『止走』と『疾走』 ――フェイト・アプローチーズ――
【アリア目線】
「『止』マッテ」
私は今日も今日とで狩りをする。
「動けぇ……! 俺の身体ぁ……。どうして動けないんだ……」
自分の喉のため、生きるために、前へ前へ狩るために歩み続ける。
「やめろぉ……。やめてくれぇ……」
今日の獲物を追い詰め、私のチート能力を使って獲物を動きを『止』めた。
どうやら、私のチート能力は“声”だった。
それはもちろんそう。だって、私、アイドルだもん。
元の世界にいた時は真剣に歌い続けた。みんなの推しになれるように。
「なぁ、見逃してくれよぉ……! 俺には付き合ったばかりの彼女がいるんだ……!」
男性は逃げようと必死に後ずさりしようとするけど、怯えて身体を震わせているだけ。
無事に私の能力が効いてくれた。
「俺は家族のために明日を生きたいんだぁ……」
残念だけど私は狩らないと生きていけない。
私の声を守るために罪もない人たちから声を狩り取らなきゃいけなかった。
人間を殺すことには躊躇いは……、そうよ、食事と一緒よ。
人間だって生きるために家畜を殺して食べて生きてる。
私だって自慢のこの声を守るために、人間から声を奪わないと生きていけない。
だから、人間を殺すことに今更躊躇いなんて
「アナタノ“コエ”……チョウダイ」
――ない。
「あぁぁ……あっ…………」
私は男性の首の根元を強く嚙むと、魔力を吸い付く。
「うあっ……、あっ…………あぁっ………………あ………………」
吸いつけば吸いつくほど男性はうめき声を上げる。
この瞬間が最高に気持ちよくて……! 興奮しちゃう……!
「……あ…………ぁ…………………………」
あっ! 男性死んじゃった!
「ゴメンネ……“声”ダイジニスルカラ……」
あの日、魑根に貰った仮面をつけて、何も事情を知らない一般人から声を狩り始めた。
人殺しだって分かってる。
でもね、生きた人間から声を奪って喉の糧にしなきゃこの世界で生きていけないの。
お母さん、お父さん、プロデーさん、ごめんね。
私は……私がこの異世界で頂点の偶像者として生きていくために人間を殺す。
♢ ♢ ♢
【キリエ目線】
陽が落ちかけた夕日の中で私は全力で走っている。
ミュゼ・リアの街はまだなれないが、それでも仲間が待つホテルまで走りきってやるという気持ちで――ただ脚を動かしていた。
走っても走ってもゾワゾワする気持ちが悪い感覚。
このミュゼ・リアのどこからか“殺意”を感じるからか。
もし、私がこの“殺意”を止めるために来たのであれば、原因を切り殺さなければならない。
が――既に私の中で答えは出ていた。
昨夜、ホテルにいた桃色髪の女だ。
彼女はあいどる? というものらしいが、一目見た時不思議な力を感じた。
それはまるで、ムシャノ村の人達とそっくりの雰囲気だったというか、もっと私に馴染んだ感覚に近いものだった。
だから、彼女を探したい。
もう一度会えば、答えが分かるような気がしたから。
だから、私は前へ前へ一刻も早く着くために走る。
彼女が――――。
ふとした瞬間、風から違和感を感じた。
人の悲鳴混じりの嫌な風だ。
場所は……?
探せば近いか。
探せ――どこから感じる……?
探せ――原因はどこに……?
探せ――感覚で探し切る!
「風魔術――『疾風の走』」
魔力を脚に集中させて、背中から風の魔力を放出させる。
――風に私の背中を押してもらうイメージで走る……!
風に力を貸してと願って、嫌な風の元を断つためにミュゼ・リアを駆けた。
リアルが忙しくて更新頻度が落ちてすみません!
元気で生きてます!




