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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第四襲 歌衝争儀編
60/85

獅龍の覚醒 ――アウェイキング・レオルド――

【アルム目線】


 泥野郎を最速でぶん殴れるルートを頭で作る。

 ¨終点¨を決めて、

「クロー・オフ! 【明鏡止時(めいきょうしじ)】」

 俺の身体を動かした!


「いつの間に現れたドロォォォオオオ!?」

「発動――【「(そく)()】!」


 終点につけば目の前に泥野郎がいる!

 ここまで入れば、殴り倒せる。

 いィや、絶対(ぜって)ェ殴り倒してやらァ!


「セイハァァァアアア――ッ!」

 そう確信した俺は拳に溜めこんだ魔力を泥野郎の頭に触れた瞬間、――放出した。



 ――――快音とは程遠い音が宴会場に鳴る。



 俺は泥野郎の腹をおもいっきり殴った。

 でも、土でも殴ったかのようなもっさりとした音。


 なんかスッキリしねェーけど、【獅子王の爪(ライオ・ネイル)】を装備しているから破壊力抜群のはずッ……!


「効かないぃ……ドロねぇ~」

「なんだとッ!?」

 ドロはニヤリと俺に笑うと、気が付けば、俺の拳が泥野郎の俺の身体の中に埋もれているじゃねェかァ!

 クッソ!

 あァ、思い通りに殴れねェ!

 この腕、抜けれるか?

 ヌメヌメとまとわりついてくるから気持ち(わり)ィ!


「んなもん、知らねェよ!」

 勢いよく腕を引き抜くと、泥野郎の身体から泥がビシャァァアっと飛び散る。

「逃がさないドロ! 泥魔術――【泥の塔(ドロット)】!」

「――――」

 あの泥野郎、身体から、飛び散った泥からも出せるのか!?

 クッソ間に合わねェ――

「アルムさんっ!」


 俺の身体に泥の塊がぶつかってくる。

 魔力を全身に張り巡らせるけど、石がぶつかってくるような感覚。

 クッソ痛ェ!


「発動! ――【泥ン固(ドロンコ・)人形土(フィギュアット)】!」

 次の瞬間、ついさっき泥野郎が出してきたクソ硬い泥の塊が溶けて、俺の身体全身に纏わりついて固まった。


 □ □ □


 ハイネの声がどこかでよく聞こえる。



 どこかってのはよくわかんねェけど、多分ここは夢ん中……。



 身体がヌメヌメして、気持ち悪ィ……。



 俺……まだ死にたくねェのに、泥野郎から魔術を腹に食らって……。



 なァ……、俺の身体ァ……。



 どうやったら目覚められる?



 あの泥野郎にどうやったら一矢報いることができる?



 悩んでいてもしかたがねェ! ――――精神統一ッ!



 考えろッ!



 考えろッ! 俺ッ!

 


 そういえば――ヴェールに拾われてから龍が夢に出てくる。



 あの日あの時は餓死寸前だったから夢なんて見れねェのに……、ヴェールの弟子になってからは見れるようになった。



 ただ、龍が俺を見ているだけのクッソ変な夢だけれど、なんか俺に因果があるんだよなァ!



 分かったぜ。



「――龍、俺に力を貸せェ!」



 俺がそう叫ぶと、周りの暗闇がのように赤く照らされていくっつーか、――――俺にぶち当たるッ!


 □ □ □


「アルムさんが……、泥人形に……」


「ドロドロドロっ! ドロロロロロ!」


「残念だったなァ!」

「――――!?」

 バリバリと少し身体に力を入れただけで泥が割れた。

 よしッ!

 これならァ!

「俺は俺の命を助けてくれたヴェール(ロリニート)とどこかで戦っている仲間のために……固まってたまるかよォォォォォオオオオオ!」


 俺の肌に固まった泥を気合いと気迫で割っていく。


「俺ェ! 気合(きあい)で復活ッ!」

 ようやく……。

 ようやくッ! クソ憎たらしい見たくもねェ泥野郎の顔が見えたッ!


「泥が割れて……って、アルムさんの肌まで割れてませんか!?」


 目がァ!

 肌がァ!

 割れるかのようにアツいけど、これぐらい屁でもねェ!


「どうして俺の【泥ン固(ドロンコ・)人形土(フィギュアット)】を!」

「10分! ようやく弾薬(クスリ)が身体に回り、魔力が切れたんスね~」

「なっ!? なんドロっ!? 土魔術――――はっ、発動出来ないドロッ!?」


 なんか知らねェーけど、泥野郎が慌ててやがる。

 ヴェールが魔術を発動した時とおんなじかァ?

 いや、(ちげ)ェーな。

 ヴェールだったら魔力そのものを無にするはずだ!


 使えねェーならそれでいいけどよォッ!

「ドロォッ!」

 俺は思いっきり泥野郎の腹を殴る。

 安心した。

 【獅子王の爪(ライオ・ネイル)】の上からでも分かる肉を殴ったかのような感触。


「熱い……。腹が熱いドロ……。これでは焼け死んでしまうドロ」

「こいつァー俺の推しの痛みぶんだッ!」


「その目、その肌見たことあるドロ……。獅龍(レオルド)の実験体が生きて――逃げるドロ! このままでは生きて帰れな……」

「――逃がさん……」


 泥野郎の右足を誰かが掴む。


「ドロの足を掴むのは――――タイガー・ジレッタっ!? お(まえ)、まだ生きて」

「俺のことを推しだって少女の声が聞こえてな……。まだまだ地獄に落ちていられなくてな!」


 掴む手の正体はタイガー・ジレッタ――俺の推しだった。


「【明鏡止時(めいきょうしじ)】ィ!」


 そうだ。

 俺はヴェールに拾われてから、テレヴィで闘技場ででっけェーモンスターと戦うタイガー・ジレッタの姿ばっかり見てたっけ?


 だから、俺は拳でこの世界最強を目指すんだろォ!


 こんな泥野郎なんかに、

「発動ォ! 【「(りゅう)(えん)】!」」

 負けてられねェ!

「ドぉっ、ドロぉ~」



 泥野郎の溝を殴った瞬間、――――超絶最高に気持ちのイイ快音が俺の耳に鳴り響く。



 背中から赤く迸る龍が飛び出して消え去る頃、泥野郎は意識を失っていた。

 

「俺はァ! 俺はまだ負けられねェ! 世界……、いや、俺があらゆる生命の頂点に立つ!」


 ♢ ♢ ♢


【キリエ目線】


 宴会場から誰かが拳で殴り倒したかのような音が聞こえる。

 誰か宴会場で? それにしても音が大きかった。

 しかし、嫌な感じの魔力オーラはなくなった。

 この音ならアルムたちがどうにかしてくれたのだろうか?



「俺はァ! 俺はまだ負けられねェ! 世界……、いや、俺があらゆる生命の頂点に立つ!」



「あの声ってアナタの仲間じゃない? 声でかいのね……」

 この大きな叫び声、きっとアルムがどうにかしてくれた。

 やっぱり、〈デイ・ブレイク〉のみんなは強い!


「アルム……、(キリエ)の大事な仲間だから誰にも負けないと信じていた」

「なら、ワタシの仲間(メイト)もきっとアルムに協力してくれたはずよ! 優秀だから!」


 そうか……。


 なら、後は私は……、私たちが触手魔術使いを倒すだけ!


「触手魔術使いはこの先にいる!」

「さっさと倒してしまいましょ!」


 この邪悪なオーラの先に――――いる!


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