月光嵐龍 ――ゲッコウランリュウ――
「いぎっ……、顎がぁ……。これじゃァ……まともに歌えねェ……」
金髪男は血を吐き、顎を抑え、外でじたばたともがくように悶えている。
魔力を込めた右脚が金髪男の顎にクリーンヒットしたからだろう。
私は吹っ飛んだ方向へ真っ直ぐ、ただ、真っ直ぐへと道を外さぬよう歩いていく。
腰に据えていた【旋風刃】を抜刀する。
まだ、あの金髪男に奥の手があるかもしれない。
少しでも油断すれば、私も負けそうだ。
そう思うならば、一瞬の油断もできない。
次、抵抗したら――――狩る!
「殺しはしない。何故、ここに入った……? ¨魂を回収する¨とはどういうことだ……?」
私は質問する。
¨魂を回収する¨と確かに言っていた。もしかすると、異世界転移教の何かが分かるかもしれない。
だから、聞いてみた。
「知らねェなァ……、俺ァ……まだ、死にたく……ねェからよォ……」
金髪男は何も答えなかった。
ただただ、うめき声を荒げながら私のことを抵抗するように睨んでくる。
地面に落ちている弦楽器型の魔具から魔力が消滅していく。
おそらく金髪男の魔力はもう虫の息。これならギルド管理協会に連絡すれば、大人しく連行出来そうか。
「アヤメ釣れた二ャ! 小さい癖に生きが良すぎ二ャ!」
「離せッ! この猫耳女ッ! まな板女ッ!」
ニヤが後ろから現れる。手には育ち盛りの小さな子供が左手で掴まれていた。
「これでも成長盛りニャ! 次、言ったらニヤ族伝統の踊り食いをするニャ!」
「いっ……た……」
彼女はゴチンっと少年にゲンコツを喰らわす。たんこぶが出来そうなくらいの威力はとても痛そうだ。
「クラウンッ! 俺ァの弟分には手を出すンじゃねェ!」
「このガキがミャ―を舐め腐っているからいけないニャア! ミャあ、まだ育ち盛りだし、伸びしろあるはずだし……」
ぶつぶつとニヤは呟く。
目の前の金髪男の形相が変わる。
「助けてくれよッ! エレトロの兄ぃ……ヒィッ……」
少年がギョッと青ざめた顔でキリエの方を見る。
「こっ、こいつは¨旋風の妖眼¨! 伝説の¨妖眼の魔女¨と一緒の眼を持っているという噂の暗殺者! なんでお前がここにいるんだッ!」
まるで、化物を見るかのような目。背筋を震わすように怯えていた。
「¨旋風の妖眼¨……? 違う! 名はアヤメ・キリエ!」
「そういう二つ名なんじゃニャいか……?」
「うむ……」
¨旋風の妖眼¨――――この世界で活躍していれば、自然とついてしまう二つ名。
思い出せば、私も暗殺依頼を遂行している時、度々その名で呼ばれたことがあった。
なんのことを言っているんだと思っていたが、
「なァ……、見逃してくれよ……。俺たち異世界転移して……¨トウキョウ¨という都市でバンド活動してェンだ……。ミュゼ・リアに行っても実績もない俺たちじゃ~相手にしてくれねェ……だから!」
ふと、金髪男が呟く。命乞いをしているかのような声色はキリエの心が震える。
「この際、魂回収というものはどうでもいい……。でも、このニヤには親よりも立派な料理人になる志がある! その舞台を踏みにじったお前たちがバンド活動したいだと……。――――ふざけるなっ!」
怒り――あまりにも自分勝手すぎる。
ニヤがこれから活動していくだろう拠点を土足で踏みにじり、無茶苦茶にした彼らを許すわけにはいかない!
「兄貴ィ! こいつは危険だッ! 逃げないと¨旋風の妖眼¨に殺されちまうッ!魔術書! 水魔術! 【雲創出】!」
後ろから少年が発動した魔術が私に当たる。目を覆い隠す雲が視界を覆い隠した。
――見えない。
ただ、無理に身体を動かさなければ金髪男は目の前にいる。
「逃げるなら今だッ! 兄貴ィ! 麻痺らせてズラかるぜ!」
「応よッ! 魔術書ッ! 雷魔術ッ! 【電磁波】ッ!」
この機に及んでまだ、魔術が発動出来るのか。
「【雲創出】に……【電磁波】が当たれば、雷雲となる。濡れたお前ェの顔面に雷が当たれば、砕け散って死ぬッ! 死ぬンだよォォォオオオオオオオオ!」
金髪男の力を振り絞ったシャウトが聞こえた時、背中に釣り針が刺さる。
「――――とぉおおおおおおおおおおおニャぁぁぁぁぁあああああ!」
力強いニヤの声が聞こえると同時に、天高く真上へ釣り上げられる。
背中の釣り針が外れると、
「全力でっ……! ミャ―が……! 避けさせてもらったニャ……!」
息がキレキレのニヤの声。この全力に答えなければいけない。
「ありがとう! ニヤ!」
釣り針が外れると、かかった雲が消滅する。
視界良好! 金髪男は斜め下にいる!
「よしっ! みねうちを狙う! 【旋風の舞】」
【旋風刃】の刃を風に溶け、両足に送る。
月の明りに照らされて、魔力がてらてらと輝きながら、宙を浮き、ぐるりと一回転する。
「風の魔力よっ!」
右拳に残りの身体の魔力を全て送る。
気を抜いたら風の刃が増えてしまう。金髪男に暗殺依頼が出ていない以上は殺せない。
リラックスして、身体を強張らせないように柔らかく意識する。
今! ――――龍が吐き出す熱線かのように風の魔力がキリエを押し出す。
「俺はここで死なねェェェエエエエエ! 何としてでも異世界転移して――」
金髪男に向かって勢いよく急降下していく。
「これでお終いっ! 【月光嵐龍】っ!」
私の右拳が金髪男に当たる。
風圧で金髪男の腹はねじられて――荒れ狂う嵐のように吹っ飛んでいった。
「アッ…………、兄貴ィィィイイイイイイイイイイイイイ!」
少年が泣きながら叫ぶ。
私は着地する。
同時に、視界が歪んでいく。どうやら、身体に無理しすぎたみたいだ。
「ニヤ……すまない…………。キリエ……、魔力使いすぎた……」
あぁ、意識が朦朧とする。
これで限界のようだ。金髪男は倒せたのだろうか…………。
今月辺りにようやく2章終わります!
※3章です。
長かったー!
更新後、歯医者行って、奥歯抜いてきまーす!
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また、次回もよろしくお願いします!




