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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第二襲 災炎嵐龍編
15/85

残される「モノ」 残されぬ「モノ」 ――ウォー・エンド――

【ヴェール視点】


魔術書(アルバ)!」


 我が〈ニヤの尻尾〉に着いたときには遅く、轟轟と紅く燃えて廃墟になりかけていた。

 意識を失い倒れるキリエは微かな息はあるようで、唯一の救いだ。


 さて、――問題は目の前にいる仮面のおなごである。


 おそらく、キリエはあやつと戦ったのだろう。


「あら……、〈極光(きょくこう)魔女(まじょ)〉が何故、ここに……?――前戦を引退したと聞いたけど……?」


「我はその称号()は捨てたはずなのにな……」


 おなごが焦るように後退りする――額から飛び出る一粒の汗が熱に光るように照らし出され、焦りが見えた。

 見たところ外の絶対防御壁(バリケード)は彼女が召喚したものではない。

 別の第三者がおなごに協力しているというのか。


「それとも――『いせかいのとびら』を描いた〈ヴェール・アストライア〉は貴方……?」


 おなごが息が切れるような声でそう言う。


 ヴェール・アストライア――いや、今の我に必要のない救えない名前だ。


 煌びやかな我の瞳に静かな怒りの光を灯して――堪忍袋の尾が切らす!


「さて……、貴様はこれから2択を選ぶことになる」


 我の慈悲であやつに問いただす。


「なにかしら――?」

 迅速に両腕の二刀を投げると、魔術書に吸い込まれるように紅く燃えながら消滅していく。

 おなごは自分に勝ち筋があるかのような表情で口を歪ませながら、我を睨むように見つめてくる。


 仮面の奥から蛇のような睨みがひしひしと伝わってくる。


 あやつ、我をカエルとして認識しているのか。


 だとしたら、――我は舐められたものだな!


「一つは、我に大人しく捉えられるか……」


 おなごは睨むように後退りしていく。我はただひたすら睨むような眼で視線を追いかける。


 まるで――獣と獣がぶつかり合っているかのようなにらみ合いはその場の空気を震わせているようにも感じる。


「二つは、我に無理やり捉えられるか……」

「私は選べないし、選ばないわ! 何故なら――」


 おなごは艶やかな両手の手のひらを音が鳴るように思いっきり合わせる。仮面の覗き穴が紅く漏れるように光輝く。

 食堂に鳴り響く手の平の音は震わせた空気を破壊すると、おなごが発動していない魔術がいつの間にか発動していた。


「そして――」

「――貴女の負けね!」


 見れば見るほどの光を通さない真っ黒な混沌があやつの中心から包んでいく。


 一か八か――発動者も巻き込むッ!


極光虚無(きょくこうきょむ)魔術――【()(こう)」】!」



 ――辺りが虹のような明るく眩しい光に包まれるも、ドス黒い瘴気は徐々に徐々に大きくなり、小さくなっていった。



 最後には消滅してしまい、仮面のおなごも姿跡形も何も残さずどこにもいなくなってしまった。


 轟轟と燃えていた魔力を持つ炎をかけ消しただけ――何者かが発動した魔術だったのだろうと推測して、辺りを見渡してもどこにもいない。


 ただただ、灰が舞い上がった食堂を見つめるだけだった。


 我は地面に倒れている焼け焦げてしまった遺体に触ろうとする。


 しかしだった。


 灰となってその場で崩れてしまって……。


「来たらいつも通り食べられるかと思ったんだけど……残念極まりないな……」


 心が苦しめられるほど苦しかった。


 我は右手を力強く握りしめる――大好きでギルドを立ち上げる前はよく通っていたのに、心もないものの襲撃によって見るも見たくもない焼き焦げて無残な姿になってしまって……。


 悲しくてやるせなくて――心が傷んだ。


 後ろからアルムとハイネが駆けつけてくる。一般市民の避難が終わったのだろう。


「大丈夫でしたか?」

「我は……大丈夫」


 アルムとハイネは我の顔を見て、悲しい気持ちを察した表情をする。

 こやつたちもよくこの食堂にきては無茶苦茶やっていたからだ。


 アルムは腕相撲で筋肉もりもりの男たちを自慢の筋肉強化魔術で勝手に片っ端から倒しにいってた。


 ハイネは店の酒をありったけ飲み干して、その場で寝てしまい、翌日、起こされて帰ろうとしたところ入り口で吐きに吐いた。


 好き勝手やって2人ともニヤ族の店長に怒られているところを後ろで我がゲラゲラと笑っていて。

 そしたら、『2人の責任者だからお(メェ)もこれから怒るんだぞ』と。

 しばらくして、3人で土下座した。

 

 もしかして、――ここにろくな思い出がないんじゃ……。


 それでも、バカなことを我ら3人でやって最高の思いだった。

 キリエはちょっと真面目かもしれないが、これからいい思い出をここでも作っていけると思っていただけに残念だった。


 ポケットからお気に入りの綺麗に輝くシュシュを取り出す。

 美しく虹色に輝く髪を綺麗に1本に結ぶと成人体型からキラキラと煌めくように幼女体型に戻った。


「ふぅ……」


 ようやく大人体型から解放されて一息吐くと、静かに寝ているキリエのほうに向かって歩く。


「キリエンをギルドに運ぼう……! お疲れ様じゃったな……!」


 まずは頑張って一人で戦ってくれたキリエを落ち着かせよう。

 大儀であった。

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