待ち合わせ場所 ――ソウル・ラウンドアバウト――
私たちはミュゼ・リアの道を歩いている。
道中、〈テリブル・ドケム〉に立ち寄ったおかげでホワブロ女と出逢って……
「なァ? なんで俺たちについてきてんだよ」
「えっ? そのほうが面白いからよ」
彼女はいつの間にか私たちについてきた。
「仲間はどうされたのですか?」
「ん~? 迷子じゃないかしら? それよりもねェ? ワタシの名前、言ってみて!」
私の耳に甲高い声が響く。
耳の穴という穴から彼女の声が耳鳴となって響き続けて痛い。
ホワブロ女改め名は……、ジャン……ジャぁンn……
「……ジャ・ジャ・ジャァン……?」
また、忘れてしまった。
「間違っているしっ! なんか登場したみたいだしっ!」
自身のことをジャンなんたらと名乗る女性は私のことを食いかかるようにツッコんでくる。
「じゃあ、俺の名前は!」
「アルム・エーデ」
「じゃあ、わたしの名前!」
「ハイネ・ディスト……」
「ミャ―は?」
「ニヤ・マーリン…………」
調子に乗って名前を聞いてくる〈デイ・ブレイク〉の3人。
3人はとても印象に残ったのですぐ覚えられたが、ジャンなんたらと名乗る女性の名前だけはどうしても頭に残らない。
理由はなんとなく分かる気がする。
彼女は陽の者だからだ。
だから、彼女に対してどこかで苦手意識を持ってしまっている。
「「「よしっ!」」」
「アナタたちの名前はいいわよっ!」
わざとらしくジャンなんたらに向かって満面の笑みでガッツポーズをする3人。
そりゃあそうだろう。
少なからず3人とはジャンなんたらよりも付き合いは長い。
ジャンなんたらと比べたてそれこそ覚えていなければ仲間として失礼だろう。だから、ようやく覚えることが出来た。
「あぁっ! もうっ! ワタシの名前、ジャン――」
「つかよォ……」
「なによっ!」
「ジャンヌでもあるお偉いご身分がなんでミュゼ・リアに来てんだよ……。旅行か? 金持ちはいいよなァ?」
「そうです! わたしたちから巻き上げている税で、さぞ、豪華な食事を食っては飲んで、食っては飲んで、飲んで飲んで、飲んで飲んで、飲んで飲んで、飲んで飲んで――」
「ハイネは酒のことで頭がいっぱいニャ!」
「――そうか! ホワブロ女はジャンヌという名前だったか!」
「どうした急に?」
「今は待ち合わせのホテルと酒のことを考えましょう!」
「待ちなさいよっ! 今、ちゃんとジャンヌって言ったわよね! 言ったわよねっ!?」
「――着きましたよ!」
「えっ?」
目の前に白塗りのホテルが視界に現れる。
外装に汚れがなく綺麗な建築物。つい最近出来たばかりのように見えた。
それにいかにも高そうな貴金属を身につけた人たちが中に入っていく。
「凄ェ……、デカすぎんだろ……」
「あっ! すみません……、間違えました……。地図的に後ろでした……」
後ろを振り返る。
「……えぇ……と…………? ソウル……ラウンドアバウト……、ソウル・ラウンドアバウトっていう名前だそうですね……」
あれはホテルなのだろうか……? と思うほどに外装が朽ちていて……
「おっ……お化け、バケっ……お化け屋敷み、みてェじゃ……ねェかァ……」
まるで、幽霊屋敷のようだった。
しかしだ……、白塗りのホテルと比べると魔力オーラが満ちている。
「アルム震えているニャ」
「ふっふふふふフ震えてなんかねェしッ! べっ、べべべべべべべべベ別にこっこここここここコ怖がってななナなんがァねェよッ!」
アルムを見ると小刻みに震えている。
ガクガクと膝に肩に身体を揺らして怖がってた。
「ここなの? 待ち合わせ場所」
反対にジャ……ホワブロ女は意気揚々と
「おっ、おオ前ェはこ怖くねェのかよ……?」
「ただの屋敷じゃない? 入りましょう」
「さぁさぁ、入りますよ!」
「まっ、まだ心の準備が……」
「いいから入るニャ!」
怖がるアルムをハイネが背中を押し、ニヤが右手を繋ぐ。
青く錆びた門をくぐり抜け、赤く錆びた赤銅の門を私とホワブロ女で開いて中に入ると、
「なんだよ……、見掛け倒しじゃねぇか……」
幽霊屋敷なんて嘘のような綺麗なロビーだった。
隣でアルムがふぅ……と息を吐いて心底安心している。
キョロキョロと私は当たりを見渡すが、それにしても人がまったくいない。
赤いレッドカーペットを踏みしめた先にはフロントデスクがあり、誰かが左脚を机にかけて新聞を読んでいるだけだった。
このホテルのフロントマンだろうか?
