星々、照らす ――スターライト・イルミネーション――
「…………」
どこからか声がする。
「…………!」
必死で叫ぶ声。
「……り……!」
この声、
「……りえ……!」
ニヤの声か……?
「キリエ……!」
ニヤが必死に嗚咽混じりの声で私の名を叫んでいる。
「すまない……。身体に無理しすぎた……」
ニヤの方を見るが、目がおかしい。
少しだけ眠ったとはいえ、ニヤの顔がぼやけて見える。
紫色と緋色に混ざり合うかのグラデーションが私の視界を彩っている。
試しに目をこすって……、腕に力が入らないから、そもそもこすれない。
――こんなの初めて。
それ程、私自身が魔力を引き出せたのだろうと肯定的に捉えるべきか、まだまだ魔力コントロールが出来ていないから暴走してありったけの魔力を引き出していたと捉えるべきか。
まぁ、少し休めばいつも通りの体調に戻るだろう。
「離せっ! このまな板女っ! この魔力糸、ほどけさせろっ!」
「もふっ! 【織籠】!」
「そこの金髪お姉ちゃん、兄貴と結婚しれないかな……? でへへへ」
「私たちは仕事をしているのよ。寝言は寝てから言って頂戴」
耳の外から魔術の音が聞こえる。
ギルド管理協会が恐らくは異世界転移教の金髪男たちを捕まえに来てくれたのだろうか?
「パン食べながら魔術を発動するなんて、お行儀が悪いからやめなさいよ! 素直にオルレアン部隊の恥だわ!」
「んぐっ!」
「ほら、言わんこっちゃない! 罰が下ったわ! 背中、さすってあげるから……」
「ゴホッゴホッ。だってだって、できたてのパン、早く食べないと不味くなるっすよ!」
「私はカップラァメンを我慢して現場に来てるのよ!」
「糖分ないと仕事できないっすよ! あぁ、パンまだあるんっすけど……食べます……?」
「――――ありがたく貰うわよっ!」
そうぶつくさ言いながら、ギルド管理協会の者たちは……オルレアン部隊と言ったか……?
マナ・リア王国騎士団、直々に捕まえに来るとは……珍しいな。
コツンコツンと鎧が歩く音がする。どうやら、オルレアン部隊は帰路に向かって歩いているようだった。
「よかった……、生きてて……」
これでもう攻撃はこない。それに、私もニヤも今、こうして生きている。
金髪男から〈ニヤの尻尾〉を守りきれた実感が湧いてくる。
「なんでニャ? なんで、ここまでしてくれたのニャ……? 実家、片づけるのも大変なくらい酷く燃やされ、雷に当たって酷く損傷してたのに……、どうして……? アヤメはボロボロになってまで……守ろうと戦ってくれたのニャ……?」
「お子様ランチ……。ヴェールが言っていたお子様ランチというものをここで食べて見たかった……。ヴェール、凄い美味しそうに話すんだ……」
頭の中で笑顔のヴェールが脳裏に思い浮かぶ。
〈ニヤの尻尾〉に向かってマナ・ストリートを歩いていた時、ヴェールは楽しそうに話をしていた。
「それに……、『娘が俺の後を継いでくれる! 俺が死んだらよろしく頼むぞ!』と……ヴェールがニヤのおやっさんに言われたからって……」
「ミャ―の父ちゃんが……?」
私の頬に雫が落ちる。今日は晴れているのに。
「最後までクソ父ちゃんだったニャ……。ようやく調理師になれたのに! なんでニャ……」
「すまなかった……。キリエがもっと強かったら……」
「ヴェールから全部、聞いてた二ャ……。 『我よりも先に助けに行ってくれた!』って……。 だから、ありがとう!」
「恨んでないのか……?」
「当たり前二ャ! 守っでぐれだ気持ぢに……感謝する二ャ!」
視界はぼやけているが、なんとなく私に笑いかけて声色からやるせない気持ちが伝わってくる。
私だって唇を嚙みたくなるほど悔しかった。
暗殺者になってから、死んだ人を何人何人も見てきたはずなのに、目の前で殺されるのだけは未だに慣れなかった。
でも、慣れなくていい。
慣れてしまったら、私の中の¨人¨であることを忘れてしまいそうだから、死ぬまでこのままでいようと思う。
「…………」
雫が止むと、ニヤが少し息を吐く。
しばらくして、
「立てるか二ャ! 〈デイ・ブレイク〉はどこ二ャ? 送ってく二ャ! どうせ、常連客じゃあ、ろくな飯も食べてないだろうから今日はニヤが作る二ャ!」
「そうか……、ありがたいな……」
――目を瞑る。
腹を空かせたアルム、ハイネ、そして、ヴェールが待っているだろう。
早く帰って落ち着いてから、ゆっくりとまた眠ればいい。
「よし、帰ろうか……!」
目を開けると、視界は鮮明にニヤの顔を、綺麗な星々を映した。
奥歯、まだ抜かなかったですが、虫歯が見つかりました……(涙)
来週、治療します……。




