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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第三襲 虚幻相体編
27/85

¨終¨わりの男 ――エンデ・ディケイド――

「お前はムシャノ村を知っているか!」


 (キリエ)はエンデを睨むようにして言う。


 あの日――ムシャノ村が燃えた日に感じた風の怯え方が全くもって一緒だ。


 このざわめきかた――ヤツはただものじゃない!

 今――燃やされた真実があるかもしれない。

 だから、逃げれないし、逃げたくない。

 ――目の前にいる暗殺対象を絶対に逃がさない!


「ほぉ……、君がアヤメ・キリエちゃんだね!」


 エンデはニヤリと私を見ながら言う。

 ここまで見られて気持ち悪いと思ったのは初めてかもしれない。


「いやぁ〜、会いたかったよ! キリエちゃん! 今、一番名を上げている暗殺者だって? 驚いたよ! 暗殺者って人にバレないように殺すものだと思っていたからね! ――いや、創作物フィクションの中での話か!」


 1人で会話をし、1人で受け答え、シシシシと笑い続けるエンデ。


「お(めぇ)ェ、人に質問したのに自分が答えるとかバカかッ! 気色(わり)ィ!」

「いきなり会って、いきなり¨ちゃん¨付けで話すとかドン引きです!」


 アルムがエンデに叫んでも、

 ハイネがエンデに叫んでも、

 ただ、ししししっと大きく口を開けて笑い続けるだけ。


「キリエはお前に『ムシャノ村を知っているか!』と聞いている!」

 私は大きい声で叫んだ。


 すると、エンデは口からは舌を出し、右手で親指と人差し指を合わせて頬に置いた。

 ――コイツ、ふざけている!


「――魔術書(アルバ)ッ! 魔具召喚魔術……【旋風刃(せんぷうじん)】ッ!」


 考える時間もなかった。


 私は魔術書を出現させ、旋風刃を召喚する。

 手に持った刀を腰に据えて、左脚を後ろに下げ、腰を落とす。

 下段一閃腹切りの構え――答えなければ腹から真っ二つにしてやる。


「おぉ、怖い怖い」


 私自身を落ち着かせようとした。

 いや、¨無理¨だ。


 目の前にいるアイツこそが復讐相手かもしれないと思うと心臓が昂ってしまう。

 左腕の筋肉痛の痛みなんか吹っ飛んだ。痛いとか言っている場合じゃない!

 いつもよりも、いつも以上に腕に力が入る。

 私は……、私は今日、どうなっても――いい!


 今日、ここで切り殺せば――

「――キリエさん! アイツにどんなに煽られても! バカにされても! 落ち着いてください!」


 ゼネが右腕を広げ、私を制止する。


 そうだ。


 そうだ、私は昔と違う。

 今の私は仲間(とも)が近くにいてくれるから生きている。

 もちろん、死んでしまった村の人たちも、暗殺者として目覚めさせてくれた唯一の親友も。

 だから、――落ち着いて相手を追い詰める一手を探す!


「元彼女の忠犬みたいでいいね! 滑稽だ!」


 キリエが力を少し緩めると、エンデは笑う。


 すると、どこからかヒヒーンと鳴り響いた。


 この時間なら、マナ・リア交通馬車の馬の声。

 男が道のド真ん中に立っているから、馬が馭者に危険を知らしているんだ。

 籠車が4両。牽引馬が2匹。

 このままだと勝手に轢かれ、死ぬ。馬の力は人よりも強い!

 

