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異世界転移ノ魔術師々  作者: 両翼視前
第一襲 独捨仲入編
1/85

異世界転移の暗殺者 ――アヤメ・キリエ――

2022年9月21日、読みやすくなるように本文を訂正しました。



 月が(きら)めきだす頃、(キリエ)は暗殺依頼と救出依頼を遂行していた。


 依頼内容は少女を拉致する愉快犯の暗殺と被害者の救出依頼。ついに少女連続失踪事件の犯人が分かったらしい。

 ギルド管理協会受付嬢のゼネ・コントルから『マナ・リア最高裁判所から死刑判決が出たからちょちょいと殺しつつ、行方不明の少女一人救出してくださいね』と。

 だから、私は今でも抜け落ちそうな朽ちた廊下をただひたすら走っている。


 それに廊下には力抜けた少女たちが辺り一面に寝転がっていた。

 ……おそらくは失踪した少女たちだろうか……? 体格的に幼く感じられる。

 よく見れば、心臓があった部分だけぽっかりとえぐられたかのような穴が開いていて――彼女たちは虚ろな目だった。

 事実、ギルド管理協会からは少女行方不明の依頼が毎日来ていたとゼネから聞いていたし、同時に少女の捜索依頼が出ていた。

 

 もっとこの世界の人が悲しまずに死ぬ世の中になってもいいはずだ。


 そう思っていると、部屋から二つの魔力オーラが見えた。


 一つは、陽炎のように揺らめいている小さいオーラ。

 このオーラこそ今回、救出しなければいけない少女のオーラなのだろう。


 問題はもう一つのデカくて汚いオーラ。

 吐瀉物のように吐き気がして気持ち悪かった。


 少女が傷つけられる前に――――早急に対処する!


魔術書(アルバ)!」


 左腕に魔力を込めて魔術書を出現させる。

 風魔術で扉を切り刻む。私の目にぐるぐる眼鏡をした大柄な太った男とすやすやと床で眠る少女が映った。


「おや、お客さんかい? しかも、お嬢ちゃん」


 暗殺対象が私の全身を舐めるように見る。

 足のつま先から髪のアホ毛まで。

 気持ち悪かった。それに対象からヘドロのような気持ちが悪くなる悪臭がした。

 こんな状況なのに少女はよく眠れるなと関心する。


「今日のワイは二人もヤれるなんてラッキーだぜぃ!」

 対象は野獣のような眼光を飛ばしてニヤリとバカにするように笑う。


 気持ちを落ち着ける。

 

 みんな――私は今日も力を借りる!


魔具召喚魔術まぐしょうかんまじゅつ旋風刃(せんぷうじん))】」

 呪文を唱えながらページを破る。

 すると、腰から風が強く吹き上げ、【旋風刃】という刀を召喚させて腰に据えた。


「なぁ、お嬢ちゃん。ギルドからの刺客だろ!」

 大柄な男が床で眠る少女を力強く掴む。

 男はナイフを取り出すと、今でもすやすや穏やかに眠る少女の腹に突きつけた。

「だったらよォ……、隠れて行動しなきゃこうなっ――」

「お前はムシャノ村を知っているか……?」

「はァ~? ムシャノ村ァ~? 知らねェよ! そんなド田舎ァ! 魔術書ァ!」

 大柄な暗殺対象が魔術書を負けじと出現させた。


眠魔術(ねむりまじゅつ)! 【催眠の波紋線(スリーピング)】!」

 男が眠魔術を発動する。

 眼鏡から波形の光線が私に向かってくる。


 ――面白い。これが眠魔術というものか。

 ならばと思うと、腰を落とす。

 左脚を後ろへ、右手から【旋風刃】に魔力を込める。


 呼吸を一つに整え――一気に吐く!


