獅龍の覚醒 ――アウェイキング・レオルド――
【アルム目線】
泥野郎を最速でぶん殴れるルートを頭で作る。
¨終点¨を決めて、
「クロー・オフ! 【明鏡止時】」
俺の身体を動かした!
「いつの間に現れたドロォォォオオオ!?」
「発動――【「速」打】!」
終点につけば目の前に泥野郎がいる!
ここまで入れば、殴り倒せる。
いィや、絶対ェ殴り倒してやらァ!
「セイハァァァアアア――ッ!」
そう確信した俺は拳に溜めこんだ魔力を泥野郎の頭に触れた瞬間、――放出した。
――――快音とは程遠い音が宴会場に鳴る。
俺は泥野郎の腹をおもいっきり殴った。
でも、土でも殴ったかのようなもっさりとした音。
なんかスッキリしねェーけど、【獅子王の爪】を装備しているから破壊力抜群のはずッ……!
「効かないぃ……ドロねぇ~」
「なんだとッ!?」
ドロはニヤリと俺に笑うと、気が付けば、俺の拳が泥野郎の俺の身体の中に埋もれているじゃねェかァ!
クッソ!
あァ、思い通りに殴れねェ!
この腕、抜けれるか?
ヌメヌメとまとわりついてくるから気持ち悪ィ!
「んなもん、知らねェよ!」
勢いよく腕を引き抜くと、泥野郎の身体から泥がビシャァァアっと飛び散る。
「逃がさないドロ! 泥魔術――【泥の塔】!」
「――――」
あの泥野郎、身体から、飛び散った泥からも出せるのか!?
クッソ間に合わねェ――
「アルムさんっ!」
俺の身体に泥の塊がぶつかってくる。
魔力を全身に張り巡らせるけど、石がぶつかってくるような感覚。
クッソ痛ェ!
「発動! ――【泥ン固人形土】!」
次の瞬間、ついさっき泥野郎が出してきたクソ硬い泥の塊が溶けて、俺の身体全身に纏わりついて固まった。
□ □ □
ハイネの声がどこかでよく聞こえる。
どこかってのはよくわかんねェけど、多分ここは夢ん中……。
身体がヌメヌメして、気持ち悪ィ……。
俺……まだ死にたくねェのに、泥野郎から魔術を腹に食らって……。
なァ……、俺の身体ァ……。
どうやったら目覚められる?
あの泥野郎にどうやったら一矢報いることができる?
悩んでいてもしかたがねェ! ――――精神統一ッ!
考えろッ!
考えろッ! 俺ッ!
そういえば――ヴェールに拾われてから龍が夢に出てくる。
あの日あの時は餓死寸前だったから夢なんて見れねェのに……、ヴェールの弟子になってからは見れるようになった。
ただ、龍が俺を見ているだけのクッソ変な夢だけれど、なんか俺に因果があるんだよなァ!
分かったぜ。
「――龍、俺に力を貸せェ!」
俺がそう叫ぶと、周りの暗闇がのように赤く照らされていくっつーか、――――俺にぶち当たるッ!
□ □ □
「アルムさんが……、泥人形に……」
「ドロドロドロっ! ドロロロロロ!」
「残念だったなァ!」
「――――!?」
バリバリと少し身体に力を入れただけで泥が割れた。
よしッ!
これならァ!
「俺は俺の命を助けてくれたヴェールとどこかで戦っている仲間のために……固まってたまるかよォォォォォオオオオオ!」
俺の肌に固まった泥を気合いと気迫で割っていく。
「俺ェ! 気合で復活ッ!」
ようやく……。
ようやくッ! クソ憎たらしい見たくもねェ泥野郎の顔が見えたッ!
「泥が割れて……って、アルムさんの肌まで割れてませんか!?」
目がァ!
肌がァ!
割れるかのようにアツいけど、これぐらい屁でもねェ!
「どうして俺の【泥ン固人形土】を!」
「10分! ようやく弾薬が身体に回り、魔力が切れたんスね~」
「なっ!? なんドロっ!? 土魔術――――はっ、発動出来ないドロッ!?」
なんか知らねェーけど、泥野郎が慌ててやがる。
ヴェールが魔術を発動した時とおんなじかァ?
いや、違ェーな。
ヴェールだったら魔力そのものを無にするはずだ!
使えねェーならそれでいいけどよォッ!
「ドロォッ!」
俺は思いっきり泥野郎の腹を殴る。
安心した。
【獅子王の爪】の上からでも分かる肉を殴ったかのような感触。
「熱い……。腹が熱いドロ……。これでは焼け死んでしまうドロ」
「こいつァー俺の推しの痛みぶんだッ!」
「その目、その肌見たことあるドロ……。獅龍の実験体が生きて――逃げるドロ! このままでは生きて帰れな……」
「――逃がさん……」
泥野郎の右足を誰かが掴む。
「ドロの足を掴むのは――――タイガー・ジレッタっ!? お前、まだ生きて」
「俺のことを推しだって少女の声が聞こえてな……。まだまだ地獄に落ちていられなくてな!」
掴む手の正体はタイガー・ジレッタ――俺の推しだった。
「【明鏡止時】ィ!」
そうだ。
俺はヴェールに拾われてから、テレヴィで闘技場ででっけェーモンスターと戦うタイガー・ジレッタの姿ばっかり見てたっけ?
だから、俺は拳でこの世界最強を目指すんだろォ!
こんな泥野郎なんかに、
「発動ォ! 【「龍」焔】!」」
負けてられねェ!
「ドぉっ、ドロぉ~」
泥野郎の溝を殴った瞬間、――――超絶最高に気持ちのイイ快音が俺の耳に鳴り響く。
背中から赤く迸る龍が飛び出して消え去る頃、泥野郎は意識を失っていた。
「俺はァ! 俺はまだ負けられねェ! 世界……、いや、俺があらゆる生命の頂点に立つ!」
♢ ♢ ♢
【キリエ目線】
宴会場から誰かが拳で殴り倒したかのような音が聞こえる。
誰か宴会場で? それにしても音が大きかった。
しかし、嫌な感じの魔力オーラはなくなった。
この音ならアルムたちがどうにかしてくれたのだろうか?
「俺はァ! 俺はまだ負けられねェ! 世界……、いや、俺があらゆる生命の頂点に立つ!」
「あの声ってアナタの仲間じゃない? 声でかいのね……」
この大きな叫び声、きっとアルムがどうにかしてくれた。
やっぱり、〈デイ・ブレイク〉のみんなは強い!
「アルム……、私の大事な仲間だから誰にも負けないと信じていた」
「なら、ワタシの仲間もきっとアルムに協力してくれたはずよ! 優秀だから!」
そうか……。
なら、後は私は……、私たちが触手魔術使いを倒すだけ!
「触手魔術使いはこの先にいる!」
「さっさと倒してしまいましょ!」
この邪悪なオーラの先に――――いる!




