冬の国
冬の国
ねえ、 ここが冬の国……やっぱり寒いわ、 首元が。 わたし、 いつの間に氷のヘビを首に巻いたのかしらね……しゅるしゅるしゅる。
ひ! 姫さまがあの美しく長い髪を切ってしまわれたからですぞ! や! 短くてもその細氷きらめく美しさは変わりませんが……。
ええ、 もういいの、 髪はまた伸びてくるもの。 それに濡れてもすぐ乾くし、 動きやすいし、 旅にはちょうどいいわ! ただ、 冬の国では、 懐かしくなるわね、 あの長さも、 ええちょっとだけ。
ふむ、 姫さま、 そりゃ装備が、 我々は夏の国仕様ですからな、 まさか一気に冬の国へ来ることになるとは、 体もまだ気温の変化に慣れていませんぞ、 ぶるるる……おお、 おお……赤い血も青ざめるようなこの冷気。
ええ……そうね、 動きましょう! ね、 動いていればあたたかくなるわ! でも、 声が聞こえないのね、 いままでは声が、 あの声が、 わたしたちを案内してくれたのに。
ふむ……姫さまだけに聞こえる声なんでしょうな。 あっしに聞こえるのは、 憂うつな北風の口笛だけで!
ねえ、 冬の間の入り口はどこにあるのかしら? それとも、 今までのように入り口のようなものはどこにもないのかしらね。
ふむ! なんせ気がつけばそこにいて、 気がつけばここにいて、 びゅ、 びゅんと、 あっしらあちこち飛ばされ放題! ……これも精霊王の力なんでしょうかね?
ええ、 でも精霊王たちは、 精霊王の力を外に宿しているのよね? あの指環のように。
ふむ……と言っていましたが! な、 実際はどうでしょう? 伝承の話も、 どこまで信じていいのやら。
あら、 でもわたしたちが、 春の精霊王から春の指環を借りて、 おかげで季節の国に春はまためぐってきたでしょう?
ふむ! おかげで、 なんでもない季節の国、 から、 春だけの季節の国、 になりましたな!
ね、 だから指環の力は信じて良いんじゃない?
ふむ! ま、 それは事実ですが、 それにしてもあの精霊王たちの…………いかにもわたしが精霊王です……の繰り返し、 あれは何とかなりませんかね。
うふふ、 ねえ、 精霊王の真似をして彼らをからかうのはおやめなさい? うふふ、 それは少し、 気になるけれど………あ、 また、 声、 声が、 聞こえる…………!
ふむ? お! また? あっしには何にも! (二人、 体が少し浮き上がる)
わああああああ!!