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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第四襲 歌衝争儀編
45/85

届かぬ叫びの発狂死事件 ――クライ・ティアラメント――


 ――なるほど、魅力が分かった。

 アルムがアリアという少女を推す理由が分かったような気がする。


 すらりと伸びたストレートな金髪にルビー色に輝く眼。

 容姿端麗で綺麗な人形みたい。

 軽快なステップで狂うように踊り、水のような透き通った声で歌う。


 それに、どこか懐かしい雰囲気があった。

 なんとなく(キリエ)と同族であるかのような感じ。


 ――興味深い。


 そんな彼女をテレヴィ越しに見ている時だった。


 私の魔術書(アルバ)が勝手に現れ、光を出す。

 誰かが連絡(れんらく)魔術で私のことを呼んでいるのだろう。

 って言っても一人しか見当がつかないが。


 魔術書を開けると、

『キリエさん、朝早くにごめんなさいね!』

「うむ」

 ゼネの声だ。


『昨日、誰か捕まえました……?』

「あの金髪男のことか……?」

『……はぁ……、それが調べたんですけど……罪状が食い逃げに窃盗、器物損害で……指名手配されてたぐらいで……』

「食い逃げは死刑じゃろう! 処しちまえ!」

「そうです! そうです! (デェース)!」

「盗み聞きしてる二ャら食べた皿ぐらい運ぶ二ャ! 洗い物するから!」

「「はぁ~い」」

 後ろのガヤ2人(ヴェールとハイネ)にニヤが突っ込む。ごもっともだ。


「もちろん、これから彼らの取り調べを始めるのですが……そんなことは置いといて朝からびっくりですよ! びっくり! マナ・リア王国騎士団から〈デイ・ブレイク〉宛てに依頼が届いているのですから!」

「そんなにびっくりすることなのか……?」

「依頼内容は……ふむふむ、太陽が7陽昇(ようしょう)後――※現実的に言えば7日立つってことですよ――にミュゼ・リアドームの防衛ですね!」


「――7陽昇ってライブの当日じゃねェか!」

 驚いた。いつの間にか、アルムがキリエの隣にいたから。

 

「アルムン、ミュゼ・リア行く予定じゃったの?」

「皿、ありがと二ャ!」

「いや、抽選に落ちたから行けねぇんだけど……」

『よかったですね~! これで行けるじゃないですか~!』

「なんつぅ~かぁさぁ……、オフで行きてぇんだよなぁ~……」

 アルムがため息を吐きながら顔をしかめていた。

 自分が楽しみたいものだからこそ仕事じゃなくてオフとして行きたいのだろう。


『推しは誰です?』

「ん……? 推し……? ……アリアだけど……」

『じゃあ、折角なのでアリアさんにも打ち合わせに参加して貰いましょうか!』

「マっ、マジで!?」

 私の魔術書にアルムが興奮して顔を突っ込んできた。

「えぇ! マジです! 〈ムジカ・アクセント〉とのお話次第ですけどね!」


「よっ……しゃぁぁぁああああああああああああ!」

 アルムの心からの叫びが部屋に響き渡る。声色から心底嬉しそうだった。


「アルムさん凄い嬉しそうですね!」

「朝からテレヴィにアリアが出てきて釘付けだったからな」

「もう(ひと)つ、いいですか……?」

 ゼネの雰囲気が変わる。

 これからが重大であると言わんばかりで――嫌な予感がした。


「ミュゼ・リアに行くなら解決してほしい事件があります。まるで、“叫んで声が枯れたかのような死体”が増えています。しかも、ここ最近……」

「そんなになのか……?」

「えぇ、ミュゼ・リア国の警備隊も出動しているらしいのですが、未だに正体が掴めないままで……。なので、もしかすると、もしかして、もしかしなくても、異世界転生教の能力によるものかもしれないのでサクっと解決してきてください!」


 国の警備隊は優秀な魔術師しか入れないはず……。

 それなのに未だに正体が掴めないってことはそれすらも上回る魔術師がミュゼ・リアにはいるということになる。


 叫んで声が枯れて死ぬなんてまともな人の死に方じゃない。

 私もゼネの予想通り¨異世界転生教によるもの¨だと仮定したい。


「おっと、もうすぐ取り調べが始まるのでこれで失礼しますね! ミュゼ・リア入国チケットがそろそろ〈デイ・ブレイク〉に届くはずですので、5陽後に行ってください!」

「ありがとう」

「では、失礼します」


 ゼネとの連絡が切れる。私は魔術書を消滅させた。


「でも、どうやって行くんですか? ミュゼ・リアまでは結構、遠いはずですよね? ざっと260kmぐらいだったはず」

「そうだぜ、俺だって馬車で行こうと思ってたのに」

 ゼネとアルムが首を傾げて言う。

 これから準備して馬車を手配するとなると、流石に5陽後には行けないはずだ。


「ふふふふふふっ……」

 ヴェールが高笑いしだす。

 なにか策がありそうな感じがした。


「なんだよ、一人で笑って気持ち悪ぃ……」

「久しぶりにアレを使う時が来たようじゃな……」

 待ってましたと言わんばかりにヴェールが言う。 


「使うって何を使う……?」

 〈デイ・ブレイク〉に入って、ある程度慣れてきたとはいえ、まだ、部屋の場所も機能も分かってないからだ。

 ましてや、自動二輪車(バイク)と呼ばれる馬よりも圧倒的に速く走る魔具も持っている。

 ヴェールならなにかあるはずだと思ったから私は聞いた。


 すると、

「――明日まで秘密っ! 秘密の魔具(まぐ)じゃから!」


 どうやら秘密らしい。

 明日の楽しみにしようと思う。


一部本文を修正しています。2022/09/21に。

・ハイネのこれまで出てきた魔術を灰魔術に統括。

・キリエの主語は¨私¨(読みはキリエ)

・誤字、脱字気になったところの修正。


一襲の一話はガッツリやってますので気になったら見てくださると嬉しいです!


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