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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第二襲 災炎嵐龍編
24/85

義妹と義姉 ――キャント・ビー・シスター――


 (キリエ)は――――殺してしまったのだろうか?


 あぁ、苦しい。


 心が――とても苦しい。


 真っ暗で何もない世界の中でジタバタと溺れるようにもがいている。


 苦しいからだ。


 崩れゆく洞窟の中で、吹き飛んでいくホムラ姉ェは笑っていた。


 ようやく優しくて暖かいホムラ姉ェと会えたのに――短すぎて心が苦しくて苦しくて。


 ムシャノ村を旅立たなければいけないぶりに――涙が出た。


 私は強くなった。


 強くなったはずだ。


 はずだった。


 目から涙がポロポロと。


 ポロポロと出てしまって。


 私は強くなんてない――心は弱いままだ。


 独りでいたいのも、人の心を知りたくなかったからだ。


 だから――私は弱い。


 私はホムラ姉ェみたいに強く暖かく優しくなれない。


 

「――――?」



 ふと、視界が明るくなる。


 周りを見ると、突然、ムシャノ村のいつもの木陰だけが広がって、ホムラ姉ェが膝をポンポンと叩いていた。


「ホムラ姉ェ……?」


「――――」


 そうか。


 そうか、これは夢なんだ。


 ホムラ姉ェが喋らないのもきっとキリエの中の夢だからと勝手に納得して……。


 今は甘えたい。


 こんな夢、初めてだから甘えたい。


 暗殺者になって初めて見る夢だから。


 そう思うと、早速、横になり、ホムラ姉ェの膝枕を堪能した。



「暖かい。ホムラ姉ェの膝は」


 私は思わず微笑んでしまう。


 太陽。


 彼女を現す言葉は太陽が相応しい。


「ホムラ姉ェ……」


「――――」


 何か喋っているようだったが何も聞こえなかった。


 彼女の顔もまた太陽に眩しすぎて見えなかったのだ。


 でも、そんなの関係ない。


 この膝枕の太陽みたいな感じ。


 紛れもなく¨本物¨。


 せめて、夢の中だけでは誰にも操られていないホムラ姉ェであってくれ。


「ねぇ? ホムラ姉ェ?」


「――――?」


 ふと、キリエはホムラ姉ェに言うと首を傾げる。


「私、ずっと寂しかったんだ。ムシャノ村のみんなが焼き殺されて、みんなの平和を守るために暗殺者になったけど、人のことが嫌いになってしまった。――せっかく仲良くなって友達になれたのに、何かがきっかけで死ぬかもしれないと思うと、怖かったんだ」


 私はいろんな思い出がふつふつと湧き上がるようにフラッシュバックする。


 この前、あった小さい女の子だってそうだ。


 女の子はキリエのほうをしっかり見て元気に手を振ってくれた。

 笑顔で挨拶をしてくれた。


 でも、¨殺されて無残な遺体になっていたら¨と想像してしまうとまともに見れなかった。


 私は暗殺者になってみんなの未来を守れているだろうか……?


「――――」


 ホムラ姉ェの声は何も聞こえない。


 だが、――私のことをやさしく肯定するように頭を撫でてくる。


「くすぐったいな」


 するとだった。


 膝枕で寝ていたキリエをやさしく起こす。


「……ホムラ姉ェ……」


 ホムラ姉ェは泣いていた。


 やさしく微笑むように――泣いていた。


 そうか。


 そうだったんだ。


 私はホムラ姉ェの願いを受け入れて、【嵐龍】をぶつけたんだ。


 ぶつけた後、『成長したね』とやさしく語りかけて――手が届かぬほうへ行ってしまった。


 知らないうちに私は……。


 認めたくない――顔も知らない馬の骨に操られてしまったホムラ姉ェに勝ったところで全然、嬉しくない。


 でも、私が――――殺してしまったんだ。


 これ以上、みんなが不幸になる前に。


「……キリエ……!」


 どこからか声がする。


「「キリエ……!」」


 キリエの名前を強く呼ぶ声。


「キリエ!」

「「キリエさん!」」


「――――」


 キリエのことを仲間だと思ってくれる¨友¨の声。


 キリエは待つ仲間の元へ行かねばならない!