「消えろ、刃! 【旋風せんぷう)(まい)】」

 刀を勢いよく一気に引き抜く。

 ひゅるひゅると風の音が鳴ると、既に刃は()()()()()


「よく見たらその刀、刃がないじゃねェか! これでワイを殺しに来たっていうのかい!?」

 男のふとましい腕が力む。

 そして、ナイフを少女に――

「魔術発動」

 私は魔術を発動する。

 刹那――男のナイフと右腕が吹き飛んだ。


「なっ……、何が起きた……」


 右の壁には男のナイフと私が発動した(かぜ)(やいば)が突き刺さっている。

 少女が床に落ちる。


「……痛い……っ! お嬢ちゃん……、何を……した……!」

 男は切り落とされた腕を腕を抑える。オーラが怯えるかのように揺らいでいた。


「これから対象に風の刃が切り刻む! 少女たちの苦しみを味わえ!」

 私がそう言うと、溶けていた残りの六本の風の刃が男を目掛けて襲い掛かる。


 ――一本は左手首へ。


 ――もう一本は右脚へ。


 頭でここに動いて切ってくれと願うと、風の刃はそれに答えるように動いてくれる。


「なっ……何をしているんだと聞いている……!?」


 左手首から、右腕、左脇、右脇腹、そして、首を風の刃は切り刻んでくれる。


 裁けぬ怒りを! 今まで犠牲にあってきた人の分の憎しみを込めて!

「――切る!」



 【旋風の舞】が発動限界を迎える。


 発動していた八本の風の刃が微風が吹くように元の旋風刃の方へ戻っていく。

 使っても大体八秒が限界の旋風刃の魔力反応――私の脳に負担がかかるからこれぐらいが限界だった。


 男から風の刃で切った切り口から綺麗な鮮血の泉が鮮やかに吹き上がる。

 頭が静かにポトリと落ちると、連鎖するように身体がバラバラに崩れ落ちた。


「終わっ……た……」


 疲れが一気に身体にくる。

 このまま旋風刃を出していると魔力を吸われる一方だから、魔術書の中へ消滅させた。

 すると、破いたページも戻ってくる。


 ふと、天を見上げる。

 天井が朽ちているおかげで隙間から月が見えた。


 依頼が終わった私をやさしく照らしてくれているようで少し気持ちが落ち着く。


「キリエは……平和のために戦えているだろうか……?」


 今もすやすやと眠る少女と遺体がいる部屋で私は呟く。


 考えても仕方がない。

 まずは気を失っている少女を安全な場所へ移動させよう。遺体を片付けるのはそれからだ。


♢ ♢ ♢ ♢ ♢


 ドンっとドラム缶の中に左腕を放り投げる。

 これで頭を除いて全部、燃やせれただろうか……?


 バチバチと燃える音がする。


 私はグローブを外して近くの川で手を洗うと、ようやくマロリーメイトをかじれた。


 屋敷の被害者たちもどうにかしてあげたかったが……こればかりはギルド管理協会にお願いするしかなさそうだ。


 少女の顔を見る。


「キリエも穏やかに眠れたらどれだけよかったのに……」

 おめでたいことにぐっすりと静かな吐息を吐いて眠っていた。本当に永遠じゃなくてよかったと安堵する。


 あれから、二年。

 ギルド管理協会から試験を受けてようやく依頼を受けられるようになった。

 私は依頼を受けていく中で……きっと……どこかでムシャノ村が燃やされた真実を探せるだろうと思い、暗殺の依頼を中心に引き受けてきた。

 悲惨な現場を見て、救われない気持ちになることの方が沢山あった。


 ……でも、今回は大きな事件が起きていたなんて知らない純粋無垢な少女を見て、気持ちが救われた。

 叶うならば少女がこの事実を知らないままでありますようにと願って空を見上げる。


 ――ようやく()が昇る。


「……よし!」


 私にとって綺麗な朝日は苦手だが、少女を探している両親のことを考えると背に腹は代えられない。


 暗殺対象の遺体を燃やしていた炎を消す。


「魔術書!」

 私は魔術書を出現させて、暗殺対象の生首を中へ消滅させた。

 ちゃんと殺したことをギルド管理協会に報告せねばならない。


 眠っている少女を抱いて、ギルド管理協会に届けようと歩き出した。


【プロフィール】


アヤメ・キリエ

(漢字で書くと¨妖眼切依¨)


性別:女性

年齢:16歳

血液型:A型

身長:158cm

体重:46kg

誕生日:6月6日

所属:無所属(フリーランス)

使える魔術:風魔術(中級は一通り)、???

所有魔具:【旋風刃(せんぷうじん)

好きなもの:美味しいもの全般(甘いものは特に)、朝寝、星を見ること

嫌いなもの:人混み、両親、朝仕事すること、ムシャノ村を燃やしたヤツ


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