泥塊の魔王 ――ドロール・ドロ・ドロロ――
【――宴会場にて】
「オラァッ! もっとよこせッ!」
アルムはガツガツとお構いなしにご飯を食べている。
気がつけば机には大皿が31枚に小皿が15枚ほど塔になって積み上がっていた。
「アルム、食べ過ぎニャ……」
「いいんだよ、食べ放題なんて滅多にないんだぜ! ここで食い貯めるッ!」
アルムの隣ではハイネが寝ている。
「しあわせぇれぇすぅ~!」
一升瓶ほどの酒――龍殺し――を17本は辺りに転がって……ってか、飲みすぎニャ……。
そんな中だった。
――パンッ。
ニャにごとか!?
天井から鈍い音が鳴った。
崩れ落ちる照明は地面にガシャンとなる。
さっきまで鮮やかに鳴り響いていた音が、耳を防ぎたくなるような音で止まってしまった。
「ハァ~? こんな時に停電かよッ!」
ミャ―とアルムは音が鳴った方へ振り向く。
「ドロロロォ……そこを動くなぁ」
ねっとりとした粘着質な声。
見た感じ50代くらい?
そんニャ萌え袖の無精ひげのジジイがステージに上がってきていた。
「おじさんは誰? 関係者でなければ今すぐステージから降りて!」
「ドロっドロっドロっ! 威勢がいい! 高額依頼はこうでないとなっ!」
ステージで元気よく歌って踊っていたアリアという少女はジジイを睨む。
「あっ、あれは! 国際指名手配犯の一人! 泥塊の魔王ことドロール・ドロ・ドロロだ!」
「あのS級の!?」
「<地獄の監獄>に捕まっていたんじゃなかったのか!?」
「ドロッ! 余計なことを言いやがって! 俺の名はドロール・ドロ・ドロロ!」
客席から声が聞こえた。
あのジジイの名はドロール・ドロ・ドロロというらしい。
ミャ―は聞いたことがニャかったけど、きっと凶悪ニャんだと思う。
「よし、飯の後の運動だ! あの野郎、誰だか知らねェーけどぶん殴る!」
アルムがドロを見て殴りにかかろうと腕を回す。
「落ち着くニャ!」
咄嗟だった。
今まで釣りで培ってきた¨感¨がミャ―たちが動くにはまだ、早いと感じた。
相手がどんな魔術を発動してくるか分からないのに動く……そんニャ、飛んで火に入る
「でもよォ!」
「一旦、様子見して隙を伺う……ハイネニャらそう言うんじゃニャいか?」
そんな、アルムをミャーが止める。
チッとアルムは舌打ちをすると、組んでいた水をハイネにぶっかけた。
「はっ!? なにごとれすかっ!?」
「オラッ、起きろッ! 指令塔、頭動かせッ!」
――一方で、
「怖がらなくていいよ、おじさん怪しい人じゃないからねぇ~ドロロロロぉ~」
「やめて、近づかないで! 気持ち悪っ! 来るなっ!」
「きっ、気持ち悪っ!? くっ、来るなっ!? おじさん、へこむんですけドロロロロぉ~」
「――不法侵入者だ! 魔術書!」
彼女のギルドの騎士たちニャろうか。
防護の鎧に身を包み、盾を持って彼女を守ろうと現れていた。
「動くなっつってんのに! 魔術書! 土魔術【底無し土沼穴】!」
ドロは激昂し魔術を発動する。
「たっ、隊長! 足がぬかるんで歩けません!」
「なっ、なにィ!? なにが起きたんだ!」
突如、騎士の足元に沼地が現れ、足元を飲み込んでいく。
「ドロロォン、動けなかろう~」
「今すぐ魔術を解除しろ!」
「嫌だもんね、発動! 【泥ン固人形土】!」
次の瞬間、
「なっ、なにを……」
沼地の泥が騎士たちを飲み込み固まっていた。
まるで、ヴェールが集めている動かない人形のように……。
一瞬の悲鳴を残して静まり返る宴会場。
そんな中で、
「――やめろ! そんな野蛮なこと!」
打撃が響く音が聞こえる。
トラ頭の男がドロの胸を殴っていた。
「あっ、あれは〈トラブリュー〉のトラ男! タイガー・ジレッタ!」
「アイツを倒しにやって来たんだ!」
「頑張れ! 倒してくれ! タイガー・ジレッタ!」
ガヤの声が聞こえる。
タイガー・ジレッタ――そういえば、アルムが推しているあのトラ頭の。
ニャら!
