに……確かに今、私の“眼”は違和感を捉えている。
眼から見えるおぞましく邪悪な雰囲気……!
あの人が……、あの人こそがミュゼ・リア殺人鬼に違いない……!
「ミュゼ・リアの殺人鬼だろう……? そこの……フード……!」
「――――?」
首をかしげるフードの人。私の声は聞こえるようだ。
考えろ……私!
落ちた4本の刃はどうする……?
「動カナイデッ!」
フードを被った人が私に向かって叫ぶ。
すると、一瞬にして私の身体に音が纏わりついて沁み込んでいき、そして、ありとあらゆる筋肉を震えさせた。
――身体が動かない。
身体が無理矢理震えあがって私の動きたくても動けない。
声も喉が震えて出したくても出せない。まるで、じわりじわりと喉を絞められてるみたいで苦しい。
「――――」
フードを被った人が私に迫ってくる。
このままでは足元の叫んで声が枯れたかのような死体みたいに私も殺される……。
――いや……、このままでいい……!
このまま、フードの人の顔を見る……!
ゆっくり……ゆっくりと近づいてくる。
背中の風の刃に……ありったけの魔力をっ!
魔力は頭の想像で動かすものだからっ!
彼女が私が切れる間合いに来た瞬間――今……! 行っけェーーーー!
フードを被った人が私の目の前に来た瞬間、風の刃は交差するように切り下げる。
「守レッ!」
フードの人は声を荒げながらそう叫ぶと、私の風の刃は防がれてしまった。
――それは想定済みで、想定以上だった。
「戻れ……! 風の刃……!」
突然、身体が軽くなった。恐らくは“効果の対象が変わったから”だと推測する。
なら、やれることはただ一つ――
「刃に戻れ! 旋風刃!」
風の刃に残った魔力が元の刃に戻ろうとする。
その作用を活かしてフードの人に切りつける!
「――――!?」
旋風刃が元の実体剣に戻る頃には、切り落としたフードがヒラリと舞う。
「桃色髪……! お前がミュゼ・リアの殺人鬼か……?」
目の前にいたフードの正体――それは昨夜、ホテルの事件に巻き込まれていたアイドル。
確か名は……アリアだった気がする。
久しぶりの更新になってすみません!
当分は不定期で頑張って続きを書いていきます!