「ペケ! ポケ! このままだと人を轢いてしまう! 馬は急には止まれない! お前! どいてくれ!」


 馭者の男が目の前の気持ち悪く笑い続けるエンデに向かって叫ぶ。


 男は馬に向かって右手を広げると、

「いいかい? キリエちゃんは一つ、勘違いしてる。あのド汚いド臭いドギツイ村は勝手に自滅したんだよ! こういう風にね!」



 ――ぐちゃり。



 鈍い音、骨が木端微塵に砕け散る音が聞こえる。


 エンデは無惨にも馬に轢き飛ばされ、そのまま馬車の車輪に巻き込まれてしまった。


 純血をまき散らしながら上半身が宙を飛んでいく。


 力を無くした下半身。

 口からは何も吐かず、目は虚ろ。


 ――轢殺。


 エンデ・ディケイドは馬車に轢かれ、あっけなく死んだ。


 あまりにもあっけなく。


 馬車からはけたたましいアラームの音が鳴り響く。


「あぁ……、俺……、目の前で人を――」

 馭者の男は席を離れると、2頭の馬を抱きしめる。


 きっと安全運転が出来るぐらい馬のコントロールが上手い人だったのだろう。

 だから、2頭の馬を使いこなせないと運転出来ない特急馬車を任されていたのだと考察する。


 しかし、たった今――人を馬車で轢殺した。


「すまんなぁ……、ペケ……、ポケ……。俺のせいで馬刺しになってしまうだよぉ……」


 私は気になったことがあった。

 目が充血している。2匹ともだ。

 きっと何かストレスが――さっき、エンデが何故、馬に手を伸ばしていたかがキリエに分からないからだ。



 不穏――嫌な予感がする。



「――ハイネさんッ! 灰魔術の準備をお願いします!」


 ゼネはハイネに向かって瓶を投げる。


「おおっと! キャッチ!」

 ハイネは慌てながらも瓶を両手で掴む。


「コントロールできなくても怒らないでくださいね! アルコール、切れたので!」

 コルクを取り外し、入っている灰を辺りにばらまいて、

「魔術書! (はい)魔術! 【灰被り(シンデレラ)】」


 ハイネが魔術を発動すると、身の回りの視界が灰色に染まっていく。


「デカい口をしてた割には、あまりにもあっけねェじゃんかよ!」

「霊体が見えます。それもおぞましく「生」きようとしている霊体が」

「はぁ? 何、言って」


「キリエさん、後ろ――」


 ゼネの声が耳を劈く。


 後ろを振り向くよりも先に、

「キリエちゃ~んのお望み通りに死んで上げたよ!」


 肩をポンとやさしく叩かれる。


 ――一瞬。


 あまりにも一瞬だった。


 暗殺者になってからは一度も背後を取られたことのないキリエが、訳も分からないままエンデに背後を取られた。

 とても気持ち悪い。背筋をなぞるようで吐き気がする。


「――くっそォ!」


 刀を男に向かって引き抜いた刹那、腹から左斜め上に切り裂いた。

 ハイネが創り出した灰色の世界が視界に消えていく。


「殺したか……」


 エンデは真っ二つとなり、地面に崩れ落ちる。


 今度は私の手で殺した。

 人を切り裂いた感触は確かにあった。


 しかし、――背筋に未だに走り続ける恐怖と憎悪が心を蝕む。

 胸がただ高鳴ったまま、キリエはヤツを殺したことを祈るだけしかなかった。


「キリエちゃん……」


 ふと、死にかけのエンデを見る。


「酷いじゃないか」


 今のは私の目に映るエンデから出た言葉ではない。

 前を見るために視線を上げると、何食わぬ顔でエンデがその場に立っていた。

 ――ヤツは傷なしで生きていたのだ。


「しっしっしっしっ……、しはっはっはっはっ! キリエちゃんは確かに僕を殺したよ! 確かに殺したッ!」

 高らかに笑うエンデはキリエを嘲笑するかのように聞こえてくる。

「キリエちゃん! 評価は-1億点! もっと創作物(フィクション)みたいにこそこそ隠れて殺さないと!」


 私は――――この後、どうすればいいか? どう動くか? 分からない。

 目の前で生きているヤツを見て、混乱していく。


「とは言え、これで目標達成したね! 暗殺辞めて――」


 どこからか光の球がエンデに向けて発射される。


 ヤツが光の球をよけると地面にぶつかった。

 すると、(まばゆ)い光の粒子(りゅうし)となり爆発する。


 機械(マシン)のような駆動音(くどうおん)が聞こえた方へ振り向くと、見たことない魔具がこちらに向かって走ってきていた。


 私がこの世界に来る前におばあちゃんの家で乗っていた車輪が3輪ついていた乗り物と似ている。

 正確に走ってくるものは2輪なのだが。

「――――うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおお! 全速前進!」


 この騒がしい声は間違いない――ヴェールの声!

 顔はヘルメットで隠れているから分からないが、身体から溢れ出る虹色のオーラは間違いないと確信する。


 後ろにはニヤ耳の少女が乗っている。

 この前、言っていた〈ニヤの尻尾〉の料理長の娘か。


 エンデは自動で走り続ける魔具に向かって轢かれようとする。


「マーリン! 頼んだぞ!」

「人使いが荒いニャ! 魔具召喚魔術!」


 マーリンと呼ばれるニヤ族の少女が右手を離す。

「【シー・ステルロッド】! よいしょニャ!」

 少女は釣り竿のような魔具を召喚して持つと、近くにあった標識を釣り上げた。


「ヒット! ぶち当たれェニャ!」

 ヴェールが乗る機械仕掛けの魔具がエンデをかわす。


 ¨止まれ¨――そう意味する標識がヤツの顔をおもいっきり強打した。


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