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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第三襲 虚幻相体編
31/85

虚夢 ――メタ・メア――


【ヴェール視点】


 親と一緒に異世界転移留学した時の思い出――。



 それはもう忘れられない思い出だった――永遠に。



 河川敷で母は元の世界に帰ろうと転移魔術装置の起動をしていた。


 

 我は母が真剣に描いた両手に抱えきれない絵本の原稿を抱え込んで、ありったけのこの世界のお土産を詰め込んだリュックサックを背負っている。

 手には母が愛したソメイヨシノという桜の木の枝を一本持っていた。



 母の名は――ヴェール・アストライア。



 偉大なるヴェール家の魔術師であり、異世界転移学の研究者であり、そして、笑顔が絶えない絵本作家だった。



 父はいたが――異世界に来てどこかにいった。



 母は心が痛んでいたと思う。



 我は本を読んでいたから分かる。絶対、不倫だ。



 でも、母は泣かなかった。



 いや、泣いている暇なんて無かったのかもしれない。



 そんな母は我をいろんな場所に連れていった。



 そして、いろんなものを見て、目の前のものを描いていた。



 ――真剣に。目に捉えたものを正確に。それに、なめらかな線で。



 車にバイクに新幹線、飛行機……高層ビルに携帯電話。



 生き物に迫力はないのが残念だったが、それでもこの世界の文化は我が生まれた世界にはないものすべてが幻想(ファンタジー)だった。



 そんな幻想(ファンタジー)を母は真剣に描いていた。



 絵本にして元の世界に別の異世界があることを伝えるために命を賭した熱い眼差しで。



 ――完成したらきっとみんなが楽しんでくれるはず。



 そう思うと、我は母のようにドキドキしたし、一人のファンとして誰よりも楽しみだった。



 あぁ、ようやく帰って伝えられるんだとワクワクしていると、謎の白い光現象を研究して転移魔術を応用して作られた異世界転移装置――通称【異世界の扉】が起動する。



 うるさく鳴り響く駆動音。これでも完成するまでは13回作ったと母は言っている。



 徐々に徐々に元の世界に帰る白い光が強くなってくる。しかし、背後も明るく感じる。



 どういうことだと後ろを振り返ると、トラックが我たち2人を轢き殺そうと迫ってきていた。



 トラックのクラクション音がけたたましく鳴り響き続ける。



 運転席を見ると――居眠りだった。



 轢かれそうになった寸前で母に突き飛ばされ――――



 ■ ■ ■ ■ ■


 ――ハッとして目を覚ます。


 見慣れた天井。

 見慣れた部屋。


 異世界転移装置と……そして、大事な母がいない。


「いつも我だけが元の世界に戻るのじゃな」


 久しぶりに我は夢を見た。それも()()ときた。


 額を触れば、べとべとした汗が流れ出て気持ち悪い。


 ――寝る気がうせた。


 あぁ……、なんかする……? やることあったけ……?


 そう思うと、身体を起こして、頭を掻いて考える。


 母が遺してくれた異世界の漫画が、読んでいないライトノベルが、まだやっていないゲームが莫大にある。


 それに絵も……。こればかりは母を思い出すからやめようか。


 試作のバイク型魔具(まぐ)の調整もしたい。異世界で見たデザインに我らが出来る幻想(ファンタジー)を詰め込んだ我専用の魔具。

 いつまでも魔女が箒乗って飛ぶと思うんじゃない。あんなデザインもクソもないもの乗ってたまるか。


 よし! そうと決まれば、布団を自らの手で剝ぎ捨て、ベッドから飛び降りる。


「よい……しょっ……と」


 我は着地する。

 我のベッドからフローリングまで結構、高すぎるのじゃが、それは過去の我がカッコつけすぎたからだ。


 おかげで足に魔力を集中しないと降りられなくなってしまった。


 あぁ、過去の我をぶん殴りたい。これでも高所恐怖症を克服したはずなのじゃが……。


 ふと、右脚の下を見るとゼネの顔があった。


「……ヴェールん……」


 気持ちのいい顔で眠っている。

 さっきまでディケのせいで悪夢にうなされるように寝ていたのにぐっすりと。


 危うく踏むところじゃった。踏んでしまったら、こやつの布団に取り込まれてしまう。しまいには破廉恥な攻撃を受けるじゃろう。


 ――我が危なかった。新たな性癖に目覚めさせられるところじゃった。


 ってか、枕を抱き枕にして、寝言で我の名を呼びながらキスしておるし。


 はぁ……っとため息を吐く。


 さて――完全に目が覚めてしまったし、何をしようか?


 依頼は昨日、終わったようじゃし、ゼネもお休みにさせた。

 マリーンは〈ニヤの尻尾〉跡地に一人で行くから絶対についてくるなと言っている。


 つまり、――明日は何もない! 依頼も来ない! サボりたい放題!



 ――――計画通り!



 楽しみが待つ地下室へ移動しようかとゼネを起こさないように部屋の扉を開ける。


 すると、外の桜が生える庭で誰かの声が聞こえる。


 気になって庭が見える窓まで行くと、

「403!」

 キリエンが素振りしている。風呂も入ったはずなのに汗水垂らして真剣な眼差しで。

 しかも、聞く限りでは400も振ったというのか。


「404!」


 予定変更!

 やりおるな! キリエン! 少し、ちょっかいをかけに行くか!

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