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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第三襲 虚幻相体編
32/85

夜更かし ――ナイト・オウル――


 夜。みんなが静まっただろう夜更け。

 (キリエ)は寝れずにギルド〈デイ・ブレイク〉の奥の桜が成る庭で刀の素振りをしていた。


「412!」

 私にはまだまだ努力が足りない!


「413!」

 腕が!


「414!」

 脚が!


「415!」

 感覚が!


「416!」

 仲間を守るために!


「417!」

 速く!


「418!」

 もっと速く!


「419!」

 風のように!


「420!」

 振りかざす!


「421!」

「411!」

 もっと強く!


「412!」

「352!」

 なるために!


353(さんびゃくごじゅ)……、この声……ヴェールか」


 どこからか声がしたと思い、素振りを止めて振り返る。


「夜更かしは肌の天敵じゃよ」


 ヴェールが月明かりに照らされ腕を組んで立っていた。

 まさか、彼女に見られていたとは。気配も感じなかったから少し驚いてしまったというか。


「なんじゃ、夜中に鍛錬か? 関心はするが、この時間は寝たほうがいいじゃろう」

「確かに。でも、私、今日は寝れないんだ」


 すると、彼女が何やら水筒のようなものを投げ込んでくる。

 触る感じ何やら水分が入っているようだ。


「ポカリじゃよ! ポカリスウェット! 疲れているようじゃから蜂蜜も入れた」

「ポカリ……?」

「我が……粉末のものを買い込んだやつ。少し休憩にしない?」


 私の練習刀(れんしゅうがたな)魔術書(アルバ)に封じ込め、消滅させる。


 私、少し疲れた――休憩しよう。


 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢


「もしかして、寝れないのか?」

「あぁ、今日のことを考えすぎて眠れなくなってしまった」


 今日のことを思い出すだけで眠れなかった。

 エンデ・ディケイド――あんなヤツと今まで対峙したことがなかったからだ。

 禍々しいオーラが見えた。それに、生肉と卵が腐ったかのような匂い。


 ヴェールの明るく眩しい虹色のオーラとは真反対だった。


 私は確かにヤツを最後に切った。


 いや、切ったじゃない。――生まれて初めてキリエは人を()()()んだ。


 この境地を忘れたくない。

 だからきっと、眠れずにいたんだと思う。


「なんじゃ、今日のことなら忘れてしまえばいいのに――って言っても忘れられんか……」


 ヴェールを横目で見ながら用意してくれたポカリというものを飲んでいる。

 やさしく甘い味。だけれど、蜂蜜が溶けてないからか自己主張が強すぎる。


「そうじゃな……」


 でも、彼女らしくてよかった。やさしさがキリエにもしっかりと伝わってきてほっこりとした。


「忘れられないんじゃない。忘れられないんだ。ヤツを()()()感覚が忘れられないように身体に叩き込みたい。だから、眠れないんだと思う」


 私の右拳を強く握る。

 この感覚が忘れないうちに身体に叩き込んで――――ヤツよりももっと強くなる!


「我はキリエンに一つ聞きたい」

「なんだ……?」

「どうして、桜がある庭で素振りをしていた? グラウンドもあるじゃろうに。我は気になるな~」


「この庭の桜、初めて見たとは思えないくらいに綺麗だったんだ。なんだか、おばあちゃん()を思い出す。おばあちゃん家も桜が綺麗で咲いたら毎日、風と見ていた!」


 私はヴェールに興奮ぎみに話をしていたと思う。

 この感じ、このオーラ――おばあちゃん家にあった桜とほぼほぼ同じだと感じていたからだ。


「そうか、そうか! 我も好きなんじゃ、この桜。母が大好きで桜の枝を貰ってきてくれてこの庭に埋めた。無事に育ってくれたと思ったら1年中咲きおるようになってしまった」

「――凄いな!」

「凄いじゃろ~! 今も桜を見ると、どこかで母が見守ってくれているような気がする」

「母は死んでしまったのか……?」

「きっとどこかで異世界転生したと信じたい」


 ヴェールの顔が少し曇る。普段の明るすぎる彼女とは裏腹に、どこか悲しそうだった。


「それにしても、風と見ていたか……。キリエンは面白い表現を使うなぁ~!」

「そうなのか……?」

「風を友達みたいに楽しそうに喋るやつは初めてじゃ。面白い! よし! じゃあ、明日、我が稽古をつけてやる! 我の稽古は厳しいぞ! じゃから、キリエンもう寝ろ! 我も明日を楽しみにして眠る!」


 ヴェールが立つと私に向かって右手を伸ばしてくる。


 私は彼女の手を取り――――立ち上がった。


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