 ホムラ姉ェならどんな時も、どんな状況でも、――――きっと背中を押してくれるだろうから。


 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦


 ふと、目を覚ますと、崩れ去った洞窟の入口でギルド管理協会の集中治療が受けているようだった。

 思えば、頭が痛い。肩が痛い。背中が痛い。腕が痛い。腰が痛い。足が痛い。

 ――はっ、全部か。


「……腹が……減った……」


 気が緩んだからか腹も痛くなる。相当な魔力を使ったんだろう。


「あっ、キリエさんが起きましたよ!」

「キリエ!」

「キリエさん!」


 隣を見渡せば、アルムにハイネ。

 それに、ゼネが駆けつけていた。


 ――ってか、ゼネに膝枕されながら治療受けられているし。


 空は紅く綺麗に染まっていて、崩れた洞窟側を見ると今も尚、燃え続けている森を消化しようと無人の魔飛具が空を飛んで水魔術を発動している。


 この森を傷つけた……いや、彼女の心からの悲鳴はもう少ししたら消されそうだ。


「キリエさん! 無茶しすぎです!」

「そうだぜ、俺の脚がなかったらお()ェ死んでたからなッ!」


 2人は必死の形相で私を見てくる。


 涙尻には綺麗な滴がポロリポロリと落ちていた。


「死んでた……――かァッ!」

 グフっ……てなる。

 突如、2人が抱きしめてきたからだ。


「本当に心配したんですからね……ッ!」

「本当に心配したんだからな……ッ!」


 痛い。

 今、抱き着かれるの痛すぎる。


 でも、逆に気持ちがよかった。


 あぁ、そうか。

 これが仲間になるってことか。


「私も本当に心配したんですよ! 連絡入っているのを見て、何事かって。急いで連絡したらハイネさんにどやされたんですよ! もぉ……」

「もぉ……はこっちだぜ! この百合眼鏡!」

「どうせ、百合眼鏡ですよぉ~! ねぇ、~キリエさん!」


 ――ぐきっと首に痛みが走る。


 ゼネが無理に脚を動かしたからか、首はバランスを崩してしまい、つんざくような痛みが広がる。


 どうやら、首も追加されたようだ。


「そういや、キリエさんが意識を失っている間、口をパクパクしてました。誰かと話をされてたのですか……?」


 思い出したかのようにハイネが聞いてくる。


「そうだぜ、キリエ、すっげぇーパクパクしてたんだよ!」


 アルムもだ。

 2人が好奇心に満ちた表情でキリエに聞いてくる。


「そうだな……。強いて言うなら『行っておいで』って背中を押された……か……」

「『背中を押された……か……』って誰にだよ」

「そこですよっ! キリエさんってば隠しごと多すぎですよっ!」

「キリエだって乙女の秘密……、一つや二つくらいある」

「じゃあ、俺の乙女の秘密! 俺の勝負パンティー、赤パンティー!」

「ちょっと、流石にそれは品がなさすぎですよ! ってか言ってる時点で隠し事じゃないですか!」

「ハイネのパンティーも知ってるぜ! エメラルドグリーン!」

「ちょぉぉぉおっとォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ――ッ!」


 はぁ……っとため息を吐く。

 あまりにもバカげた会話だったからだ。


 それでも、仲間(なかま)を持つこと、友達(とも)を持つことってこういうことなんじゃないかと思う。

 ホムラ姉ェが背中を押してくれた大切なたった独りだけのキリエ。

 今を大事にしてキリエは友達とともに生きていきたい。


「そうだ……、依頼が終わったなら三人でご飯食べに行きたい」

「だな、ハイネの奢りで!」

「ちょぉぉぉおっとォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオオ――ッ!」

「よろしければ経費で払いますよ」

「流石に経費はまずいので、私が払います! プライベートにしましょう!」


 ふと、崩れた洞窟側の空を見上げると、眩いほどの白い光が差す。


 かつて、私をこの世界に誘った不思議な白い光に似ていた。


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