騒がしくも綺麗な朝 ――グッド・モーニング――
耳に音が入る。
ドラゴンの羽ばたく音。
あぁ、やっと朝か。
そう思うと、勝手に私の目が覚めた。
窓の向こう側の空を見るために身体を起こして、カーテンを開ける。
あぁ、今日は綺麗な青空だ。
外には出たくないが、朝が好きな人にとってこれほど綺麗な青く澄み渡った空はなかなかないだろう。
心が清々しい。朝に昇る太陽が嫌いなのに。
どうやら真夜中にヴェールと会ってからだ。
それ以降、なんだか不思議と頭がスッキリとしている。
着替えを済ませ、起きてリビングに行こうとする。
「ゴブリンよりもちょっと強かったくせに、こんなにも喰われていたのかよ」
「しょうがないですよ。下級依頼だと思ったら、裏で異世界転移教が暗躍していたのですもの」
「それとゴブリンはまた別だろ。あんな奴らパパァンのシュシュンのズドドドドドドドドドドド……ドッ……カァァァァァアアアアアンってできるだろっ!」
「はいはい、頭アルムですね」
「――頭アルムってなんだよッ! 俺の頭は紛れもなくア・ル・ムだよッ!」
よかった。
リビングの入口からアルムとハイネの声がする。
今日も仲良く元気だ。
ハイネはエンデの魔術によって悪夢を見せられていたようだったから声を聞いて安心をした。
私はみんなに挨拶しようとリビングの扉を開けようとする。
「おは――」
「おっはよぉー! あっ、今日の仕事はなし! ってか、給料払われるまでお休み! よくやった! みんな!」
いつの間にか背後に今日も元気なヴェールがいた。
「よっ……しゃァァァアアアアア!」
「やりましたね! よかった……」
アルムが天に腕を掲げガッツポーズをする。ハイネは嬉しそうに微笑んでいた。
「どうした、キリエン……?」
「えっ……、あぁ、おはよう」
「おっはよぉー!」
ヴェールがそう言うと、食卓の方へ走っていく。
昨日、ハードな仕事を終えたばかりなのによく幼女みたいに走れる。
感心している間に彼女は勢い良く椅子に座った。
私は追いかけるようにしてヴェールの真向いの椅子に座る。
「どうじゃ、ハイネ? 元気かぁ?」
「はい! それはもうすこぶる元気です!」
「よかった! 流石、我の魔術!」
ヴェールがそう言うと、私と彼女の元へ朝食が運ばれる。
これはトーストに砂糖をまぶしただけだろうか……?
目に映るこんがりときつね色に焼かれたパン。
私の鼻孔からこれはきっと美味しいだろうと感じている。
「えっ……? 今日、あまりにも質素すぎやしないか……?」
「買出しに行けてないからですよっ!」
私は意を決して口に頬張る。
「美味しい」
「――でしょ! 砂糖をまぶしていれば大体のものは美味しくなります! 素朴な味ほど最強です!」
一口頬張ればそれはもう美味しかった。
パンのやさしくも普通の味に砂糖が安心感をもたらすような感じ。
久しぶりに口に含むパンは最高だった。
いや、普段からマロリーメイトで腹を誤魔化しているからこそ、この感想かもしれないが。
「……そうか……、えっ、肉にかけてもっ……!?」
「――なわけねェだろォ!」
「いえ、肉に砂糖をもみ込むことで肉質が柔らかくなるのですよ!」
「マジかよ……。知らなかった……」
「伊達にアルみたいな筋肉女じゃありませんから!」
「――おい、ゴルァ! この休みを利用して決闘を申し込むぜ!」
「望むところです。お相手しましょう」
アルムとハイネ――お互いがキレると、グラウンドに向かってリビングを出て行ってしまった。
「いいのか……?」
私はヴェールに聞く。
すると、アッハッハッハッっと高笑いをして、
「日常茶飯事じゃからなぁ! 心配はいらんじゃろ!」
いつの間にかトーストを食べ終わっていた。
「さて、朝ごはんを食べたらやるぞ!」
ヴェールは椅子から立ち上がる。
「えっ……?」
「キリエ専用スペシャルトレーニング! その名も……Da.Za.Ie!」
彼女はニッと無邪気に微笑んだ。




