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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第三襲 虚幻相体編
25/85

【いせかいのとびら】現象

 (キリエ)は白い光を眺めていた。


 場所は――ホムラ姉ェが吹き飛んだ向こう側だろうか……。


 私をこの世界に誘った光。


 まるでおばあちゃんのように心が暖かった――そんな光。


 確か名は――。


「どうして……、今、【いせかいのとびら】現象が……」


 ゼネがふと呟く。キリエの頭をそっとどかして立ち上がった。


魔術書(アルバ)! 連絡魔術! 対象、半径3kmにいる〈ギルド管理協会役員〉!」

 突如、彼女は連絡魔術を発動する。この場にいるギルド管理協会の役員を対象にする。

「【いせかいのとびら】現象を確認! 推定ハザードレベル5! 総員、警戒準備! あの光に入る者はどんな手段をもってでも殺しなさい! 遺体も灰もなくなるように!」


 私をこの世界に誘った綺麗な白い光を、彼女は軽蔑する目で見ていた。

 いつも、静穏たる顔なのに、余裕が抜け落ちてしまっているようで……。


 ――怖かった。


 目から溢れ出る憎悪が恨みを語るように、或いは、悲しむように溢れ出ている。

 キリエは彼女は白い光で何かあったのだろうかと考えようとする頃、足音が聞こえてきた。

 ――脚に力を込めて大地を踏みしめるような足音。


 ゼネから顔を逸らすと、防護服のようなものに見に包まれた人がこちらに向かってきていた。

 

「いくら黒三ツ星クラスのゼネさんでも、今の私たちであれを対処することは――」

「至急、調査班はデータの収集を! 取れたデータは私が預かります!」

「しかしッ!」

「――しかしもだがしもあってたまりますかッ! 私たちギルド管理協会はこの世界の平和のために仕事をしているのです!」


 向こうでは森の消火活動をして空気が動いているのに、キリエたちの空気は止まっているように視える。


 こんなゼネの怒鳴り散らすような声色を聞くのは初めてだ。

 いつもは笑顔な百合眼鏡なのに……。


「私はゼネさんのように強くなれません……」

 彼はしかめた顔でこの場を走るように去る。

 オーラが悲しそうに青く暗く揺れていた。


「アイツ、凄く悲しそうだったな……」

 私はゼネに向けて言う。なんだか悲しい声色だったと思う。

 走って去っていったアイツのことを代弁して言わないといけない気がした。


「私たちはそういう仕事ですから」

 彼女は屈託のない笑顔で言い返す。でも、瞼の奥ではきっと笑った目をしていない。

 いつもの百合百合しく接してくる彼女を思い出してしまうと寂しく思えてしまう。


 思えば、私だって仕事人間だ。

 でも、ムシャノ村のみんなを苦しめ、そして、殺した犯人を追うために暗殺の仕事を受けていた。

 今、〈デイ・ブレイク〉にいるのもそうだ。

 ここにいたら答えが見つかると信じて


 私は仕事のために仕事をしているわけではないから、ゼネになんと言えばいいのか分からなかった。


「それにしてもブラックだな。ギルド管理協会は」


 アルムは言葉を選ばずにそう言う。キリエも心のどこかで思っていたのだが、ドストレートに言ってしまった。


「こらッ! 暴力女ッ! もっとオブラートにッ!」

「暴力女とは(ひで)ェなァ! 俺が思ったことそのまんま言っただけじゃねェーかよッ!」


 ハイネがアルムに突っ込む。でも、ハイネはハイネで遠回しにブラックだと言っていると思う。


「事実です。人々を守るために背負う仕事はこういうものですから」


 彼女は眼鏡をクイっと光らせてそう話す。


「一つ、聞きたい」

「何でしょうか?」


 私は疑問に思ったのでゼネに問いただすと、笑顔で応じる。


「あの光はそこまでして警戒しないといけないぐらい危険なものなのか……?」


 ゼネは間を置くように少し考えると、

「キリエさんはヴェールんの極光虚無魔術は見たことがありますよね」

「あぁ」

「対象にされた側は泡を吹いていたはずです。どうしてだと思いますか……?」


 彼女の質問からヴェールの名前が出てくる。

 あまりにも突然で、キリエは「あぁ」としか言葉を返せなかった。

 だが、思えばあの虹色の光――白い光と同じような暖かさを感じた。

 ヴェールは確か――

「――はいっ! はいはいっ! ヴェールが(ツエ)ェーから!」

「バカ丸出しっ!」

「そうですね。それもあります」


 アルムのノー天気すぎる回答とハイネのツッコミを耳にして、ゼネは肯定する。

 あまりにも軽快なツッコミっぷりに彼女は若干、引いていたと思う。


「だろ! やっぱ俺、頭いいなぁ~!」

「どこがですかッ! 長年、付き合えば本気出したヴェールさんが最強(チート)ってこと分かるぐらい――」


 確かに――ヴェールが扱う魔術を見て、最強と感じた。

 相手が発動した魔術を¨何もなかった¨と書き換える極光虚無魔術はこの世界に生きる人間にとって受けてしまったら強いはずだ。


 何故なら、生活の一部だから。

 当たり前のようにいつも隣にあったものが、ある日、消えてしまった場合、キリエはどう思うのだろうか?


 ――苦しむはずだ。


 そのような魔術が発動されたら弱いわけない。この世界で生きていけなくなるからだ。


「そうなんですよ。この世界において彼女はあまりに最強すぎる。まるで、世界まで嫌っているかのような――」

「――おいおいおいっ、なんだよそれ。まるで、この世界の人間じゃないみたいな言い方だな」


 ふと、ヴェールの言葉を思い出す。


「『我の姿は¨異世界転移¨への呪いじゃよ!』か」


 彼女は風呂場で『我の姿は¨異世界転移¨への呪いじゃよ!』と言って笑顔でシャンプー台にいってしまって、しばらくの間、髪をいたわるように洗っていた。相変わらず、シュシュは止めていたまんまだったのが気になるが、それよりもキリエは風呂に浸かりながら言葉の意味についてひたすら考えていた。

 風呂から立つ湯気を見ても、やけくそになって湯船に潜っても、これ以上はヴェールの過去を知らないと言葉の意味が分からない。


 私は人の過去を詮索するのが嫌いだ。湯船から出ると同時に諦めた。

 しかし、白い光と関係があるなら――キリエも知りたいし、知らなければいけない気がする。


「では、仮説を立てましょう――もし、私たちが使う魔術、いや、生きてる世界が幻想(イル)だとして、それらを信じない虚無(メタ)の世界があるとしたら……? ヴェールんの今の状態も説明がつく……」


 私の言葉を聞いた彼女はそう言うと、眼鏡を外す。


「私はこの幻想世界で封印せざるを得なくなってしまった異世界調査計画。通称、虚無幻想(メタイル)の研究文章を探しだして、【いせかいのとびら】の解明をしなければいけません。例え、この身が朽ち果てても――忌まわしい記憶に決着をつけるために……」


 ゼネの目尻から涙が落ちてくる。白い光に反射するように輝いて――光は失ってしまった。


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