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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第三襲 虚幻相体編
40/85

月光嵐龍 ――ゲッコウランリュウ――


「いぎっ……、顎がぁ……。これじゃァ……まともに歌えねェ……」

 金髪男は血を吐き、顎を抑え、外でじたばたともがくように悶えている。

 魔力を込めた右脚が金髪男の顎にクリーンヒットしたからだろう。


 (キリエ)は吹っ飛んだ方向へ真っ直ぐ、ただ、真っ直ぐへと道を外さぬよう歩いていく。

 腰に据えていた【旋風刃(せんぷうじん)】を抜刀する。

 まだ、あの金髪男に奥の手があるかもしれない。

 少しでも油断すれば、私も負けそうだ。

 そう思うならば、一瞬の油断もできない。


 次、抵抗したら――――狩る!


「殺しはしない。何故、ここに入った……? ¨魂を回収する¨とはどういうことだ……?」

 私は質問する。

 ¨魂を回収する¨と確かに言っていた。もしかすると、異世界転移教の何かが分かるかもしれない。

 だから、聞いてみた。


「知らねェなァ……、俺ァ……まだ、死にたく……ねェからよォ……」


 金髪男は何も答えなかった。

 ただただ、うめき声を荒げながら私のことを抵抗するように睨んでくる。


 地面に落ちている弦楽器型の魔具から魔力が消滅していく。

 おそらく金髪男の魔力はもう虫の息。これならギルド管理協会に連絡すれば、大人しく連行出来そうか。


「アヤメ釣れた二ャ! 小さい癖に生きが良すぎ二ャ!」

「離せッ! この猫耳女ッ! まな板女ッ!」

 ニヤが後ろから現れる。手には育ち盛りの小さな子供が左手で掴まれていた。


「これでも成長盛りニャ! 次、言ったらニヤ族伝統の踊り食いをするニャ!」

「いっ……た……」

 彼女はゴチンっと少年にゲンコツを喰らわす。たんこぶが出来そうなくらいの威力はとても痛そうだ。


「クラウンッ! 俺ァの弟分には手を出すンじゃねェ!」

「このガキがミャ―を舐め腐っているからいけないニャア! ミャあ、まだ育ち盛りだし、伸びしろあるはずだし……」


 ぶつぶつとニヤは呟く。

 目の前の金髪男の形相が変わる。


「助けてくれよッ! エレトロの兄ぃ……ヒィッ……」


 少年がギョッと青ざめた顔でキリエの方を見る。

「こっ、こいつは¨旋風の妖眼¨! 伝説の¨妖眼の魔女¨と一緒の眼を持っているという噂の暗殺者! なんでお(まえ)がここにいるんだッ!」


 まるで、化物を見るかのような目。背筋を震わすように怯えていた。


「¨旋風の妖眼¨……? 違う! 名はアヤメ・キリエ!」

「そういう二つ名なんじゃニャいか……?」

「うむ……」


 ¨旋風の妖眼¨――――この世界で活躍していれば、自然とついてしまう二つ名。

 思い出せば、私も暗殺依頼を遂行している時、度々その名で呼ばれたことがあった。

 なんのことを言っているんだと思っていたが、

「なァ……、見逃してくれよ……。俺たち異世界転移して……¨トウキョウ¨という都市でバンド活動してェンだ……。ミュゼ・リアに行っても実績もない俺たちじゃ~相手にしてくれねェ……だから!」


 ふと、金髪男が呟く。命乞いをしているかのような声色はキリエの心が震える。

 

「この際、魂回収というものはどうでもいい……。でも、このニヤには親よりも立派な料理人になる志がある! その舞台を踏みにじったお前たちがバンド活動したいだと……。――――ふざけるなっ!」


 怒り――あまりにも自分勝手すぎる。

 ニヤがこれから活動していくだろう拠点を土足で踏みにじり、無茶苦茶にした彼らを許すわけにはいかない!


「兄貴ィ! こいつは危険だッ! 逃げないと¨旋風の妖眼¨に殺されちまうッ!魔術書! 水魔術! 【雲創出(クラウディング)】!」


 後ろから少年が発動した魔術が私に当たる。目を覆い隠す雲が視界を覆い隠した。


 ――見えない。

 ただ、無理に身体を動かさなければ金髪男は目の前にいる。


「逃げるなら今だッ! 兄貴ィ! 麻痺らせてズラかるぜ!」

「応よッ! 魔術書(アルバ)ッ! 雷魔術ッ! 【電磁波(ショック・ウェーブ)】ッ!」


 この機に及んでまだ、魔術が発動出来るのか。


「【雲創出】に……【電磁波】が当たれば、雷雲となる。濡れたお前ェの顔面に雷が当たれば、砕け散って死ぬッ! 死ぬンだよォォォオオオオオオオオ!」


 金髪男の力を振り絞ったシャウトが聞こえた時、背中に釣り針が刺さる。

「――――とぉおおおおおおおおおおおニャぁぁぁぁぁあああああ!」

 力強いニヤの声が聞こえると同時に、天高く真上へ釣り上げられる。


 背中の釣り針が外れると、

「全力でっ……! ミャ―が……! 避けさせてもらったニャ……!」

 息がキレキレのニヤの声。この全力に答えなければいけない。


「ありがとう! ニヤ!」

 釣り針が外れると、かかった雲が消滅する。

 視界良好! 金髪男は斜め下にいる!


「よしっ! みねうちを狙う! 【旋風(せんぷう)(まい)】」


 【旋風刃】の刃を風に溶け、両足に送る。

 月の明りに照らされて、魔力がてらてらと輝きながら、宙を浮き、ぐるりと一回転する。


「風の魔力よっ!」


 右拳に残りの身体の魔力を全て送る。

 気を抜いたら風の刃が増えてしまう。金髪男に暗殺依頼が出ていない以上は殺せない。

 リラックスして、身体を強張らせないように柔らかく意識する。


 今! ――――龍が吐き出す熱線かのように風の魔力がキリエを押し出す。


「俺はここで死なねェェェエエエエエ! 何としてでも異世界転移して――」


 金髪男に向かって勢いよく急降下していく。


「これでお終いっ! 【月光嵐龍(ゲッコウランリュウ)】っ!」

 私の右拳が金髪男に当たる。


 風圧で金髪男の腹はねじられて――荒れ狂う嵐のように吹っ飛んでいった。


「アッ…………、兄貴ィィィイイイイイイイイイイイイイ!」

 少年が泣きながら叫ぶ。


 私は着地する。

 同時に、視界が歪んでいく。どうやら、身体に無理しすぎたみたいだ。


「ニヤ……すまない…………。キリエ……、魔力使いすぎた……」


 あぁ、意識が朦朧とする。


 これで限界のようだ。金髪男は倒せたのだろうか…………。


今月辺りにようやく2章終わります!

※3章です。

長かったー!


更新後、歯医者行って、奥歯抜いてきまーす!


下からブクマ、☆、いいねしてくださると更新の励みになります!

また、次回もよろしくお願いします!

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