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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第四襲 歌衝争儀編
43/85

私が¨覚悟¨を決めた日 ――アイ・スクリーマー――


【異世界転移者――――音無(おとなし)アリアの場合】



 一歩。


 また、一歩と進んでいく。


 私を苦しめる人生に別れを告げるためにもう一歩。


 後、もう一歩進めば死ねる。


 両足のつま先が宙に浮くほど私は進んでいた。


 いつも通りライブハウスでライブを終えた夜。

 私は事務所の屋上で飛び降りようとしていた。



 ――今日は最悪最低な一日だった。

 いや、私の人生そのものが最悪最低か。


 私の夢はアイドルになること。

 うんうん、それは違う。

 私の天からの運命がアイドルになれって決めた。


 だから、夢でアイドルになろうとするヤツはクソ雑魚豚野郎。お門違いね。


 可愛いドレスを身に纏って、可愛い歌を喉が枯れるまで歌って、ダンスの振付に汗水垂らして、握手会に長者の列が出来てしまう程の――――そんな、誰もが誰もが羨むアイドルになるのが私の運命なの。


 だから、私は――――なれた。


 あはっ……、あはは……アハハハハハハっ当たり前か! 当たり前よ!

 だって、この世は当たり前じゃないと私たち人間は生きていけないんだもの!

 オーディションで勝ち抜いて当たり前! 何故なら、私がアイドルになる運命だから!


 でも、現実は違ったの。

 アイドルになれたけど地下アイドルだった。


 しかも、ソロで活動する運命だったのに右も左も分からないトーシロー2人と3人組ユニット組まされてさぁ……、運命滅茶苦茶。

 田舎から来た芋女に、右も左も分からないおかちめんこ女。

 おかげで地元の愛知県ですら話題ならないゴミユニットで最低最悪。

 はよ、解散ライブしてェーーーーーーっ心が叫んじゃうの。


 っで、私だけキモデブに好かれんの。他の2人はさぁ、ヒョロメガネにソバカスマンに囲まれててさぁ……――私、デブセンじゃねぇし!


 っで、なに? ゴミ2人は私に向かって、『今日もモンスターハンターしてたね~!』って。

 ――――チョー、ムカつく!


 お前ェら、キモデブに対しても言ってやりてェんだよっ!

 汗臭(あせぐせ)ェから、握手券買う暇あったらアタック買えよ! って。

 まぁ、そんなこと現実で言ったら炎上するんだけどね。

 後で裏垢に呟こう。


 あっ、これから死ぬつもりだから、ロッカーにスマホ入れっぱじゃん……。


 はぁ……っとため息を吐いて、気分を変えた。


 下を覗けば沢山の凡人たちが歩いている。

 死ぬ前に時計見たら22時だったから、会社帰りなんだと思う。

 言ってしまえば社畜の可哀そうな人たちってヤツ……?


 凡人じゃあ私がアイドルって分からないか……はぁ……。


 なんというか……、精神的に疲れちゃった……。楽になりたい……。


「おいっ! アリア! そこで、何やっているんだ!」


 プロデューサーキタァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!


「プロデューサーじゃん! どうしたの?」


 計画通り――――私をここまでゴミにしてくれたプロデューサーに死ぬところ見せつけてトラウマ植え付けてやるんだから!


「何をやっているんだと聞いている!」

「¨飛び降り自殺¨だよ! こんな救いもない世界で生きていたら、私、救われないから!」

「自殺なんて許さんぞ! お前が死んだら明日のライブはどうすればいいッ!」

「そういうエゴイストなところ……私、嫌いだから!」


 つま先に重心を移す。

 体重に任せて私は宙に落ちた。


「アリアァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 やったー! 空を飛んでいる感じ! 私、飛び降りれた!


 頭は地球の重力に負けて、真っ逆さま。

 私が地面にぶつけて死ぬところ、ちゃんと見てろよ! プロデューサー!

 せっかくだし笑顔で別れの挨拶を言うよ!

 

「さような――――」


 ■ ■ ■ ■ ■


 まるで、時が止まった感覚。

 身体も動かないけど、眼と瞼だけは動かせるんだけど。


 私が死んだから――なの……?


 じゃあ、ここは天国……?

 じゃあ、どうして私の頭は地面すれすれで浮いているの……?


 コツンコツンと下駄のような音が頭に響く。


「こんにちは! 初めまして! いや、初めましてしかないか!」


 目の前に突然、白い喪服姿の男が現れた。

 黒い髪が生えているからお坊さんには見えないし、そもそも、着るなら黒い喪服。

 お香のような香ばしい匂いがする男はにっこりと気持ちの悪い笑みを浮かべて、私を見下すかのように見ている。キモっ!


「誰よ。馴れ馴れしい」

「君の名前は……?」

「名を尋ねる前にあなたが名乗ったらどう?」

「しっしっしっしっ……、しはっはっはっはっ!」

 

 いや、私、名前聞いただけなんですけどッ!

 突然、笑われてもどう反応すればいいのか分からないんですけどッ!

 やっぱキモっ!


 しばらくして、彼の笑いが止むと、

「ハシュウでいい」

 とそう言った。


 ハシュウ? そんな名前、日本で聞いたことがない。

 ってか、¨でいい¨ってなに? 態度、チョームカつくんですけど。

 この世界はフィクションじゃないんだから本当の名前で言えよ! ってことで、

「下の名前は……? 私、下の名前を名乗らない人、信用しないんで」

 喪服姿の男に聞いてみる


「う~ん……、オシマイ……?」


 ――こんな適当な名前、あってたまるかっ!