「ドロロロ……」
「なっ、なんだとっ!?」
右拳が徐々に徐々にめり込んでいった。沼地にずぶずぶと浸かっていくように。
そして、壁から無数に生えてきた触手がタイガーの四肢を捉えた。
「なっ、なにをっ!? なにをしたんだっ!?」
「よぉくやったぜぇ~、相棒~」
魔術書を片手に出現させて、誰かと喋っているようで……ヤツの仲間がもう一人いる!?
「離せっ! 卑怯者!」
「卑怯もラッ・キョウも呼びなれているぜぇ……。おじちゃんの触手プレイには興味はぁないがぁ……見せしめとしてここで死んでもらう! やれ!」
触手がタイガーの右脚、左脚、右腕、左腕を勢いよく引っ張り始める。
苦しそうにもがき苦しむタイガーをミャ―は見てられない。
今でも死にそうニャ表情をしていた。
しかし、触手は容赦なく、
――――ボッキリ。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁッ!」
宴会場にタイガーの絶叫が響き渡る。
希望が絶望に変わっていく空気。
ミャ―の背中に変な気持ちが悪い汗が流れていく。
「ドロロロぉ~! 折っ! ちゃっ! たっ!」
触手がタイガーの背骨をおもいっきり引っ張って背骨を折った。
いとも簡単に。
その場で血を吐きぐったりとする彼を見てドロは二チャリと粘着質に微笑む。
「英雄が散る時の顔は美しい! それを見て応援していたヤツらが絶望した顔をみせるのもまた……美しい! さぁ、次は誰が逆らう! 逆らうからには笑顔にしてくれ……!」
触手がタイガーを投げると、壁に激突する。
人が絶対に曲がらニャいだろう背中。
口から溢れ出る血。
「だ、大丈夫ですか?」
アリアが心配して彼に駆けつける頃、既に意識は……ニャかった。
「酷い!」
アリアはタイガーを睨む。
「生意気な女は好きドロロぉ~!」
「なァ、アイツ……やっぱぶん殴る!」
「落ち着いてください。今はまだです!」
「推しが危険な目に合っているんだぞッ! 俺が行かな――痛ッ!」
アルムの額に何かが当たる。
紙をぐしゃぐしゃに握りしめたゴミのようニャもの。
投げられた先を見れば、赤髪ショートの女性がジェスチャーをしている。
あの人は確か……、<オルレアン部隊>の。
「あァン? アイツ、なにやってんだ?」
「えぇ~、『私たちが』……、『隙を作るっす!』……。『力を貸して』……、『欲しいっす!』……だそうです!」
「ほんとかよッ!?」
赤髪ショートの女性が丸のジェスチャーをする。
どうやら合ってたらしい。
「ねっ!」
「『ねっ!』じゃねェよッ!? 『ねッ!』じゃあ!?」
舌打ちをするアルム。
「じゃあ、『作戦通り』に動いてやっからァ! アイツを確実にブン殴らせろよォ!」
アルムの右拳と左拳が――ガンッと打ち鳴り合う。
「ニヤさん、わたしの代わりに……」
「言われなくてもやっているニャ」
ミャ―は右手でズボンの右ポケットから魔糸と釣針を取り出す。
釣針に魔糸を通して、魔力を集中させるため握りしめ、地面に垂らす。
ミャ―ニャらできる……。
ミャ―ニャらやってみせる!
「【潜水探査同期――右眼】」
この現状を打開できるのはアヤメしかいニャい。
だから、――――ミャ―が探しだす!




