見えない敵 ――ステルス・アタック――
――一筋の雷光が目の前に迫る。
身体が動かないニヤをありったけの力で投げ飛ばしたはいいが、このままでは私が感電してしまう。
どうする私? 考えろ私!
「魔術書ッ! 【旋風刃】!」
ふと、答えが出る。
ヴェールは全身にまばゆい極光を発していた。
私の魔力を全身に張り巡らせて魔術を発動したら、風の魔力を身に纏うことができるのではないか?
やってみるしかない……!
そう思った時、――まるで、釣り針に刺さったかのような感覚に真後ろに引っ張られる。
後ろを振り向けば、ニヤの釣竿型の魔具に釣り上げられたようだった。
「釣り上げる二ャ!」
彼女は力を振り絞り勢いよく後ろへ釣り上げる。
しかし、一筋の雷光はまだ私を殺そうと追いかけてくる。
こんな時こそヴェールがいてくれたらありがたいが、いないものねだりしてもしょうがない。
なら、――旋風刃の刃に雷光をぶつける!
刹那、
「【旋風の舞】!」
私の魔力を旋風刃に集中させて、【風の刃】に変えて飛ばす。
ぶつかると、荒れ狂ったような風とチカチカするほどの激しい光が身体に伝わってくる。
なら、風の刃が帯電しているはず。このまま実体の刃に戻すと雷がキリエの身体に流れて感電してしまうだろう。
だから、【風の刃】を8つに分裂させる。これにより帯電した雷の力を弱めることが出来る。
8つに分裂した風の刃は極力キリエから離れたところで突き刺すと、雷光は地面へ逃げるように消滅した。
「おミャー、頭いいニャー!」
「こういうのはセンスだ。感覚でやるしかない」
ニヤは私を下に降ろすと、釣り針を外した。
下から足音が聴こえる。
まるで、巨人と勘違いしてしまうかのような思い切りがいい足音。
しかし、巨人は流石に存在しない。ここに入ってこれるなら普通の人しかありえないのだから。
「なんだったのニャ? さっき」
「――静かに! 魔術飛ばしてきた本人かもしれない」
勢いよくニヤの口を隠す。彼女は苦しそうにもごもごとしているが仕方ない。不意をつくために音を立てずにここは様子を見たい。
「ビンビンにキテるぜェ、生命反応ォ! 魂を回収しにきたらァ~、まだ死んでない魂があるってことはァ~、親方にボーナス貰うチャンスじゃねェのォッ!」
『兄貴のギター、うるさすぎィ! 鼓膜がやぶれちゃうよ!』
「お前ェは周りに雨を振らせとけェ! やってくれたら俺のサンダーで貫けるからよォ!」
うるさいし、声もうざいときたか。それに、耳を劈くような……これは楽器の音なのか……?
こんな暴力的な音は初めてだ。心臓の奥からビリビリと響く。この音が好きな人にはごめんだが、私は大嫌いだ。
横を見ればニヤが嫌そうな顔で耳を塞いでしまっている。
早くこの場を対処しなければと思うと、
「確かそれは釣竿型の魔具だったな。¨対象を釣り上げる¨能力でよかったか……?」
私は彼女の魔具について確認する。
「名前は【シー・ステルスロッド】! ニャ―が¨狙った獲物を確実に釣り上げる¨」
ニヤが持つ深い深海のような深く暗い青で輝く魔具は【シー・ステルスロッド】と言うらしい。
確かに私はさっき釣り上げられたのだが、気配が近づいているという感覚がなかった。
殺傷力はないが、相手にしたら恐ろしい魔具かもしれない。
「いいか……。相手の音がなくなった瞬間にキリエは接近戦を仕掛ける。ニヤはもう1人を探ってくれないか……?」
「ニャ―がミスって2人死んでも呪わないでくれ二ャー。【潜水探査同期――右眼】」
彼女が魔術を発動すると、右目に魔法陣のようなものが浮かび上がる。
右目の瞼は一切に閉じずに、ただ、魔法陣だけを見つめていると、ルアーを地面の中へ海のように溶かしていった。
私も負けてられないなと思うと、地面に突き刺した【風の刃】を元の実体刃にして、鞘に納刀した。
下から音が止まる。――――作戦開始。
「よし、作戦を開始する!」
「絶対に釣り上げる二ャ!」
ニヤとハイタッチをすると、私は下の階へ音を立てぬように走った。