 って心の中で突っ込んでおく。


「嘘でしょ。ってか、嘘よ! 本当の名前じゃないでしょ!」

「困ったな……。これはコードネームってやつだよ」


 コードネーム……? ――あぁ、スパイ映画とかでよく聞くやつね。はいはい。


「私が求めているのは本当の名前だから」

「あまり言いたくないんだけどなぁ……」

「言いなさいっ! じゃないと、私、あなたのこと信用しないからっ!」


魑根戒醒(ちねかいせい)。これで信じて貰えるかな?」


 私はこの名前を知っている。

 今、目の前にいる人の姿を見たこともないのに名前だけは知っていた。


 日本国民なら誰もが知っている呪われた名前。


 何故ならこの人――――

「おや、まるで僕が¨()()()¨みたいに顔をしているね。でも、直に分かるよ! 君もこれから異世界に転生するんだからっ!」


 突然、男にしては枯れた枝のように細い両手を広げ、上を向く魑根。

 私が見れば見るほど目がイッてしまっていた。


「しっしっしっしっしはっはっはっはっ!」


 ――――怖い怖い。

 背筋が凍る。

 私、()()()()()()()()を見ているかもしれない。


 魑根が黒曜石のような眼で私を見る。

「君はこれからこの世界を離れる。死にたくて飛び降りたんでしょ! でも、大丈夫! 異世界でも偶像崇拝者(アイドル)として生きていくのだから」


 そう言うと、魑根は煙のように霞んでいく。


「待って! ちょっ、待ってよ!」


 ちょっとなに喋ってんのか分からない。理解不能。

 異世界ってどういうこと……!?

 小説とかアニメで見るやつ……!?


 頭の理解が追いつかない。


 追いかけたくても身体が……


 ■ ■ ■ ■ ■


(いった)ぁ……」

 あまりの痛さに目を瞑る。

 背中を思い切り打ったみたいだった。


「って、ここはどこ……?」


 目を開ければどこかの廃墟にいた。

 私は屋上から飛び降りたのに、不自然にもどこかの壁に背をもたれながら座っていた。


 だって、死んでもおかしくない高さだよ。多分、20mの高さ……?

 兎にも角にも、プロデューサーが大好きな駆動戦騎ガンバルとおんなじぐらいだよ!


 本当ならば満身創痍のはずなのに、両手は不自由なく動かせるし、頭だって血が出ていない。


 ふと、空を見上げる。

 ガオーと空でドラゴンが飛んでいる。綺麗な青空……

「って、ドラゴンっ!?」


 ふと立ち上がって上空を見れば、あれは間違いない。

 ファンタジーで見るタイプの羽が生えたドラゴンだ。しかも、むっちゃ赤い!


「すっご……!」


 あまりにも突然のファンタジーに声が失ってしまう。


 ふと、魑根の言葉を思い出す。

 『君もこれから異世界に転生するんだからっ!』とついさっき気持ち悪く言っていたはず。


 じゃあ、私……、

「――異世界転生しちゃったの!?」


 うぅ~わぁ~、バイブス上がってキタァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!


 異世界転生だよっ! 異世界転生っ!

 あぁ~、私、ぶっ壊れ(チーター)になっちゃった!


 どうしようかなぁ~? 


 せっかくだし、なんか外で歌おっかなぁ~! アイドルアピールしちゃおっかな~!


「あっあぁ~、ハァ~」

 軽く発声して、はぁ……っと息を吐く。


 ――――よし!


 脳と肺に集中させて――――息を深く吸って心から声を出した。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 歌った。異世界で歌ってしまった。


「…………」


 カラオケ屋で歌うよりも、地下アイドルとしてステージに立って歌うよりもっ! もっのすっごく気持ちがいいっ!

 だって、空気が透き通っているんだものっ!


 こんな清々しい気分は初めて! だったら、もっと早く死んでよかったじゃん!

 どうせ異世界転生するんだからっ!


 すると、背後からパチパチと拍手が聞こえる。


「おぉ……音楽神(ミュゼリア)よ……。ワタクシに最後の希望を預けてくださったんですね……」


 顔が長芋のように細く、とある国の王様みたいな白髭をくるるんと生やしたグレーのスーツの大男が後ろにいた。


「誰よ」

「ワタクシ、こういうものでして……」


 男はスーツのポケットから名刺を取り出すと、私に渡してくる。


 今まで触ったこともないような紙質。

 さらりともしているし、ざらりともしている。

 それに、見たこともないほど煌めいている光沢感。


 あぁ、名前は¨プロデー・ユーサー¨だって。


 ――――全て気に入った。


「もし、あなたがよろしければワタクシたちのギルド〈ムジカ・アクセント〉に入っていただけませんか……?」

「うん! 入るっ! 私の名前は音無アリア! よろしくねっ!」

「おぉ……、¨オトナシ・アリア¨か……。よろしくお願いいたします……」


 そう、私はアイドルになるのが運命。


 異世界転生したからには、私がこの世界のトップアイドルになるんだから。


【プロフィール】


音無アリア


性別:女性

血液型:A型

身長:154cm

体重:44kg

誕生日:5月4日

所属:ギルド〈ムジカ・アクセント〉


異世界転移者。売れない地下アイドルだったが、ハシュウが発生させた〈いせかいのとびら〉現象によって異世界転移した。

彼女のセンスである¨音¨を頼りに芸術都市ミュゼ・リアの最上級音楽ギルド〈ムジカ・アクセント〉のトップスターまで登りつめる。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


今日から最新章! ¨歌衝争儀編¨です!

よろしくお願いいたします!


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