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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第三襲 虚幻相体編
30/85

戦火消沈 ――スタート・フォワード――


 あれからというもの――降りしきる雨はやみそうになかった。


 鳥も、龍も、人も――声が聞こえない。

 みんなが眠る深夜だから、声は聞こえず、静寂な夜と雨が全てをかき消している。


 そんな空間で街灯だけが(キリエ)たちを照らしていた。


 エンデの死体は腐りきったどころではない。既に灰となって雨水に流れている。

 こんな異常な遺体は初めて見た。

 ヤツの魔力がこもっていたから――と考えれば不自然ではないだろうが、それでもまだ、何か理由があって腐りやすいと私は考えている。


 本当にヤツは死んでいた……? もっと違う表現がある気がするが……。


 私たちがいた付近の道路は剣の魔術の雨を浴びせられて滅茶苦茶だ。

 赤土のレンガは割れていて、歩くにも歩きづらい。

 油断したら破片につまづいて転びそうだった。


 だから、ヴェールはギルド管理協会へ連絡。

 道路の処理と精神が崩壊してしまった馭者(ぎょしゃ)のケア。

 それと、明日のゼネの出勤をお休みするようにと頼んでいた。


 話を聞いている感じ、管理協会はたじろいでいるようだった。


 今日の追い剥ぎゴブリン討伐依頼完了の処理に【いせかいのとびら】現象の報告まとめ、それに私には視えない仕事が山のように隠れているだろう。


 ゼネは働きすぎだと思うし、いい機会だからゆっくり休んでほしいと思う。


「ふぅ……」

 連絡が終わり、ヴェールが一息吐いておもいっきり背を伸ばす。


「先、マーリンでいいか」

 すると、苦しそうに寝ているマーリンの元に行き、ゆっくりと座り込んだ。

 

「極光虚無魔術――【徐「光」(じょこう)】」

 彼女はマーリンの額にやさしく包み込むように額に手を置くと、魔術を発動する。


 手の平からキラキラとした虹の粒子が額に流れ込んでいくと、マーリンの表情はみるみるうちに穏やかな顔に変わる。

 落ち着いたからか、頭にピタリと張り付いていた耳は横に寝かせるため剝がれていった。


「無闇虚永魔術――【永「闇」】の効果か?」


「そうじゃな――魔術効果は¨対象者の魔力をコストに、対象者自身の心の「闇」を見させる¨じゃと思う。明日の朝には効力が切れ、起きるじゃろ」

「対象者の魔力をコストにって……――害悪じゃねェか!」


「効かないヤツもおるようじゃがな」


 ヴェールが私とアルムを見てくる。


 確かに――言われてみれば私も効いていないどころか、不思議に思うくらいに魔力が蘇ってきた。

 エンデに切りかかった時に驚いた顔でキリエを見てきたが、つまり、そういうことなんだろう。


 それよりもアルムが気になる。


 もしかして、私と同じ異世界転移者なのか……?


 ゼネ曰く、異世界から来た人はこの世界の魔術を否定する虚無粒子を持つと言っていた。

 だから、エンデの魔術をくらっても尚、寝なずに立っていられた。魔力はコストにされたようだったが。


 そうこう考えているうちに、ヴェールはハイネとゼネの【除「光」】を終えていた。


「そう言われたら、俺、効いてないぜ! やったー! ハイネよりも――」

「――それはアルがバカじゃかろう」

「おいっ! バカって言いやがった! このロリニートォ!」

「ロリニートとはなんじゃ! 今日はし~っかり一日中、働いとったぞ!」

「知らんがなっ!」


 ヴェールとアルムが軽口を叩き合っている。

「ふふっ……」

 なんだか微笑ましくて――キリエは笑っていた。


「なぁ~に笑ってるんじゃ」

「いや、なんだか平和が戻ってきたと思って……楽しいな」


 ヴェールが気づいてジト目でこちらを見てくる。


「なんじゃ、ようやく硬い心がほぐれてきたか」

「――ほぐさなきゃいけないのはお()ェの頭だよォ! そもそもなんだよ!」

「ちょっ、痛いっ! 痛いってアル! 我、徐「光」中! あっ、アル、全員運べる? 我、幼女じゃから! よろ!」

「――いや、『よろ!』じゃねェェェエ!」

「ぎぃぃいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!」


 ヴェールにアルムのぐりぐりで頭がこねくり回される。

 無情にもヴェールの叫びが静寂な雨の夜中に響き渡った。


 しばらくしてアルムは頭をかきながらだるそうにハイネとマリーンを持ち上げる。


「流石に2人は重てェな!」

「乙女に失礼じゃよ!」

「こっちも依頼終えてばかりなんだよ! ロリニートも少しは手伝え!」


 アルムがふぅ……と一息吐いてキリエに、

「すまねェ! キリエはゼネをよろしくできねェか?」

 と言ってくる。


「了解」

 私は地面で気持ちよく寝ているゼネを背中に抱えると、ヴェールが発動した転移魔術の空間に向かって脚を動かす。


 歩けば道が凸凹している。

 この道のようにこれからもどこかでエンデと戦うことになる。


 エンデの異世界転生教の仲間たちもきっといる。

 

 殺せないエンデは少し怖いが、それでも今は頼れる仲間たち(とも)がいる。


「キリエン、脚が遅いぞ! 風邪を引く前に帰ろう!」

「あぁ」


 拳を握りしめる――自分が進むべき道は目の前にあると信じて。


 ようやく、私たちは――ギルドへ帰宅した。


次回からキリエ修行EPです!

お楽しみに!

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