流星 ――ウィッシュ・スォウト――
〈アーク・レインドラ〉は近場の岩陰に隠れるように停まった。
ヴェールが『本気で魔力を使いすぎた! 今日は戦艦で寝る! 肉が焼けたら教えてくれ』と言った。
だから、今日は戦艦の中で寝泊りすることになりそうだ。
今、〈デイ・ブレイク〉のみんなは虹の光りでほどよく焼かれたヘルホルロスを食べようと準備していた。
「アヤメ! 鱗は取れそうかニャ?」
「やってみる」
私は口を動かしながら、硬そうな鱗と鱗の間に旋風刃を振り下ろす。
「あぁ、思ってたよりも……簡単……」
硬い岩みたいな見た目とは裏腹に怪獣の硬い皮膚が脆く、刃物を刺し込むことでいとも簡単に剥ぎ取れる。
恐らくは高温で熱したから砕けやすくなったのだろう。
ヴェール曰く、ヘルホルロスと呼ばれるこの怪獣は普段は地下を掘り進みながら生活しているらしい。
獲物を捉える時だけ姿を現すが、捉えればすぐに地中深くに潜ってしまう。
だから、――強烈な光が苦手なんだと言っていた。
「ようやく綺麗なピンク色が見えてきたニャ!」
目の前に桃色の筋肉が広がる。
体液によって、てかてかと光り輝く肉はまるで宝石に負けない輝きをしている。
「肉が宝石みたいに光ってる……凄いな!」
「アヤメは初めて見るニャ?」
「あぁ、生まれてからこんな肉は見たことがない。既に茶色だった」
「アヤメはこの肉、美味しそうに見えるニャ?」
ふと、ニヤが質問してくる。
なんだか私を試しているように聞こえる。
「分からない。食べるもの全て美味しいと思えるし……それに」
「それに?」
「仲間みんなで食べられるだけで充分……」
ニヤが私を見て笑って言う。
「アヤメ、ミャ―のパパと同じようなことを言うニャ!」
「なんと?」
ニヤが上を見上げる。
「『調理師の努力で料理の味は確かに変わる。でも、友達、仲間、家族と食べる料理には¨時¨というスパイスがかかるから全くもって勝てない』と」
ふと、上を見れば月。
今日の月は金色に輝いている。
「はやく薪を持ってきてくれよ! 火の準備は出来たんだからよ!」
「はいはい、今持ってきますよ」
私たちの下でアルムとハイネが焚火の準備をしている。
そっけないハイネだがどこか嬉しそうだった。
「なんじゃ、みんなで楽しそうにしおって。腹が減って起きてしまった」
振り返ればヴェールがいつの間にか起きていた。それはもうくたびれた雑巾のような顔で。
「肉食い終わるまで寝ていてよかったのによ」
「我が肉食いたくて〈ハロ・アーク〉解き放ったんじゃ! じゃから、我がアルムンの肉食う権利くらいあるじゃろう」
「ロリニートは野菜だ! その辺のな!」
アルムが指を指す。
指した先は誰が見ても分かる草だ。
「あれは草ですね。草」
「草じゃないか! 酷いではないかっ!」
「調理するかニャ?」
「肉が食いたいんじゃ! 我ェ!」
みんなでヴェールのことをいじる。
どこか感じる穏やかなこの空気。いつまでも続けばいいのに。
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
私たちの手元にはニヤが肉と草を盛り付けたアルミ皿とそれを食べるためのフォークとナイフが配られる。
どうやらあの草、食べられるものだったらしい。
「無事に依頼、終わらせることを願って……」
「「「「――乾杯!」」」」
ヴェールの一声が静寂の夜を切り裂く。
ギルド〈デイ・ブレイク〉が今、始まった。
「うんめェー! こんな活きがいい肉初めてだ!」
「美味しい……! 美味しい……! 感謝感謝我幸せ……!」
「どうかニャ? 肉の臭みは取れているかニャ?」
「流石じゃな! やはり父の味を受け継いでおる!」
幸せそうな顔からは既にほっぺが落ちるほど、ヴェールとアルムは口に頬張っている。
焚火で焼いた香ばしい香りと胡椒のスパイシーな香りが私の鼻孔をくすぐっていた。
それにしてもだ、それにしても。
こんな肉、私は初めて見た。
「キリエン、食べないの?」
「不思議な肉だな……」
胡椒をかけられ焼かれているというのに、ぴくぴくと肉は踊るように動いている。
端的に言って不気味だ。
まだ、生きているんじゃないかと思うぐらい。
恐る恐る一口……。
「美味しい……!」
噛めば嚙むほど、出てくる肉汁とスパイスの香り。
異世界に来てから……いや、今まで生きてきた中でこんな肉、食べたことない……!
「そうニャ! そうニャ! 頑張ったかいあったニャ!」
ニヤが私に微笑む。尻尾をぶんぶんと振り回して嬉しそうだった。
「美味いですね! 酒はッ! ないんですかッ!?」
美しくも頼れるハイネが酒が欲しいと叫んでいる。
「水じゃダメなのかよ……」
「せっかく美味しい料理なので酒が飲みたいなぁ……って……!」
「すまんが持ってきてない。何故なら、ハイネン……暴れるから……」
「どうしてですか……!? 旅に酒は――――」
「いくら母なる海よりも宇宙の広大な心を持った我の心でも絶対に嫌じゃ! ゲロ吐くからっ!」
「ぬぅあぁぁあぁぁぁあぁあぁぁぁぁあぁぁあぁあぁっ! 酒がなければ役に立たず、コントロールもできず、しまいに落ちこぼれ価値無しバカ魔術師……」
ハイネが泣いている。
目からドバドバと滝のように流れ出るように。
ふと、空を見れば流れ星が流れる。
「昔、おばあちゃんが言っていたんだ。『流れる星を見たら願い事を願いなさい』って」
「わたしも願えば叶うでしょうか? いつかヴェールさんを超える立派な魔術師になりたいです!」
ハイネが私に聞いてくる。
私は自信満々の顔で、
「あぁ、叶うよ! 想えばきっと叶う!」
四筋の流れ星が瞬く間に流れる。
「ミャ―は親父を超える立派な調理師になる!」
「俺は誰にも負けない強ェーヤツになる!」
「じゃあ、我はハイネに絶対に超えられない魔術師になる!」
「それ願ったら、私、一生超えられないじゃないですかっ!?」
私は手を合わせて、目を瞑る。
――――この穏やかな空気がいつまでも続きますように。
次回!
ようやくミュゼ・リアにたどり着きます!
終わりはクリスマスぐらい!
頑張って執筆します……!
最後まで読んで頂きありがとうございました!
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