新聞には表紙にでかくアルムを推しているアイドル女が飾っている。
「えぇと、紙によると……まず、『フロントデスクのフロントマンに挨拶する』」
「こんにちは!」
ハイネがフロントマンに挨拶をする。
だが、何も帰ってこない。
返事も、視線も何もかもが。
それほどまでに新聞を熱中して読んでいるということだろうか。
ただ、重々しい空気が流れていく中で、
「ちょっとスタッフの態度、最悪すぎないっ!」
ホワブロ女が口を開く。
フロントマンの態度が気に食わなかったようだ。
「ちょっと顔ぐらい見せなさい」
「――落ち着いてくれ」
このままだとホワブロ女はフロントマンに殴りにかかる勢いだった。だから、私は彼女の肩を掴むように止めにかかった。
「でも!」
「ハイネを信じてほしい」
ホワブロ女は納得してない顔を見せるが、動きが止まる。
私もこれ以上はハイネに代表代理のハイネに任せようと思った。
「¨弾丸込めた小銃を持っている¨」
フロントマンは新聞越しから顔を覗かせる。
「ご用件は?」
目つきの割には声が高かった。
「¨午後の待ち合わせ¨があるから通してほしい……です!」
「畏まりました。こちらに」
フロントマンがけだるげに左手を奥の部屋に向ける。
そのまま、私たちは奥の部屋に歩いていくと小さい部屋に突き当たった。
「おい、行き止まりじゃねェかァ!」
「やっぱり、苦情を言いましょう!」
アルムとホワブロ女が声を荒げる。
「紙には¨4¨、¨0¨、¨4¨とだけ……」
私は部屋をよく見る。壁には¨0¨~¨9¨が書かれたボタンが配置されたパネルが張り付いている。
しかし、妙だ。
中から不思議な魔力を感じる。どこかゼネに似た雰囲気を感じるのだ。
空間転移系の魔力……がもし部屋に通っているなら、これは罠であるとも考えるべきではないだろうか?
「えぇ……と……まず、¨4¨を押します」
ハイネが¨4¨を押した刹那――さっきまで見えていたエントランスがいつの間にか消え、大きな広間で社交ダンスを男女たちが踊っていた。
「なァ? ここなのかよ?」
アルムがハイネに尋ねる。
「次に¨0¨を押します」
ハイネは紙をただひたすらに見つめ、次のボタンを押した。
刹那――目の前に暗闇が広がる。
存在しない真っ暗闇の空間の中、私たちがいる部屋だけが投げ出された感じがした。
「最後にもう一度、¨4¨!」
ハイネがもう一度、¨4¨のボタンを押す。
すると、――目の前には金色の装飾が施された扉が目の前にあった。
「きっとここでしょう!」
ハイネは自信を持って両手で扉を開ける。
目の前にはこのホテルに入った時に目にしたエントランスとほぼ同じ……、だが、人はそれなりにいた。
背中に傷がある筋肉質の男たちから希少価値が高い獣の皮を着物にした麗しい女たち……、この顔、ギルドの雑誌でよく見たことがある。
各国で活躍している中堅ギルドの者たちだ。
「キリエさん、アルムさん、ニヤさん、わたし受付してきますので少しだけ待ってくださいね!」
「お待ちしておりました。ギルド〈デイ・ブレイク〉の者たちですね」
「やっぱりいたじゃない!」
ホワブロ女が隣で叫ぶ。
視線を向けると、
「探したんスよ~! どこに行ってたんっスか~?」
「……待てば……くる…………。だから……言った……」
ホワブロ女の仲間と思われる赤髪ショート女はホワブロ女に飛びつくように抱き着く。
一方、白髪ストレート女は落ち着いた様子でテーブルにタロットカードを並べていた。
「お前ェ、迷子だったんか?」
「迷子じゃないわよっ!」
「迷子っすよっ!」
「このじゃじゃ馬箱入り娘、迷惑にならなかったっスか?」
「凄ェじゃじゃ馬だったぜ!」
アルムがそう言う。
すると、ホワブロ女は脚に勢い付けて、
「痛ェ!」
おもいっきりアルムのケツを蹴った。
地面にうずくまるアルムを見ていると、白髪ストレートの女が私に近寄ってくる。
「……世界の……反対…………、占いに……そう……出た…………」
彼女はゆったりとした声で私にそう話すと、そのまま眠ってしまった。




